老後資金としても有用?リバースモーゲージとは?
自宅を担保にお金が借りられるシニア向けの融資制度「リバースモーゲージ」。近年、老後資金確保の手段として注目されていますが、具体的にはどのような仕組みで、どのような人に適した融資制度なのでしょうか?今回はリバースモーゲージの概要やメリット・デメリットを解説するとともに、同じく自宅を活用した資金調達の方法である「リースバック」の概要についても紹介します。
01リバースモーゲージとは?
リバースモーゲージとは、所有している自宅を担保にして、これまでどおり住み続けながら、金融機関からお金を借りることができるシニア層向けの融資制度です。
日本では、リバースモーゲージはもともと、自宅は所有しているものの現金収入が少なく、生活が苦しい高齢者のための社会福祉政策の一環として一部の自治体が行っていた融資制度がルーツとされており、今では銀行や信用金庫などの金融機関が独自の商品を提供しているほか、独立行政法人住宅金融支援機構でも金融機関と提携して「リ・バース60」というリバースモーゲージ型の住宅ローンを提供しています。また、一部の都道府県では社会福祉協議会が高齢者を対象にリバースモーゲージの仕組みを使った融資を行っています。
細かい条件は金融機関や商品によって異なりますが、リバースモーゲージの大まかな仕組みは、次のとおりです。
- 利用者は自宅を担保に入れ、金融機関から自宅の評価額に応じた金額の範囲内で融資を受ける
- 利用者は自宅に住み続けながら、原則として毎月利息分のみを返済する
- 利用者の死後、担保になっている自宅を売却し、ローンの元本を返済する
ここでは、金融機関が提供するリバースモーゲージについて、詳しく見てきましょう。
借入限度額
リバースモーゲージの借入限度額は、担保(ローン利用者の自宅)の評価額の範囲内で金融機関が判断するためケース・バイ・ケースですが、一般的には評価額の5~6割程度であることが多いと言われています。つまり、自宅の評価額が2000万円の場合は、1000万~1200万円までの融資が受けられる可能性があるということです。
対象年齢と審査
リバースモーゲージはシニア層を対象にしたローンです。対象年齢は金融機関によって異なりますが、おおむね50~65歳以上とするケースが多いようです。
利用するにあたっては、金融機関による審査を受けなくてはなりません。審査内容や基準は各金融機関によって異なり、特に公表されていませんが、担保となる不動産の資産価値が低い場合や利用者の信用情報に問題がある場合は、審査に通りづらいと言われています。
資金の使い道の制限
一般的な住宅ローンは原則として、借り入れた資金の使い道を住宅の取得費用に限定していますが、多くのリバースモーゲージでは使途に制限がなく、生活費やレジャー資金、リフォーム代など好きな目的のために使うことができます。ただし、住宅金融支援機構の「リ・バース60」のようなリバースモーゲージ型住宅ローンの場合は、一般の住宅ローンと同じく、使途が住宅の取得費用やリフォーム代金、高齢者施設への入居一時金など、住宅関連資金に限定されています。
金利と返済方法
一般的なリバースモーゲージでは変動金利が適用され、半年に1度、金利の見直しが行われます。金利は金融機関によって異なりますが、2021年3月現在はおおむね年利4%前後のところが多いようです。
毎月の返済は一般的には利息分のみで、元本分は利用者の死亡時に、貸主である金融機関が担保である利用者の自宅を売却し、その売却益が返済に充てられます。
ただし、一部の金融機関では利息を元本に組み入れ、元本・利息とも死亡時に一括返済とするタイプの商品(元加型リバースモーゲージ)を扱っています。元加型では毎月の支払いがありませんが、借入可能額が少なくなります。
一般的な住宅ローンとの違い
住宅ローンは融資を受けた後、元本と利息の返済が始まるので、順調に返済を続ければ時間が経つにつれて残債が減り、最終的には完済されますが、リバースモーゲージは借り入れた分の残高を最後にまとめて返済する仕組みなので、「逆=リバース」と呼ばれています。
このほか、住宅ローンとリバースモーゲージとの違いをまとめると、次のようになります。
住宅ローンとリバースモーゲージの違い
住宅ローン | リバースモーゲージ | |
---|---|---|
利用可能年齢 | 一般的に20歳以上70歳未満 | 50歳~65歳以上 |
借入金の使途 | 原則として住宅の新築・購入費用 | 原則として制限なし |
返済方法 | 原則として元本+利息を毎月返済 | 原則として毎月の返済は利息分のみ |
担保 | 利用者が購入する住宅 | 利用者が現在住んでいる自宅 |
金利 | 固定金利または変動金利 | 変動金利 |
02リバースモーゲージで借入金を受け取る3つの方法
