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パート・アルバイトでも厚生年金に加入できる?加入要件を紹介

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日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2つから成り立っています。国民年金は、日本に居住する20歳以上の人に加入が義務付けられていますが、厚生年金に加入するには一定要件を満たした会社で働かなければいけません。これからパートやアルバイトで働くことを検討している人のなかには、厚生年金に加入するための要件について知りたい人もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、厚生年金への加入要件や2016(平成28)年に改正された社会保険制度について解説します。また配偶者がパートで厚生年金に加入した場合に、どれくらいの年金額が上乗せされるか、シミュレーションも紹介するので参考にしてください。

012016(平成28)年に社会保険制度が改正

厚生年金の概要について知るには、2016(平成28)年に行われた社会保険(厚生年金保険・健康保険)制度改正の内容を理解しておくことが重要です。それまでの社会保険の加入要件は「週30時間以上働いている人」でしたが、2016(平成28)年10月1日からは「従業員501人以上の会社で週20時間以上働いている人」も加えられました。さらに、2017(平成29)年4月からは、従業員500人以下の会社で働いている人も、「労使間で合意」すれば社会保険に加入できるようになりました。

詳しい加入要件については後述しますが、改正によって従来よりも社会保険に加入するハードルが下がったといえます。さらに2020(令和2)年5月29日「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」 (年金制度改正法)が成立し、こうした社会保険の適用拡大の傾向は一層顕著になっています(施行は2022[令和4]年10月1日、詳細後述)。

日本で社会保険に加入するハードルが徐々に下がっている背景には、「働き方の多様化」が関係しています。従来、夫の扶養の範囲内で就労するために、主婦層などでは働く時間を一定内で抑えていることがありました。しかし近年、女性や高齢者が働き手として定着しているほか、多様な働き方をする短時間労働者もいることから、社会保険もこうしたことへの対応の必要性が認識されるようになりました。

社会保険制度の改正は、これまで厚生年金に加入できなかったパートやアルバイトといった人たちも社会保障の恩恵を受けやすくなっています。厚生年金のより詳しい情報を知りたい人は、下記の関連記事もチェックしてみてください。

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02パート・アルバイトが社会保険に加入するメリット

社会保険の制度改正は、パートやアルバイトで働く人にもメリットがあります。そこで、パートやアルバイトで働く人が社会保険に加入することで得られるメリットについて解説していきます。

将来受け取る年金額が増える

パートやアルバイトで働く人が厚生年金に加入することで、将来受け取る年金額が増える可能性があります。なぜ、厚生年金に加入したら受け取る年金額が増えるかというと、日本の公的年金制度は2階建てになっているからです。日本の公的年金制度は1階部分に国民年金(基礎年金)があり、2階部分に厚生年金があります。

厚生年金加入者は加入する年金組合等が国民年金の保険料を負担するため、厚生年金保険料を支払うだけで国民年金加入者でもあるとみなされます。つまり、老後に年金を受け取るときは、国民年金の老齢基礎年金に加えて厚生年金の老齢厚生年金も受給できるのです。

また、支払う保険料が勤務している事業所と折半である点もメリットです。保険料が全国民一律の国民年金と異なり、厚生年金はもらっている給与に対して一定の料率で支払うため、給与が多い人ほど支払う保険料(上限あり)と受給できる老齢厚生年金の両方が増える仕組みになっています。しかし、保険料は雇用主である事業者と折半で支払うため、加入者が実際に納める保険料は、全体料率である18.3%の半分の9.15%です。全額自己負担しなければいけない国民年金に比べて、金銭的な負担は相対的に軽減されます。

万が一、働けなくなったときの給付が上乗せされる

日本の公的年金制度には、原則65歳からもらえる老齢年金以外にも障害年金や遺族年金が用意されています。普段から意識することはあまりないかもしれませんが、実は障害年金や遺族年金も老齢年金と同じように2階建ての制度になっており、要件を満たせば厚生年金加入期間の報酬に見合った金額が上乗せされるのが特徴です。

例えば、障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2つがありますが、国民年金加入者は障害基礎年金しか受給対象になりません。それに対して、厚生年金加入者は支給要件を満たせば障害基礎年金に加えて障害厚生年金も支払われます。しかも、障害年金は障害の程度に応じて等級分けされており、障害基礎年金ではより障害の程度の重い「障害1級」または「障害2級」しか受給対象になりません。一方、障害厚生年金ではより軽度の障害の「障害3級」があるため、受給対象になる範囲も広いという特徴があります。

また、遺族年金も2階建ての制度になっている点は障害年金と同様で、厚生年金加入者は遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金も受給できる場合があります。遺族厚生年金も、遺族基礎年金より受給対象者が幅広いというメリットがあります。例えば遺族基礎年金は子どものいない妻は受給できませんが、遺族厚生年金では受給対象になります。

