火災保険料アップで家計負担増 一方で水災リスクの低い地域は保険料ダウンも
2023年6月、火災保険料の目安となる「参考純率」の全国平均が13.0%引き上げられました。この引き上げ幅は過去10年で最大であり、それに伴って2024年10月から多くの保険会社で火災保険料が値上げされています。参考純率がこれほど大きく引き上げられたのは、住宅の老朽化の進行と水害などの自然災害の多発によって保険料支払いが増加したのが要因です。 また、2024年10月の改定では、多くの保険会社でこれまで全国一律だった水災料率がリスクごとに5つの区分に細分化されました。そのため、今後は水災リスクが高いエリアに住んでいる人ほど保険料が高くなる恐れがある一方、水災リスクの低い人は従来よりも保険料が安くなる可能性があります。仮に火災保険料が値上がりすると、家計負担増は避けられません。そこでこの記事では、2024年10月からの火災保険の料率改定や新しい仕組みについて解説します。
012024年10月~住宅向けの火災保険料率を改定、各保険会社で値上げも
火災保険料は災害などが起こったときに保険金支払いの原資となる純保険料と、各保険会社の事業運営に必要な経費となる付加保険料から成り立っており、このうち純保険料は一般的に損害保険料率算出機構が算出する参考純率を目安に計算されています。
損害保険料率算出機構は、2023年6月28日に住宅総合保険の参考純率を全国平均で13.0%引き上げることを発表したため、2024年10月から多くの保険会社が純保険料を見直し、火災保険料の値上げにつながりました。同機構が参考純率の引き上げに踏み切った理由としては、空き家など老朽化した建物の増加によって損壊リスクや電気および給排水設備の火災・水漏れリスクが高くなっていること、インフレによる修理費単価の高騰によって自然災害による保険金支払いが増えたことを挙げています。
また、同機構は今回の計算において地球温暖化の影響を考慮し、台風で推定される被害の評価方法の見直しも行いました。従来は過去のすべての台風データを基に支払金額を推定していたものを、新しいリスク評価方法では近年の台風データを重視する計算方法に変えたことで推定支払い保険金が増加し、参考純率の引き上げにつながっています。
なお、参考純率はあくまでも参考資料という位置づけなので、各保険会社は今回引き上げられた参考純率をそのまま使用するのではなく、会社独自に純保険料を設定しても問題ありません。先述した保険会社の必要経費となる付加保険料も含め、各保険会社の判断で火災保険料の総合的な単価を定められますが、今回の参考純率が過去10年で最大の上げ幅だったこともあり、多くの保険会社が値上げを決めています。
02水災保険の保険料制度も変更、リスクを考慮し5段階に区分け
損害保険料率算出機構が2023年6月に発表した資料では、水災に関する料率を地域のリスクに応じて5区分に細分化したことも記載されていて、2024年10月からほとんどの保険会社がそれにあわせる形で保険料を改定しています。もともと洪水や台風などによる水災補償は火災保険の特約の1つで、これまでの料率は全国一律でした。
しかし、実際の水災リスクは住んでいる場所によって異なるので料率を全国一律にするのは適切ではないこと、また保険契約者がハザードマップ等で水災リスクの有無を自己判断して保険料節約のために水災補償を外す傾向がみられたことなどから今回の見直しにつながっています。水災リスクは必ずしもハザードマップに準じるものではないため、水災補償の保険料負担の不公平感が薄れることで、万が一に備えた保険加入を前向きに検討してもらうことが狙いです。
今回、5区分に細分化される地域は保険対象の建物が所在する市区町村ごとで、保険料が最も安く相対的に水災リスクが低い地域は「1等地」として区分されます。反対に水災リスクが高い地域は「5等地」として区分され、1等地と比べて保険料が約1.2倍に設定される見込みです。
この1.2倍という数値は、あくまでも損害保険料率算出機構が算出した目安の数字です。実際に契約する保険会社の保険料とは異なるものの、5等地に住んでいる人は1等地に住んでいる人に比べて保険料が高くなる可能性は高いでしょう。
なお、水災リスクは主に以下の3つに分けられます。
- 河川の氾濫などによる「外水氾濫リスク」
- 集中豪雨等で下水道の処理が追い付かずに水があふれる「内水氾濫リスク」
- 集中豪雨によって起こる「土砂災害リスク」
火災保険では、これらが将来起きうるリスクを個別に見込んだうえでひとまとめに水災リスクとして評価しています。水災リスクといっても河川の氾濫だけでなく、土砂災害も含むので山側の土地に住んでいる人でもリスクが高い地域と判断される可能性があることは覚えておきましょう。
03火災保険の契約・更新前に居住エリアの自然災害リスクを把握しよう
ここまで述べてきたように、参考純率の引き上げと水災リスクの評価方法の見直しによって、2024年10月からは多くの保険会社で火災保険料が値上がりしています。その一方、これまで全国一律で評価されていた水災リスクが細分化されたことで、水災リスクが低いエリアでは、以前より火災保険料が安くなる可能性もあります。
損害保険料率算出機構が設定する水災リスクは市区町村別ですが、保険会社によっては火災保険料を住所ごとに設定するケースもあるので、コスパに優れた保険を探すにはこれまでに増して各商品の比較が重要です。
なお、損害保険料率算出機構が算出した水災料率は以下のウェブサイトで確認できます。