リバースモーゲージによる借入の方法は金融機関や商品によって異なりますが、受け取り方には大きく分けて「年金方式」、「一括方式」、「極度額方式」の3つがあり、それぞれ次のような特徴があります。利用する場合はどの方式で借りるのがもっとも自分に適しているのかを考えた上で借り入れをするようにしましょう。
年金方式
一定期間、毎月定額を借りる方式。年金のように毎月決まった金額が振り込まれるので、融資を生活費として使いたい場合に向いています。
一括方式
契約時に融資限度額を一括して借り入れる方式。リフォーム費用や高齢者施設入居費用など、まとまった支出に充てたい場合に向いています。
極度額方式
融資限度額までなら、必要に応じて自由に借り入れができる方式。「今は必要ではないが、万が一のために融資枠を持っておきたい」という人に向いています。
03リバースモーゲージのメリットとデメリット
ここまで見てきたとおり、さまざまな特徴があるリバースモーゲージですが、主なメリット・デメリットとして次のような点が指摘されています。メリットだけでなくデメリットについてもしっかり確認し、リスクを理解した上で利用するかどうか判断するようにしましょう。
リバースモーゲージのメリット
自宅に住み続けながら融資を受けられる
老後の生活費が足りない場合や一時的にまとまったお金が必要になったときに、自宅を売却したり明け渡したりすることなく、自宅を担保に融資を受けることができます。
毎月の返済負担が軽い
一般的な住宅ローンの場合は毎月元本と利息を返済しなければならないので、現金収入がない、あるいは少ない高齢者にとっては大きな負担となります。住宅ローンを借り換え、リバースモーゲージ型にすると毎月の返済は利息のみ、もしくはゼロなので、家計への負担を抑えることができます。
配偶者が契約を引き継げる
原則としてリバースモーゲージは利用者本人の死後、金融機関が担保である自宅を売却して元本の返済に充てる仕組みになっていますが、利用者に配偶者がいる場合、自宅を売却されると住む場所を失ってしまうことになりかねません。そこで金融機関の多くは利用者本人の死後、配偶者が連帯保証人として返済を引き継げる仕組みを採用しています。契約時に配偶者を連帯保証人にしておけば、利用者の死後も配偶者が安心して自宅に住み続けることができます。
資金の使い道が自由
前述のとおり、住宅ローンと違い、一般的にリバースモーゲージによる融資は使い道が限定されていません。したがって、自宅のリフォームはもちろん、老後の生活費や医療費、高齢者施設への入居一時金など必要に応じて自由に使途を決めることができます。
リバースモーゲージのデメリット
他のローンにはないメリットもあるリバースモーゲージですが、一方で次のようなデメリットも指摘されています。利用する際にはメリットだけではなく、デメリットのリスクも理解した上で判断するようにしましょう。
長寿リスクがある
人生100年時代、日本人の平均寿命も延び続けています。寿命が延びること自体は喜ばしいことですがリバースモーゲージで借りられる融資には上限があるので、老後資金をリバースモーゲージによる融資だけに頼ってしまうと、想定よりも早く限度額まで使い切ってしまい、生活が困窮してしまうおそれがあります。
金利変動のリスクを受ける
リバースモーゲージには変動金利が適用されることがほとんどで、市場金利が上昇すると毎月の返済額が増えてしまうおそれがあります。
マンションは対象外とされることが多い
リバースモーゲージでは主に土地の値段を基準に評価額を決定するため、その担保対象の多くは土地付き戸建て住宅です。土地の持ち分が少ないマンションは対象外とする金融機関が多く、融資が受けられる場合も、戸建てよりも厳しい条件が課されるケースが多いようです。
配偶者しか同居できない
金融機関にもよりますが、「融資後、自宅に同居できるのは配偶者のみ」とされているケースがほとんどです。
推定相続人の同意が必要な場合がある
リバースモーゲージでは、利用者本人が亡くなると担保としていた自宅は金融機関によって売却されるため、自宅が相続財産として残りません。したがって、利用者が子どもなど相続人になる予定の人(推定相続人)にリバースモーゲージを利用していることを伝えていないまま亡くなると、金融機関との間でトラブルになりかねません。このため、リバースモーゲージの契約時に、子どもをはじめ推定相続人全員に同意を義務付けている金融機関が多くなっています。
自宅の評価額が下落するおそれがある
リバースモーゲージの融資限度額は自宅の評価額によって決定されますが、評価額は定期的に見直されることになっていて、場合によっては大きく下落することがあります。最終的に借入金は利用者の死後に自宅を売却して返済することになりますが、その際に自宅の価値が大きく下がっていると売却益が融資額に届かないおそれがあり、その場合、差額を相続人が支払わなくてはならなくなってしまいます。
04リバースモーゲージ、向いているのはどんな人?
