日銀が追加利上げに動く可能性は?トランプ再選と住宅ローン金利の関係
住宅ローン金利は日銀の金融政策や国内景気だけでなく、海外の政治動向に左右される部分もあります。2024年11月6日に行われたアメリカ大統領選挙は共和党候補のトランプ前大統領が再当選する結果となり、その影響で翌7日の国内債券市場では長期金利が3カ月ぶりに1%を超えたほか、外国為替市場で円相場が一時1ドル=154円台半ばまで円安ドル高が進みました。 一時的とはいえ、急速に円安ドル高が進んだことで市場では、来年2025年1月の会合で日銀がさらなる政策金利の引き上げを行うのではないかという憶測が流れています。そこで、この記事ではトランプ前大統領の再選を受けて、日銀の金融政策がどう変化し、住宅ローンや日本経済にどのような影響を及ぼす可能性があるかについて解説していきます。
01トランプ再選が日本経済にどんな影響を及ぼすのか?
2024年11月7日の国内債券市場では、新発10年物国債の利回りがおよそ3カ月ぶりに1.016%の水準まで上昇したうえ円安・ドル高も進行するなど、前日に行われたアメリカ大統領選挙の結果が大きな影響を及ぼしました。それを受けて、今後のアメリカの政策次第では日銀がやむをえず早めに政策金利の追加利上げに動く可能性も指摘され始めています。
なぜ、アメリカでトランプ前大統領が再選したことで、日銀の追加利上げが予想されるようになったのでしょうか。まずは、トランプ前大統領の再選が日本経済に及ぼす2つの影響について解説します。
影響1:アメリカ経済の活性化で円安ドル高が進む
トランプ前大統領が再選したことで、まず影響があると思われるのが為替で、具体的には円安ドル高が進む可能性が高いと考えられます。なぜなら、トランプ前大統領は減税やインフラ投資といった経済政策の推進を公言していたからです。それらの政策を推進することでアメリカ経済が活性化すると海外投資家のドル購入意欲が増し、その結果ドルの価値が上がって相対的に円の価値が下がる、つまり円安ドル高が進行しやすくなります。
実際にトランプ前大統領の前回の大統領就任時にも、そうした政策が評価されて、いわゆる「トランプラリー」と呼ばれる現象が起きました。当時は1ドル=約100円から1カ月あまりで1ドル=118円程度まで円安ドル高が進んでいます。2024年12月上旬時点では、これほど急激な為替変動は起きていませんが、今後似たような現象が起きるかもしれません。
また、為替は各国の金利差の影響も受けています。なぜ、金利差が為替に影響するかというと、投資家は利回りのよい通貨を求めることが多いので、一般的に金利の高い通貨ほど人気が出て価値が高くなるからです。2024年11月時点で、日米間の政策金利差はアメリカのほうが日本よりも4.5%ほど高く、それも円安ドル高につながっています。これほどまでに金利差が広がったのは、アメリカで激しいインフレが起こっていたからです。
アメリカで政策金利を決定する権利を持つ米連邦準備理事会(FRB)は、金利を上げれば企業や消費者がお金を借りることが難しくなるので、それによって景気を抑えて物の価格が下がるのを期待して高い金利を維持してきた経緯があります。2024年に入ってからはインフレが落ち着き、アメリカも政策金利を徐々に引き下げると市場関係者の間では噂されていました。しかし、先述のトランプ前大統領の経済対策が実行されると景気がよくなってインフレが再加速する恐れがあるため、金利上昇圧力が再び高まり円安ドル高が進むのではないかと推測されるわけです。
仮に円安ドル高が進行すると、日本にとって主に以下のような影響があると考えられています。
- 輸出企業の利益増加
- 輸入コストの増加
- 物価上昇の可能性
まず、1つ目の輸出企業の利益増加は円安になると日本製品が海外で安く提供できて売れやすくなるうえ、日本円に換算したときに1ドルあたりの価値が高くなるからです。例えば、1ドル=100円で物を売ったときと1ドル=150円で物を売ったときのケースを考えてみましょう。どちらも現地では1ドルで取り引きされているため、現地の消費者が支出するお金は変わりません。しかし、日本円に換算したときは後者のほうが、50円ほど売り上げが増えているわけです。そのため、自動車や電機メーカーといった輸出が多い企業では見た目上の利益が増加する場合があります。
