事実婚での収入合算の住宅ローン審査、「入籍予定なし」でも利用しやすく
これまで日本の住宅ローンでは、ペアローンや連帯保証型、もしくは連帯債務型の収入合算で借り入れする際に、「法律婚上の配偶者」または「親子」で審査するのが一般的でした。多様性が認められてきた昨今では、LGBTをはじめ事実婚のカップルでも法律婚と同様に審査を受け付けてくれる金融機関が増えつつあるものの、事実婚の場合は「入籍予定である」ことが条件になっているケースもあり、利用のハードルがまだ高いのも確かです。 しかし、事実婚への関心が高まっている状況において、近年では「入籍予定のないカップル」でも収入合算の審査を受け付けてくれる金融機関も増えています。そこでこの記事では、地方銀行を中心に広がりを見せる事実婚での住宅ローン審査の動向について解説していきます。
01事実婚での住宅ローン審査、従来は「入籍予定」が前提
一般的に多額の借り入れをすることになる住宅ローンにおいて、契約者本人とパートナーなどの収入を合わせて審査を受けるペアローンや収入合算は重要な選択肢の一つです。しかし、これまで法律上の夫婦として認められない事実婚カップルでは金融機関側も貸出リスクのことを考えて、審査に消極的になってしまう傾向にありました。
近年では多様性の意識の高まりを受けてLGBTのカップルをはじめ、事実婚でもペアローンや収入合算で借り入れできる住宅ローン商品が増えていますが、「籍を入れる予定であることを証明できる場合のみ」といった条件が付与されるケースも多く、個々の事情によって入籍予定がない事実婚を選ぶカップルでは、そもそも申し込めないことも珍しくありません。
金融機関側がこうした判断をする背景には、入籍していないカップルが万が一結婚生活を解消することになった場合、返済リスクが非常に大きいという考え方があります。そのため、借り入れ時点で入籍予定があることを条件にしている金融機関が多く、契約の際には「婚約証明書」や「婚姻に関する同意書」を用意することで認められるケースが多いのです。
金融機関によっては、入籍したことを証明する公的書類を住宅ローン契約成立までに提出することが必須のところもあるなど、事実婚を選択するカップルにとってペアローンや収入合算の住宅ローンを利用するのは難しい状況が続いていました。
02選択的夫婦別姓制度導入の期待から事実婚を選択するカップルも
令和3年度に内閣府が実施した各種意識調査※1によると、事実婚を選択している人は成人人口の2~3%いると推察されています。また、内閣府男女共同参画局が実施した委託調査※2では、積極的に結婚したくない理由として「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」と回答した割合は20~30代で女性25.6%、男性11.1%、40~60代で女性35.3%、男性6.6%という結果でした。
日本では結婚するとどちらかの姓に合わせなければならず、一般的には女性が男性の姓に変えるケースが多いでしょう。そうしたこともあって、割合としては半数を超えるほどではないものの、女性を中心として結婚で姓が変わることに抵抗を感じる人が一定数いることがわかります。
こうした問題を解決するための選択肢として、日本では近年、選択的夫婦別姓を巡る議論が活発化しています。
選択的夫婦別姓とは、当人同士が希望すれば結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を名乗ることを認める制度で、2024年10月に行われた衆議院議員選挙でも争点の一つとして注目を集めました。
ただし、まだ議論の段階を出ておらず、実現には時間がかかることが予想されているため、当面は事実婚を選択した人でも利用しやすい住宅ローンの増加が期待されている状態です。
03「入籍予定」がなくても事実婚の人が利用できる住宅ローンも増加傾向
昨今、インフレ傾向が続く日本では建築費や人件費上昇により、住宅価格の高騰が続いています。そうした状況を受けて住宅ローンでは高額の借り入れがしやすいペアローンや収入合算の需要が高まっていますが、先述したように事実婚カップルは利用しにくい状況です。しかし、事実婚が増えている背景を受けて、最近は一定の条件をクリアすれば「入籍予定がない事実婚」でも借り入れできる住宅ローンを取り扱う金融機関も増えてきています。
条件の詳細は各金融機関によってさまざまですが、一般的には契約者とパートナーとの関係を証明する書類が必要になることがほとんどです。例えば、事実婚の配偶者と申し込む際は提出書類として「未届の妻/夫」「妻/夫(未届)」という記載のある住民票が必要になる場合もあります。そうした金融機関を利用する場合は、住宅ローンを申し込む前に住民票の記載手続きを終わらせておかなければいけません。