このように様々なメリット・デメリットがあるリバースモーゲージですが、リバースモーゲージの利用に向いていると考えられるのは以下のような人たちです。
老後資金に不安がある人
自宅を所有していて住む場所には困らないものの、貯金や現金収入が少なく、「公的年金だけでは老後の生活が不安」という人には、年金方式で受け取るタイプのリバースモーゲージの利用が向いています。
相続人がいない人
相続人がいない人や、自宅を子どもに遺す必要のない人も、リバースモーゲージを利用することで死後の自宅の始末についての不安や心配から解放されます。
住宅ローンの負担を減らしたい人
定年後も住宅ローンの返済が終わっていない場合、毎月の返済は家計の大きな負担になってしまいます。リバースモーゲージ型の住宅ローンに借り換えれば、返済は原則として利息のみになるので、月々の負担を抑えることができます。
高齢者住宅への入居を考えている人
高齢者住宅への入居には、高額な費用がかかります。リバースモーゲージでまとまった資金の融資を受ければ、貯金を全額使わなくても入居費用を支払える可能性があります。
05老後資金を作るもう1つの方法「リースバック」
「リバースモーゲージを使ってみたいけど、ローンを組むのには抵抗が・・・」という人は、同じく自宅を活用した資金調達の方法として注目を集めている「リースバック」を検討してみても良いでしょう。
リースバックは自宅を金融機関や不動産会社などに売却して代金を一括で受け取り、その後はリース料(家賃)を金融機関等に支払いながら、自宅に住み続けることができるサービスのこと。売却するので自宅の所有権は失ってしまいますが、自宅に住みながらにしてまとまった資金を受け取ることができる上、ローンを組む必要もないため、「これ以上、ローンを増やしたくない」という人に向いています。
リースバックのメリットとデメリットを説明します。
リースバックのメリット
リースバックのメリットには以下のようなものがあります。
- ローンを組まずにまとまった資金を得ることができる
- 買主を探さずに済むので、比較的早く売却益を手にすることができる
- 売却後も自宅に住み続けることができる
- 年齢条件がない
- 固定資産税や火災保険の負担がなくなる
- リバースモーゲージでは対象外になりやすいマンションでも利用できる
- いったん売却した自宅を将来、買い戻すことも可能
リースバックのデメリット
リースバックには以下のようなデメリットがあります。
自宅の所有権を失う
自宅の所有権は売却先の金融機関等に移ります。したがって、自宅を担保にローンを組んだり、死後に子どもなどに相続したりすることができなくなります。
売却価格が相場より安くなる傾向がある
リースバックを利用して自宅を売却した場合、売却価格が相場よりも安くなる傾向があると言われています。
リース料(家賃)を支払わねばならない
売却後も自宅に住み続けることができますが、毎月、所有者である金融機関等に一定のリース料(家賃)を支払わねばならなくなります。なお、年間のリース料(家賃)の目安は売却価格の8~10% と言われており、周辺の家賃相場よりも高めに設定されてしまうこともあります。
リバースモーゲージとの違い
リバースモーゲージとリースバックの主な違いをまとめると次のようになります。いずれにもメリット・デメリットがあるので、利用する際は、ファイナンシャルプランナーなど専門家の意見も聞いて、どちらが自分や家族の希望に適しているのか、よく比較検討して決断するようにしましょう。
リバースモーゲージ | リースバック | |
---|---|---|
所有権 | 本人 | 売却先に移る |
利用者の年齢条件 | 下限あり(例55歳以上など) | なし |
家族の同居 | 配偶者のみ | 可能 |
対象物件 | 原則として一戸建て(マンションは対象外のことが多い) | 制限なし |
固定資産税の納税者 | 本人 | 売却先 |
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。
関連キーワード