2つ目の輸入コストの増加は、輸出企業の利益増加と反対のケースです。先ほどの例でいくと、現地では1ドルで取り引きされている物を買って日本に輸入すると、後者では日本円で50円ほど多く支払わなければいけません。そのため、円安ドル高が進むと石油や食料品といった輸入品全般を日本円で調達する際のコストが上昇し、国内の企業や消費者の負担が増える恐れがあります。
3つ目の物価上昇の可能性については、輸入品の価格上昇によって企業がサービスを提供するコストが上がってしまうために起きる現象です。資源が少ない日本では大部分を輸入に頼っているため、輸入コストが上がると国内の物価全体が上がる可能性があり、その結果、消費者の生活費がたくさん必要になって購買力が低下することが懸念されています。
このように円安ドル高が進行する可能性が高くなった状況を受けて、日銀はアメリカと同様にインフレを抑える対策として政策金利の引き上げを検討しています。ただし、政策金利を引き上げると一般的に住宅ローンの金利も上昇するので、特に変動金利を利用している人は今後の日銀の金融政策次第で毎月の返済額が増える恐れがある点には気を付けなければいけません。
影響2:アメリカ国債の高需要で日本国債の利回りが上昇する
トランプ前大統領が再選し、アメリカで減税やインフラ投資が進むと経済が活発化してアメリカの金利が上昇する恐れが高まっています。その影響は為替だけでなく、日本国債にも及ぶと考えられます。なぜなら、アメリカで金利上昇が起こると世界中の投資家はより高いリターンを求めてアメリカ国債に資金をシフトすることが考えられ、その結果、日本国債の需要が減少し、価格が値下がりする可能性が高いからです。
国債の価格と利回りは価格が下がると利回りが上昇する逆相関の関係(例えば、価格1万円、金利1%の国債(利子100円)が値下がりして価格が5000円になっても、もともとの利子である100円は変わらないので利回りは2%になる)にあるので、今後は日本国債の利回りが上昇することで、以下の理由から住宅ローンの金利が上がる可能性が高いと考えられます。
日本国債の利回りが上昇することで住宅ローン金利が上がる理由
- 国債利回りは金利の基準になるから
- 資金調達コストが上昇するから
- 日銀の金融政策に影響を及ぼすから
まず1については、銀行が設定する住宅ローンや企業向け融資の金利は、国債利回りを参考にして決定されることが多いからです。一般的に、国債利回りが上がるとそれに連動して住宅ローンや企業向け融資の金利も上がりやすくなります。
次に2については、銀行は預金や市場から資金を調達して住宅ローンなどの貸し出しの原資としていますが、国債利回りが上がると高い利回りを求める投資家たちは国債購入に資金をシフトします。その結果、銀行が市場で資金を調達するコストも自ずと上昇してしまい、そのコストを貸し出し金利に反映せざるを得なくなって、住宅ローンや新規借り入れの金利上昇につながる場合があります。
最後に3については、国債利回りが上昇すると日銀は物価の安定を目的にして政策金利を引き上げる可能性が高くなることと関係しています。政策金利が上がると短期金利も上昇し、短期金利に連動しやすい変動金利の住宅ローンも大きな影響を受けてしまうでしょう。
なお、長期金利に分類される10年物の国債利回りは固定金利の住宅ローンと密接な関係があります。仮に10年物の国債利回りが上昇すると、固定金利は比較的早い段階で上昇する可能性が高いです。一方、変動金利も国債利回りの影響は受けますが、どちらかというと日銀の政策金利や銀行の資金調達コストのほうが影響は大きいです。それらが上がる場合は、変動金利も上昇する可能性が高いということは覚えておきましょう。
02日銀の追加利上げ、早くて2025年1月が濃厚か
ここまで紹介してきたように、トランプ前大統領の再選によって日本経済は大きな影響を受ける可能性が高まっています。これまで日銀は2024年7月に利上げを発表して以降、大きな動きは見せていませんでした。実際に、2024年9月の金融政策決定会合レポート※1には「経済・物価は見通し通り、オントラック(想定通り)で進んでいる」と記載されています。
