東京23区、住宅価格の高騰で狭小住宅が人気!一転、規制の動きあり
2023年7月に公表された令和5年の路線価は全国的に上昇しており、不動産市場はコロナ禍からの回復が顕著に進んでいます。加えて、円高などによる建材費の高騰から住宅価格が上昇し、マイホーム購入を検討する20代・30代が新築戸建てを買いづらい状況が続いています。 そのような背景を受けて東京23区を中心にニーズが高まっているのが、50平方メートル程度の小さな敷地に建てる「狭小住宅」です。一方、自治体によっては土地分割を規制する動きも見られ、大きめの土地を一定の広さ以下に分割して狭小住宅として供給することが難しくなりつつあります。 この記事では、狭小住宅に人気が集中する背景を紹介するとともに、自治体による土地分割の規制について解説していきます。
01土地、住宅価格ともに上昇している昨今、需要が高まる狭小住宅
東京23区を中心に近年人気が高まっている狭小住宅とは、一般的におおむね15坪(約50平方メートル)以下の敷地に建設する住宅のことを指します。敷地面積や建物面積の小さな狭小住宅であれば、土地購入費および住宅購入費を抑えつつも都心に住みたいというニーズを満たすことができるため、需要が拡大しているのです。
昨今、東京23区では都心部を中心に土地価格が高騰しています。追い打ちをかけるように建築費も高騰しており、住宅価格の上昇が顕著です。東京カンテイによると、東京23区の新築小規模一戸建ての平均価格は2023年4月に7031万円を記録。5月には価格調整により6カ月ぶりの安値となったものの、6月は再度上昇し6934万円となっています。
新築マンションにいたっては、2023年上半期の東京23区における平均価格が1億3000万円近くまで上昇し、過去最高値を記録しました。もはや一般のマイホーム購入層には手が届かない価格になってしまっているといえるでしょう。
こうした人たちが都心に住むための選択肢として、狭小住宅の人気が高まっています。同調査によると、東京23区で供給された新築小規模一戸建ての平均土地面積は1月の74.6平方メートルに対し、6月は73.7平方メートル。同じく平均建物面積は1月の98.6平方メートルに対し、6月は95.3平方メートルといずれも小さくなっています。
しかも、供給戸数は2023年1月の352戸から6月の538戸へと200戸近く増えており、狭小住宅の供給が増えていることがデータからも明らかです。
出典:東京カンテイ「新築小規模一戸建て住宅平均価格 」2023年7月10日、2023年2月9日
02大きな土地を小さく分割できない?自治体による規制の動きも
住宅価格の高騰が続く中、価格を抑えてマイホーム購入層のニーズに応えるため、不動産会社は大きな土地を小さく分割して販売する動きを取ってきました。分割した小規模な敷地に狭小住宅を建てることで、都心部の戸建てを比較的手軽な価格で提供してきたのです。
しかし自治体によっては、一定の広さ以下にするような土地分割を規制するところも出てきています。
これは「敷地面積の最低限度」と呼ばれる都市計画の制度で、対象となるエリアでは一定の面積以下になる土地分割は認められません。あくまでも新たに土地を分割して建物を建設する際に適用されるものであり、既存の土地は適用外です。
敷地面積の最低限度を設ける理由とは?
