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もしものときに備えたい遺族年金の仕組みと受給額をチェック

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もしも家計を支える一家の大黒柱が亡くなってしまったら、遺族は精神面のみならず家計の面でも大きな苦しみを味わうことでしょう。そのようなときに、少しでも家計の負担を減らす目的で創設されているのが「遺族年金」です。この記事では、遺族年金の基本的な仕組みやその受給額、受給要件などを詳しく解説します。

01遺族年金ってどんな年金?

遺族年金とは社会保障制度のひとつで、国民年金もしくは厚生年金に加入している被保険者(かつて被保険者であった人も含む)が亡くなったときに支払われる年金です。簡単にいうと、一家の収入源である人が亡くなったときに生活が苦しくなる遺族を助ける制度で、故人によって生計を維持されていた人が受給資格を持っています。

遺族年金で受給できる金額は、加入していた年金の種類や納付状況が大きく影響します。また、受給要件のひとつである「生計を維持されていた人」については明確な定義があり、その条件から外れる場合は受給できません。

「生計を維持されていた」とみなされるためには、「住民票上故人と同一世帯、あるいは同一住所であるとき、または住所は異なるが現に起居を共にし、かつ消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき」などの生計同一の要件に加えて、「給付を受けようとする者の前年の収入が年額850万円未満、または所得が年額655万5000円未満」という収入要件の両方を満たすことが必要です。生計同一要件については、「別居中でも仕送りがあった」「健康保険の扶養親族であった」などの事実があれば、遺族年金の受給が認められるケースもあります。

そもそも日本の公的年金とは?おさらいしてみよう

遺族年金の受給額は、公的年金の加入状況に大きく影響を受けます。まず前提として日本の公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建てであることは理解しておきましょう。1階部分にあたる国民年金は20歳以上60歳未満のすべての人に加入義務がある年金で、「基礎年金」とも呼ばれます。保険料は一律で毎年見直しが行われ、令和2年度においては1カ月あたり1万6540円です。自営業者や学生、無職といった国民年金のみの加入者は「第1号被保険者」といいます。

一方、年金の2階部分にあたる厚生年金はサラリーマンなどの一定条件を満たした事業者と雇用関係にある人が加入する保険です。保険料は雇用主である事業者と折半で拠出しますが、そのベースとなる金額は給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に決められた保険料率をかけて算出するため、基本的に収入が多い人ほど納める保険料と受給額の双方が多くなります。

厚生年金加入者は加入している年金保険制度(厚生年金・共済など)が国民年金の保険料を支払っているので、国民年金(基礎年金)と厚生年金を受け取れます。会社員のように国民年金と厚生年金の両方に加入している人を「第2号被保険者」、その人に扶養されている専業主婦(主夫)などのことを「第3号被保険者」と呼びます。なお第3号被保険者の国民年金保険料は、第2号被保険者が加入する年金保険制度が納める仕組みで、第3号被保険者自らが支払う必要はありません。

このように日本の公的年金制度は大きく分けて2つあり、加入者は第1号から第3号に区分されることを知識として覚えておきましょう。遺族年金もこうした一般的な年金制度の上に成り立っていて、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあります。故人が加入していた年金の納付状況により、いずれかまたは両方の年金が受給できる仕組みです。遺族年金を受け取るには、そのほかにも受け取る人の年齢や優先順位といった細かい要件があるので、次の段落から解説していきます。

遺族基礎年金

遺族基礎年金は、国民年金の被保険者だった人の遺族が受給要件を満たしている場合に受け取れる年金です。受給できるのは「故人に生計を維持されていた子どものいる配偶者またはその子ども」です。ここでのポイントは配偶者が受給資格を得るためには「子どもがいる」ことが条件になっている点です。詳細については後述しますが、子どものいない配偶者は寡婦年金や死亡一時金の対象になる反面、遺族基礎年金は受給できません。

対象となる子どもの要件については、「18歳到達年度の末日を経過していない子」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子」です。故人が亡くなってから、子どもが年齢要件を迎えるまでが受給期間になります。

一方、遺族基礎年金が支給されるのは、「被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき」です。また死亡日の前日において、「故人の保険料納付期間(保険料免除期間を含む)が加入期間の3分の2以上ある」ことも条件になります。ただし、65歳未満の人が2026(令和8)年4月1日より前に亡くなった場合、死亡日の前日時点で死亡した月の前々月までの1年間に保険料の滞納がなければ受け取ることは可能です。