医療における給付も手厚くなる

社会保険に加入することで得られるメリットは、年金だけではありません。社会保険に加入すると、雇用主である事業者が加盟する健康保険組合にも加入することになります。国民健康保険との違いとして挙げられるのは、「傷病手当金や出産手当金制度などがあり、保証が手厚くなる」点です。

傷病手当金や出産手当金は病気やケガ、出産が原因で仕事を一定期間以上休んだ場合に支給され、いずれも本来もらっていた給与の3分の2程度のお金を受け取れます。これらの制度は原則、国民健康保険にはないので、万が一のことを考えると安心できる要素のひとつでしょう。

そのほかにも、健康保険組合には扶養制度があるのも大きなメリットです。国民健康保険には扶養制度がないため、原則として家族でも世帯の人数分の保険料を支払わなくてはいけません(上限あり)。それに対して、健康保険組合なら被保険者1名分の保険料で、扶養の範囲内である子どもや配偶者、親などまで保険の範囲に含めることができ、所得によっては世帯あたりの保険料総額を抑えることが可能です。さらに、支払う保険料は厚生年金と同じく事業所と折半になっているため、自己負担割合が少なくなる点もメリットといえます。

ただし社会保険へ加入するデメリットも!押さえておこう

社会保険に加入すると、年金・健康保険の双方でメリットがあります。しかし、加入することによるデメリットがまったくないわけではありません。社会保険に加入するデメリットとしてまず挙げられるのは、「手取り額が減る可能性がある」ことです。

社会保険に加入すると、支払う保険料は毎月の給与からの天引きになります。保険料は事業主と折半ではあるものの給与から差し引かれるため、これまでと同じ勤務時間では加入前に比べて手取り額は減るでしょう。社会保険に加入しても、これまでと同様の手取りを得るためには、労働時間を増やすなど、年収をこれまで以上に上げる努力をしなければいけません。

パートやアルバイトの人が手取り額について考えるときに、大切なキーワードは「年収106万円・年収130万円」と「年収153万円」です。まず、年収106万円については、一定要件をすべて満たすと社会保険に加入する要件になる「1カ月当たりの給与8万8000円」を年収に換算した金額になります。つまり、年収106万円を超えて社会保険に加入する会社で働くと、保険料の支払いによって手取り金額が減る可能性があるので注意しましょう。また、社会保険制度を適用していない会社で働く場合でも、年収130万円を越えると本人が社会保険(その場合は、国民年金・国民健康保険など)に加入しなければなりませんので、手取り金額が減る可能性は同様に注意する必要があります。

一方、年収153万円というのは、社会保険料を納めても年収130万円未満(社会保険料未加入)の時と比べて、一般に世帯の手取り額が「増える」金額の目安です(夫の合計所得金額が900万円以下、夫が会社員なら年収1095万円以下の場合)。そのため、これまで社会保険未加入だった人が社会保険に加入し、さらに手取り額まで増やそうと思うと、月収でおよそ13万5000円以上(保険料が差し引かれる前の金額ベース)を目指さなくてはいけません。働き方にもよりますが、なかにはここまで働くことが難しいと感じる人もいるのではないでしょうか。

また、もうひとつデメリットとして考えられるのは「配偶者がもらっていた配偶者手当などの支給要件から外れるケースがある」点です。会社によっては独自に「配偶者」や「子どもの数」などに応じて、手当を支給していることがあります。しかし、そうした手当を支給する場合、「所得税の課税対象になる年収103万円未満」や「扶養に入っている人」などの要件がついているケースがほとんどです。勤務者本人が手取り額を増やそうと働くあまり、そうした要件から外れてしまい、配偶者の収入が減少する恐れもあります。社会保険に加入するべきかを考えるときは、世帯単位で気を付けることも大切かもしれません。

このように社会保険に加入するとメリットだけでなく、デメリットもあります。社会保険に加入すると受け取る年金額が増えたり、より多くの保障が受けられたりするので将来的なメリットは大きいでしょう。しかし手取り額が減るケースでは、現時点の家計だけを考えるとデメリットになってしまうので、社会保険への加入を躊躇する人もいるかもしれません。そこで、厚生年金に加入すると将来的にどれくらい年金がもらえるか、シミュレーションを次段落で紹介します。

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03パートの厚生年金加入で夫婦の年金受給額はどのくらい変わる?

今回のシミュレーションは妻がパート勤め(社会保険加入)、夫の職業が自営業と会社員の場合の2パターンあります。

<シミュレーションの前提条件>

  • 夫婦ともに65歳

■妻

  • 国民年金:20歳から50歳まで加入し、30年間保険料を納付
  • 厚生年金:50歳から60歳まで10年間加入、平均標準報酬月額10万4000円でパート勤務 保険料納付期間合計:40年間(全額納付)

■夫

  • 自営業の場合:国民年金:20歳から60歳まで加入し、40年間保険料を全額納付
  • 会社員の場合:厚生年金:20歳から60歳まで40年加入、平均標準報酬額40万円