「敷地面積の最低限度」は建築基準法第53条の2で規定されており、同2項において200平方メートルが上限と定められています。200平方メートルを超えない範囲であれば、自治体が独自に最低限度を設定可能です。
先ほども紹介したとおり、当制度は新たに土地を分割して建物を建設するケースにのみ適用されます。自治体が最低限度を定めるよりも前から存在する一定面積以下の土地については、従来どおり建物の新築や建て替えができます。
自治体が敷地面積の最低限度を設ける理由は、エリアの住環境を保護するためです。土地分割によって小規模な土地が増えると、建物が密集して、日照・通風・防災などさまざまな観点から環境悪化が懸念されます。こうした環境悪化を未然に防ぐのが制度の目的なのです。
ちなみに東京23区内では、目黒区・中野区・杉並区・板橋区が60平方メートル、世田谷区・練馬区・江戸川区が70平方メートルを敷地面積の最低限度として定めています。
03狭小住宅のデメリットもしっかり把握しよう
利便性の高い都市部に、比較的購入しやすい価格帯で住める狭小住宅。しかし、それだけの理由で安易に狭小住宅を選択するのはおすすめできません。
なぜなら狭小住宅には、上下階の動線が前提のために高齢者にとって住みにくい、周辺環境によって改修しづらいといったデメリットがあるからです。狭小住宅は長期優良認定住宅の認定を受けづらく、将来の資産価値にやや不安が残るのもマイナス面といえるでしょう。
以下では、狭小住宅を検討するにあたって把握しておくべきデメリットの詳細を解説します。
高齢者にとって暮らしづらく、リフォームのコストが高くなりやすい
住宅密集地に建設される狭小住宅は敷地面積が小さく、3階建ての物件がメインです。水平方向のスペースが限られる分、縦に空間を広げることで床面積を確保しています。
3階建てになると階段の上り下りが多くなるため、足腰の弱まった高齢者には身体的な負担が大きくなります。おまけに3階建ての狭小住宅では、リビング、居室、水回りなどの機能が別々の階に配置されているケースも多く、何度も上下移動をしなければなりません。
リフォームで将来的にホームエレベーターを設置する方法などもありますが、周辺環境によっては改修が難しいケースもあります。たとえば東京の江戸川区・荒川区などは、幅員が4mに満たない「細街路」の多いエリアです。前面道路が狭いと工事作業車が乗り入れられないうえ、隣家との距離が近いなどして足場が組みづらいという問題も発生します。
仮に改修やリフォームが可能だったとしても、他の場所に作業場を確保したり搬入人員を増やしたりする必要があるので、余計なコストがかかってしまうでしょう。
現時点で自分たちの手が届く範囲の物件という理由で狭小住宅を選んだとしても、将来的にリフォームで大きな費用がかかることも考えられるのです。
長期優良住宅の認定を受けられないケースが多い
都市部の狭小住宅は敷地が小さいといえども、坪単価の高い土地に建つ住宅というだけで一定の資産価値は期待できるでしょう。
不動産の価値は土地・建物それぞれの価値からなりますが、日本の住宅は築年数が30年程度経過すると、建物としての価値はほぼなくなるといわれています。先述のとおり、狭小住宅ではリフォーム自体が難しいケースも多くあります。そのため、将来にわたって資産価値を維持するためには、長期優良住宅の認定を受けられる住宅を建築・購入するのが有効です。
しかし、狭小住宅では長期優良住宅の認定を受けられない物件も多くあります。狭小住宅の多くが、「1の階の床面積40平方メートル以上」という認定要件をクリアできないためです。
改修ができない、長期優良住宅認定も受けられないとなれば、世代を超えて住み継ぐことができません。更地にして売却するにしても、大きな費用や手間がかかってしまうでしょう。狭小住宅を検討する際は、長期優良住宅認定を受けられる物件なのかも確認しておきましょう。
04マイホーム購入は長期的な視野も大切!
日本では少子高齢化に歯止めがかからず、本格的な人口減少社会が到来しています。人口減少にともなって空き家率が上昇しており、中古物件が増加している状況です。
今後住宅の必要数が減り、住宅市場そのものが縮小していくことが予想されるなか、マイホームの資産価値はますます重要になるでしょう。資産価値が高い物件でないと、買い手がなかなかつかない事態も考えられます。現時点で手が届く価格で取得できるかどうかという目先の視点だけでなく、将来的にその家をどうするのかといった長期的な視点でマイホームを選ぶことが何よりも大切なのです。
長期的な視点で考えるためには、まず自分がどのくらい住宅ローンを借り入れられるのか、現実的な金額を知るところから始めるとよいでしょう。 当サイトの「住宅ローンシミュレーション」では、目的別に4つのシミュレーションを用意。将来を見据えたマイホームの購入検討にぜひ活用してください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。