なお、当事者が2人とも住民票上の「世帯主」として記載されていたり、続柄が「同居人」となっていたりするケースでは、ルームシェアなどが該当するケースもあるので、書類だけで事実婚であることを確認することができません。そのため、住宅ローンの利用にあたって住民票の提出が求められる場合、どちらかが世帯主で、もう一方が「妻(未届)」または「夫(未届)」と記載されていることが特に重要になります。
04事実婚カップルがペアローンや収入合算で借り入れしやすい住宅ローン
ここまで紹介したように、ペアローンや収入合算の住宅ローンは法律婚をしたカップルのほうが借り入れしやすいのが現状です。しかし、さまざまな事情からあえて事実婚を選ぶカップルも増えてきており、そうした人たちが借り入れしやすい住宅ローンも増えてきています。そこで、ここからは入籍予定のないカップルでも借り入れしやすい住宅ローンについて紹介します。
フラット35
住宅金融支援機構が提供するフラット35は事実婚カップルの利用において、特段の条件が課されないのが特徴です。例えば、優遇金利が適用されるフラット35子育てプラスの利用条件は「借入申込時に夫婦(法律婚、同性パートナーおよび事実婚の関係【婚約状態の方は対象外】であり、夫婦のいずれかが借入申込年度の4月1日において40歳未満)である世帯」と明記されています。なお、窓口になる金融機関によっては条件が異なる可能性もあるので、申し込む前に確認しておきましょう。
三井住友銀行
メガバンクの中では、三井住友銀行が2020年という比較的早い時期から連帯債務型の住宅ローンにおける配偶者の定義に事実婚を含めています。利用にあたっては「未届の妻/夫」「妻/夫(未届)」と記載されている住民票、もしくは自治体が発行するパートナーシップ証明書などの提出が必要であるうえ、連帯債務型である関係上、連生団信への加入が条件です。先述のフラット35に比べると加入条件は多いものの、大手銀行を利用したい場合は有力な選択肢の1つになるでしょう。
auじぶん銀行
auじぶん銀行では2022年から事実婚カップルにおけるペアローンや収入合算の住宅ローンの申し込みを受け付けています。利用条件は三井住友銀行と同じく、「未届の妻/夫」「妻/夫(未届)」と記載されている住民票、または自治体が発行するパートナーシップ証明書などです。
なお、auじぶん銀行では公正証書での申し込みも受け付けています。必要となる公正証書は「合意契約の公正証書」および「任意後見契約に係る公正証書」です。住民票が用意できない人は公正証書での申し込みも検討してみてください。
横浜銀行
地方銀行の中でも規模が大きいことで有名な横浜銀行は、ペアローンや収入合算の住宅ローンにおける配偶者の定義に事実婚のパートナーを含んでいます。利用条件は一定の事項が明記された「合意契約にかかる公正証書」「任意後見契約に係る公正証書」「任意後見契約に係る登記事項証明書」「戸籍謄本」の4点です。上記書類を提出すれば、事実婚のパートナーを配偶者同様とみなし、住宅ローンの手続きを進められる仕組みとなっています。
千葉銀行
そのほかの地方銀行では、千葉銀行が事実婚カップルの連帯債務型住宅ローンを取り扱っています。利用にあたっては戸籍上の夫婦はもちろんLGBTの同性ペアなど、事実婚の関係にある2人もしくは親族同士が対象です。ただし、2人が1本ずつローンを組む形になるペアローンでは従来通り、戸籍上の夫婦と親子に限定されている点には気を付けましょう。
さらに、第四北越銀行や滋賀銀行、北海道銀行なども連帯債務者や担保提供者における配偶者の対象に事実婚のパートナーを含めています。例えば、北海道銀行では連帯債務型の住宅ローンを利用する場合、事実婚の配偶者であれば「未届の妻/夫」「妻/夫(未届)」と記載されている住民票もしくは、自治体が発行するパートナーシップ証明書といった公的証明書などの提出が条件です。地方銀行でも事実婚カップルに対応した住宅ローンを取り扱っているケースはあるので、まずは近くの銀行で利用条件を確認してみることをおすすめします。
05事実婚カップルがマイホームを購入する際の注意点
事実婚カップルが利用できる住宅ローンは大手銀行だけでなく、地方銀行でも取り扱う金融機関が徐々に増えてきています。今後もますます身近になっていくことが予想される事実婚カップルの住宅ローン利用を念頭に、マイホーム購入を考える人もいるのではないでしょうか。そこで最後に、事実婚カップルがマイホームを購入する際の注意点について紹介します。
事実婚の証明
先述したように、事実婚は法的には婚姻関係にありません。金融機関によっては事実婚カップルのペアローンや収入合算の住宅ローンの申し込みを受け付けていないところもあるので、どちらかの単独ローンが難しい人は利用できる金融機関を探す必要があります。