■老齢厚生年金計算式

2003(平成15)年3月以前と同年4月以降で異なりますが、今回は、すべて2003(平成15)年4月以降の計算式「平均標準報酬額×5.481÷1000×勤続年数×12カ月」で試算しています。

【夫が自営業の場合】

年額163万1802円=老齢基礎年金78万1700円×2人+妻・老齢厚生年金6万8402円

【夫が会社員の場合】

年額268万4154円=老齢基礎年金78万1700円×2人+夫・老齢厚生年金105万2352円+妻・老齢厚生年金6万8402円

どちらのシミュレーションでも老齢基礎年金は、満額(2020[令和2]年4月分からは1人78万1700円)が人数分受給できます。厚生年金の加入期間も、国民年金の保険料は厚生年金組合から支払われるため、国民年金の保険料未納期間はなく、夫婦2人とも満額支給の対象になります。

一方、夫が厚生年金に加入していたか否かで、大きな差が出ました。夫が自営業で厚生年金未加入の場合は、妻が10年間加入していた期間分の老齢厚生年金6万8402円(10万4000円×5.481÷1000×120カ月)しか受け取れません。それに対して夫が会社員として働いている場合は、夫の老齢厚生年金も支給されるため、自営業の場合と比べて年間トータルでは約100万円も増える結果となっています。

ただしここで注意しておきたいのは、今回紹介したシミュレーションで受給総額が最も多くなった「夫が会社員」の場合でも、公的年金の収入だけでは老後の平均支出をカバーできない可能性があることです。総務省統計局「2019年 家計調査 家計収支編」によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の毎月の平均支出は27万928円で、年額では325万1136円となり、夫が会社員の場合の年金受給額268万4154円を上回っています。

老後の年金収入を少しでも増やしたいなら、妻の働く年数や労働時間を伸ばして厚生年金の受給額をアップさせるのも選択肢のひとつになります。

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04パート・アルバイトの社会保険加入要件

前述したようにパートやアルバイトの人でも厚生年金に加入することで将来受け取る年金額が増え、老後生活が安定しやすくなります。そこで、社会保険への加入要件について整理しておきます。

かつては社会保険に加入するには、いわゆる「4分の3基準」に該当するかどうかが目安となっていました。4分の3基準とは「1週間の所定労働時間および1月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3を超えるかどうか」です。しかし、2016(平成28)年10月1日の社会保険制度改正によってその目安が変わりました。

新たに加入対象者となったのは、主に「4分の3基準に満たない従業員や事業主など」です。それらの人たちは次に示す5つの要件すべてに合致する場合に限り、社会保険に加入できるようになりました。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金が8万8000円以上
  3. 勤務期間が1年以上見込まれる
  4. 学生以外
  5. 従業員501人以上の企業に勤務している

ただし、それぞれの要件で注意点があります。1の所定労働時間に、残業時間は含みません。また、2の月額賃金が不明な場合は、「時間給×週の所定労働時間×52週÷12カ月」で計算します。

3の勤務期間については、当初の雇用期間が1年未満である場合も雇用契約書などに契約更新される旨が記載されていれば加入要件は満たします。2020(令和2)年5月29日の年金改正法により、2022(令和4)年10月からは、フルタイム被保険者と同様に「2か月超」の要件が適用されることになります。4の学生とは夜間や通信、定時制の学校に通っている人は含みません。

なお、5の従業員数については2017(平成29)年4月から「従業員500人以下の会社で働いている場合でも、労使間で合意すれば社会保険に加入できる」と改正されました。ただし、労使間で合意する前提として、「従業員の2分の1以上の同意」が必要です。その上で事業主が年金事務所へ申し出を行います。さらに、2020(令和2)年5月29日の年金改正法により、2022(令和4)年10月からは「従業員数100人超(101人以上)の会社で働いている場合」、2024(令和6)年10月からは「従業員数50人超(51人以上)の会社で働いている場合」に社会保険の適用が開始されます。

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05将来の年金受給額を増やすためにも厚生年金の加入を検討しよう

パートやアルバイトの人も社会保険に加入することで、受け取る年金額が増えたり、働けなくなったときの保障が手厚くなったりするメリットが得られます。社会保険料を支払うと就労時の手取り額が減るというデメリットはあるものの、今回のシミュレーションで紹介したように年金受給額が増えるのは老後の生活には大きなメリットになるでしょう。これからパートやアルバイトで働くことを考えている人は時給だけでなく、社会保険に加入できるかどうかも考慮した上で勤務先を探してみてはいかがでしょうか。

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岩永真理

監修:岩永真理

IFPコンフォート代表、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®、住宅ローンアドバイザー

プロフィール

大手金融機関にて10年以上勤務。海外赴任経験も有す。夫の転勤に伴い退職後は、欧米アジアなどにも在住。2011年にファイナンシャル・プランナー資格(CFP®)を取得後は、金融機関時代の知識と経験も活かしながら個別相談・セミナー講師・執筆(監修)などを行っている。幅広い世代のライフプランに基づく資産運用や住宅購入、リタイアメントプランなどの相談多数。


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