遺族基礎年金で受け取れる金額は定額制となっており、2020(令和2)年4月分からは年間で「78万1700円+子どもの加算」です。子どもの加算部分は、「第1子および第2子が各22万4900円」、「第3子以降は一人あたり7万5000円」になります。なお、遺族基礎年金は条件さえ満たせば、妻が亡くなった場合にも夫が受け取れる点も覚えておきましょう。

一定の条件のもと、60~65歳の妻は、寡婦年金を受給できる場合があります。詳細については後述します。

遺族厚生年金

遺族厚生年金は、もともと厚生年金の被保険者であった故人の遺族が受給要件を満たしている場合に受け取れることができる年金です。具体的には、「被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで初診の日から5年以内に死亡したとき」に受け取れます。ただし、遺族基礎年金と同様に「保険料納付期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上ある」「65歳未満の人が令和8年4月1日より前に亡くなった場合、死亡日の前日時点で死亡した月の前々月までの1年間に保険料の滞納がないこと」が条件です。それらに加えて、「老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者」や「1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者」が亡くなったときも受給対象になります。

受給できる遺族は「故人に生計を維持されていた妻や子ども、孫」だけでなく、「55歳以上の夫、父母および祖父母」も対象(受給は60歳から)となっており、遺族基礎年金に比べてかなり幅広いのが特徴です。ただし、これらの人たち全員が受給できるわけではなく、あらかじめ優先順位が以下のように決められています。「①配偶者(夫は55歳以上)および子ども、②55歳以上の父母、③孫、④55歳以上の祖父母」の順番です。

対象となる子どもや孫の年齢要件も遺族基礎年金と同様に「18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者」です。要件を満たしている子どもや配偶者は遺族基礎年金と併せて受給できます。

受給できる年金額については故人の保険料納付期間に基づくのはもちろん、それまでに支払った保険料によって異なる仕組みです。計算式はかなり複雑なので、ここでは説明しませんが、気になる人は日本年金機構のサイトで確かめるとよいでしょう。

遺族基礎年金と遺族厚生年金の大きな違いは、「子どものいない妻」でも受給できる(子どもがいない30歳未満の妻は5年間のみの受給)点です。また、遺族基礎年金は条件さえ満たしていれば年齢に関係なく夫が受け取ることも可能でしたが、遺族厚生年金は「妻を亡くした夫が55歳未満の場合」は受け取ることができません。

遺族厚生年金は受給対象者の年齢によって異なる!

遺族厚生年金の受給内容は、年齢によって異なります。まず、妻に関しては30歳以上の場合、子どもの有無に関係なく一生涯受給できることは覚えておきましょう。一方、30歳未満で子どもがいない妻は、受給期間が5年間に制限されています。また、妻の年齢が40歳以上65歳未満で「受給要件に該当する子どもがいない」「子どもの年齢が遺族基礎年金の受給要件を満たさなくなり受け取れなくなった」という場合は、中高齢寡婦加算の対象です。中高齢寡婦加算の詳細は後述しますが、対象になれば65歳になるまで年間58万6300円が遺族厚生年金に加算支給されます。

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02遺族年金の受給額をシミュレーションしてみよう

遺族年金は誰がいつ受給対象者になるかによって、受給金額が大きく異なるのが特徴です。そのため現時点でもらえる金額をその都度試算する必要があり、受給年齢がほぼ確定している老齢年金とは異なり、受給金額を一般化するのは難しいといえます。しかし万が一に備えて、ある程度の金額を把握しておきたい人もいるでしょう。そこで、この段落では遺族年金の受給金額を「子どもがいる場合」と「子どもがいない場合」で、それぞれシミュレーションしたので参考にしてください。

「子どもあり」の場合で遺族年金をシミュレーション

まず、シミュレーションの条件として「会社員(第2号被保険者)の夫(平均標準報酬額:30万円、厚生年金加入月数:平成15年4月以降で300月未満)が死亡」したと仮定します。亡くなった夫が第2号被保険者であることから、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方で受給対象になりますが、遺族基礎年金の受給額は子どもの数で変動する点には注意しなければいけません。

このケースで子ども1人とした場合にもらえる遺族年金の受給月額の目安は合計11万4714円(遺族基礎年金8万3883円+遺族厚生年金3万831円)です。また子どもが2人になると合計で13万3456円(うち遺族基礎年金10万2625円)、3人の場合では合計で13万9706円(うち遺族基礎年金10万8875円)という具合に、子どもの人数に応じて遺族基礎年金部分が増えていきます。

なお、遺族厚生年金には「25年のみなし加入措置」があり、加入月数が300カ月未満でも300カ月とみなして計算するようになっています。例えば7年(84カ月)しか加入していない人でも、25年間(300カ月)加入しているとみなして受給額を計算するので、加入期間が短い人には安心な仕組みです。