例えば東京都の場合、上記サイトで確認すると「世田谷区」は1等地ですが、「荒川区」は5等地になっていて、荒川区の保険料の方が高くなりやすいことがわかります。ただし、この区分はあくまでも損害保険料率算出機構が定めたものです。保険会社の中にはハザードマップなど他の情報も参考にして、丁目単位などもっと細かく保険料を設定しているところもあります。実際の保険料は保険会社ごとに異なるので、これから火災保険を契約する人はできるだけ複数商品を比較しましょう。
04火災保険を比較検討する際のポイント
先述したように火災保険は2024年10月から多くの保険会社で改定が行われたので、これまでよりも複数商品を比較することが重要になります。とはいえ、火災保険を比較するときは、火災保険料だけを基準に考えてはいけません。なぜなら、火災保険は万が一のことがあったときに備えるための商品だからです。いくら保険料が安いからといって必要な補償が付帯されていない保険を契約するのは本末転倒になってしまうでしょう。
では、具体的にどのような点に注意して火災保険を比較すればいいのでしょうか。ここからは火災保険を比較する際のポイントについて紹介していきます。
周辺費用の補償範囲
火災保険を契約するときは、周辺費用の補償範囲もよく確認しておきましょう。火災保険の主契約は基本的に建物や家財が被った損失を補てんするための補償のみです。そのため、保険金額は基本的にそれらを新しく再建築もしくは再購入できるだけの金額(再調達価格)まで入っておくのが望ましいといえます。ただし、ここで忘れてはいけないのは、万が一家事や水災などにあって自宅に住むことができなくなった場合、金銭的な補償はそれだけでは足りないかもしれないということです。
例えば、火災保険の主契約の補償には、被害を受けた建物や家財を片付けるための処分費は一般的に含まれません。そのため、仮に建物部分で満額加入していたとしても、処分費だけは自己負担しなければいけないというケースも考えられます。
また、火事が起きた場合、消火のために使用した薬剤の再取得費用や、自宅を再建するまでに住む賃貸住宅またはホテルを借りるための費用もかかるでしょう。これらの復旧に関連する周辺費用は最初から補償に含まれていたり、特約として扱っていたり各保険会社によって対応が異なります。そのため、保険を比較するときは周辺費用がどれくらい含まれているかを確認することが大切です。
なお、必要な周辺費用は戸建てやマンションといった住宅の種別、住んでいる階層によって異なります。例えば、上階からの水漏れが原因で、自分の部屋の天井や床が濡れてしまったときの損害を補償してくれる水濡れ補償はマンションの最上階に住む人は無理に加入する必要はないでしょう。周辺費用について検討するときは、その内容をよく理解し、自分に必要な補償であるかどうかを確認してから選ぶことがポイントです。
地震の上乗せ補償特約の有無
ユーラシアプレートや太平洋プレートなど複数のプレート上に位置する日本では、毎年のように大きな地震が発生しています。地震被害に備える保険としては地震保険がありますが、大災害が起きたときは広範囲にわたって甚大な被害を及ぼす恐れがあることから、どの地震保険も官民共同で運営されていて、加入できる保険金額は原則建物の再調達価格の50%と決められています。これは簡単にいうと、3000万円の住宅が全壊した場合、地震保険に満額加入していても1500万円しか受け取れないということです。残りの1500万円は自己負担で再建しなければならず、既存の住宅ローンが残っていた場合、二重ローンが発生する恐れがあります。
それを回避するための方法として、火災保険を取り扱っている一部の保険会社では地震保険に上乗せして建物の再調達価格の100%まで地震補償を受けられる特約を独自に扱っているところがあります。特約に加入することで地震やそれによる津波、噴火などによる損害が生じたときでも、地震保険とあわせて最大で建物の再調達価格まで保険金が受け取れる仕組みです。
ただし、この火災保険の上乗せ部分は保険会社が独自に扱う補償なので、「保険料が一般的な地震保険よりも高い」点には注意してください。地震保険は基本的に非営利ですが、この特約部分は営利商品であるうえ、保険会社が単独でリスクを負う仕組みなので料率も高く、保険料は一般的な地震保険料の2倍程度かかります。また、保険期間は1年のみで長期契約はできないところが多いです。支払った保険料は地震保険料控除の対象になるというメリットはあるものの、加入にあたっては家計負担も考えて判断してください。
05自宅の水災リスクを把握して保険料の家計負担をできるだけ抑えよう
火災保険料は参考純率の引き上げに伴って、2024年10月からほとんどの保険会社で値上げされています。また、同時に水災リスクが細分化したことによって、リスクが高い地域に住んでいる人は今まで以上に保険料が高くなるかもしれません。とはいえ、保険を検討するうえで大切なのは万が一のことがあったときに、「生活を立て直せるだけの補償を受け取れるかどうか」です。そのため、保険加入を考えるときは保険料だけでなく、住宅のある場所のハザードマップや過去の災害履歴などを確認し、地域のリスクや建物の状況を踏まえたうえで補償を比較することが重要です。
例えば、水災リスクが高い地域の人は、損害が発生した場合に修理費や家財の買い替え費用などを自己負担できるかどうかを考えてみるとよいでしょう。その結果、自己負担が難しい場合は足りない金額だけ加入するのも選択肢の1つです。反対に水災リスクの低い地域の人は水災補償の有無でどれくらい保険料が変わるかを確認し、あまり保険料が変わらないようであれば万が一のことを考えて加入しておくのも悪くないでしょう。
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監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。