ただし、2024年10月の金融政策決定会合※2では「経済・物価が想定通り推移する場合、早ければ2025年度後半に1.0%の水準まで段階的に利上げしていくパスを前提とすれば、経済・物価の進捗を見守る時間が今回はある」という意見がありました。そのため、多くのシンクタンクは最終的に2025年度中には政策金利を1.0%まで引き上げるのではないかと予想しています。
また、日銀の植田総裁はアメリカ大統領選挙後の2024年11月18日の会見で「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と政策金利の引き上げに前向きな発言をしました。しかし12月の金融政策決定会合後の会見で日銀の植田総裁は、「さまざまなデータや情報を丹念に点検したうえで判断していく必要があり、米国の経済政策を巡る不確実性も大きい状況が続いている」と述べ、12月の追加利上げは見送りました。
それを受けて市場では、トランプ新政権が誕生する2025年1月に政策金利を現行の0.25%程度から0.5%程度まで引き上げるのではないかと推測。仮に日銀が2025年1月に追加利上げを行った場合、同年7月の利上げの際と同様に、2~3カ月程度のタイムラグを置いて住宅ローンの変動金利の引き上げにつながる可能性が高く、住宅ローン利用者への影響が懸念されています。
03日銀の利上げに反して、変動金利を引き下げ・据え置く大手銀行も
先述のように、日銀が政策金利を上げるとそれに伴って金融機関は住宅ローンの変動金利を引き上げる場合が多いです。しかし、実際には金融機関同士の競争もあるため、2024年7月の利上げ以降は変動金利を引き上げた金融機関がある一方、金利を据え置いているところもあり、対応が分かれる状況となっています。
具体的には三菱UFJ銀行は2024年10月から大手銀行で唯一、金利優遇幅を拡大し、変動型の最優遇金利を0.345%のまま据え置きました。また、りそな銀行と埼玉りそな銀行は同年11月から変動型の最優遇金利を0.1%引き下げて0.39%にしたことによって、保証が充実した団体信用生命保険の一部の住宅ローン商品の中では業界最低水準の金利を実現しています。
以上のように、現在、各金融機関の顧客獲得競争は変動金利を含めたコストパフォーマンスが主戦場となっています。実際に、最優遇金利を据え置いた三菱UFJ銀行には新規顧客が流入する動きが加速しているとのことです。今後も各金融機関による顧客獲得競争は続くとみられており、仮に日銀が追加利上げしてもセオリー通りに変動金利が引き上げられるかどうかは未知数な部分もあります。そのため、これから住宅ローンを組む予定の人は情報を細かくチェックしておくことが大切です。
04住宅ローンにも「トランプ・リスク」が潜んでいる!金利上昇に備えた資金計画を立てよう
トランプ前大統領の新政権は2025年1月に発足する予定です。新政権が推進する政策によっては金融市場や経済への不安定要因となる、いわゆる「トランプ・リスク」によって日本経済も大きな影響を受けるかもしれません。特に円安ドル高の進行といった影響から日銀が市場の圧力によって政策金利を引き上げると、住宅ローン金利や企業の借り入れコストが上昇し、景気に悪影響を及ぼす恐れがあります。
一般的に短期金利よりも先に上昇しやすい長期金利が上がる兆しが見えたときは、影響を受けやすい固定金利の住宅ローンを早めに選択するか、変動金利でも繰り上げ返済など金利上昇リスクに備えた返済計画を検討することが大切です。当サイト内には、自分の条件から住宅ローンの毎月の返済額がいくらくらいになるかを簡単に試算できる各種シミュレーターがそろっています。金利タイプや金利の違いで毎月の支出がどれくらい変わるかを知りたい人は、ぜひ利用してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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