「子どもなし」の場合で遺族年金をシミュレーション

上記と同様に、「会社員(第2号被保険者)の夫(平均標準報酬額:30万円、厚生年金加入月数:平成15年4月以降で300月未満)が死亡」した場合に、子どものいない妻が遺族年金を受け取るケースをシミュレーションします。まず、子どもがいない妻には、遺族基礎年金は支払われません。妻が受け取る遺族厚生年金は、妻の年齢によって変わるのが特徴です。妻の年齢別に見ていきましょう。

<妻が30歳未満>

遺族厚生年金は、5年間の有期年金で、月額3万831円

<妻が40歳未満>

遺族厚生年金(月額3万831円)と中高齢寡婦加算(月額4万8858円)の合計月額7万9689円

<妻が65歳以上>

中高齢寡婦加算の支給はなくなりますが、代わりに自分自身の老齢基礎年金が受給できるようになります。令和2年度の老齢基礎年金(満額と仮定し月額6万5141円)と遺族厚生年金(月額3万831円)の合計月額9万5972円

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03合わせて覚えておきたい「寡婦年金」と「死亡一時金」とは?

遺族年金は遺族の生活資金として頼りになる存在ですが、すべての人がもらえるわけではありません。しかし、自営業などの第1号被保険者の遺族のなかには、寡婦年金や死亡一時金が受け取れるケースもあるので内容についてしっかり理解しておきましょう。

寡婦年金

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、寡婦とは「夫のいない女性」を指します。寡婦年金は「死亡日の前日時点で、自営業などの第1号被保険者として国民年金保険料を納めた期間(保険料免除期間を含む)が10年以上ある夫が老齢基礎年金または障害基礎年金を受けずに死亡した場合に、10年以上婚姻関係にあり、生計を維持されていた妻」であることを条件に60~65歳まで支給される年金です。その名のとおり、仮に配偶者である妻を亡くしても、その夫は受給対象にはなりません。

対象になると、本来夫が受け取るはずだった老齢基礎年金の4分の3を妻が受け取ることができます。ただし老齢基礎年金を繰り上げ受給している場合は、受給できませんので気を付けましょう。

そのほか遺族厚生年金にも、残された妻がもらえる年金制度には「中高齢寡婦加算」があります。こちらは、40歳以上65歳未満の間(遺族基礎年金の受給期間は除く)に年額58万6300円が遺族厚生年金に加算してもらえる制度です。中高齢寡婦加算も妻のみが支給対象になり、妻を亡くした夫は受給できません。

死亡一時金

死亡一時金は遺族基礎年金が受給対象外となってしまう、「子どもがいない配偶者」が受け取れるお金です。死亡日の前日までに自営業などの第1号被保険者として国民年金保険料を納めた月数が36カ月以上ある人が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった場合、生計を同じくしていた遺族に支給されます。ただし遺族厚生年金と同様に、受給者には優先順位が決められており、「1.妻(夫)、2.子ども、3.父母、4.孫、5.祖父母、6.兄弟姉妹」の順番です。また、寡婦年金を受けられる場合はどちらか一方しか受給できません。

死亡一時金で受け取れる金額は保険料の納付月数に連動しており、12~32万円の範囲で決定されます。なお死亡一時金には時効が設けられており、死亡日の翌日から2年以内となっているので、対象になる場合は忘れないうちに住所地の市区町村役場や近隣の年金事務所で手続きをしましょう。

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04遺族年金は年金の加入状況によって受給額が異なる

遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金に分かれており、それぞれ受給要件が異なります。それらの細かく定められた要件を満たさなければ、受け取れないケースもあることは想定しておかなければいけません。安定した生活を営むためには、万が一のこともしっかりと頭に入れておく必要があります。将来的にどれくらいの生活費がかかるかを把握したい人は、サイト内にある「老後のお金シミュレーション」でチェックしてみてください。

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岩永真理

監修:岩永真理

IFPコンフォート代表、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®、住宅ローンアドバイザー

プロフィール

大手金融機関にて10年以上勤務。海外赴任経験も有す。夫の転勤に伴い退職後は、欧米アジアなどにも在住。2011年にファイナンシャル・プランナー資格(CFP®)を取得後は、金融機関時代の知識と経験も活かしながら個別相談・セミナー講師・執筆(監修)などを行っている。幅広い世代のライフプランに基づく資産運用や住宅購入、リタイアメントプランなどの相談多数。


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