また、仮に認められる金融機関であっても事実婚関係を証明するために、「住民票における同居」や「共同で生活費を負担している証拠」など、一定の条件をクリアしなければいけないところがほとんどです。そのため、可能であれば事実婚のパートナーであることが客観的にわかるように、住民票に「未届の妻/夫」「妻/夫(未届)」と記載してもらう手続きをしておきましょう。
住宅ローンの返済義務の確認
事実婚カップルに限った話ではありませんが、ペアローンや収入合算の住宅ローンを利用する場合、万が一の返済リスクについても考慮しておくべきです。例えば、ペアローンはカップルそれぞれが個別に住宅ローン契約を結ぶ形になるので、仮に片方が返済できない状況になっても、もう片方の返済義務は残ります。
また、お互いがお互いの連帯債務者となっている以上、片方が返済できなければもう片方が返済しなければなりません。収入合算の場合もお互いの収入を合算した結果を前提として返済計画を作成しているので、どちらかが病気などで収入を失うと急に返済が難しくなる恐れがあります。
そのような状況に備えて、ペアローンなどを組むカップルは片方が死亡や高度障害、ガンになった場合、当人だけでなく、もう片方の住宅ローン残債もゼロになるペア型の団信へ加入しておくとよいでしょう。金利は通常の団信よりも年0.2~0.4%ほど高くなりますが、万が一のことがあっても残された片方が返済を続けていく必要がなくなるので安心です。
財産分与に関する取り決め
購入後の住宅は大きな個人資産になりますが、不動産であるため現金のように簡単に分割したり、処分したりすることはできません。そのため、マイホームを購入する際は将来的に別れることになった事態も想定して、持分割合や売却時の利益分配などをあらかじめ合意しておくことも大切です。その点について話し合う際はできれば法的強制力のある「財産分与契約書」を作成しておくとよいでしょう。
なお、パートナーのどちらかが万が一亡くなることがあった場合、残念ながら日本の法律では事実婚カップルの配偶者は法定相続人として認められません。ただし、遺言書を残すことで一定の財産をパートナーに譲り渡すこと(遺贈)ができるので、2人の将来について話すときは一緒に考えておくことをおすすめします。
税制上の取り扱い
日本では、事実婚と法律婚で税制上の扱いが変わることがあります。例えば、契約が2本分になるペアローンでカップルのそれぞれが住宅ローン控除を受けられる点は同じですが、事実婚の配偶者が所得税における配偶者控除や配偶者特別控除の対象になることはできません。
また、婚姻期間が20年以上の配偶者に持ち家(土地)を贈与する場合に限り、最高2000万円まで贈与税がかからない「贈与税の配偶者控除」も対象外です。先述のように、事実婚カップルは基本的に法定相続人にはなれないため、万が一のことを考えて住まいだけでも残しておきたいと考える人は、マイホームの譲渡方法について事前に税理士などに相談しておきましょう。
共有名義の持分割合と登記
一般的に、住宅ローンを組む際は住宅の名義をどのように持つか(持分割合)を決めておく必要があります。この割合は将来の売却や相続、財産分与においても影響を与えるので、とても重要です。持分割合は基本的に住宅ローンを支払う割合がそのまま適用されます。
例えば、3000万円の収入合算(連帯債務型)の住宅ローンをAさんが2000万円、Bさんが1000万円ほど負担して組んだ場合を考えてみましょう。この場合の持分割合はAさんが3分の2、Bさんが3分の1となります。ペアローンの場合も基本的な考え方は同じで、仮に4000万円の住宅ローンでCさんとDさんが2000万円ずつ負担した場合、持分割合はそれぞれ2分の1です。
近年では事実婚への理解も深まってきていますが、まだ法律婚に比べると事実婚カップルは法律で守られていない部分があります。そのため、住宅の登記の際は共同名義にして、それぞれの持分割合をしっかり明記しておくことで後のトラブルを回避しやすくなります。
06双方の合意をしっかりと確認した上で、住宅ローンを組もう
昨今の日本では多様な生き方への理解が少しずつ深まっており、事実婚カップルでもパートナーとペアローンや収入合算での住宅ローンが組みやすくなってきています。しかし、残念ながら現状では事実婚は法的な婚姻関係とまったく同じ扱いではないので、税制上の問題など事前に考えておくべき項目が多いのも確かです。 これからマイホームの取得を検討する事実婚カップルは、まず自分たちに合った最適なローン形態や契約内容を見定め、双方の合意をしっかり確認したうえで住宅ローンの借入手続きを進めていくとよいでしょう。当サイト内にある「住宅ローン保証審査」はパートナーとの収入合算でいくらまで借りられるかを簡単にシミュレーションできるサービスです。これからペアローンや収入合算の住宅ローンを組むことを考えている方は、ぜひ試してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。