
住宅ローン金利、2025年にさらなる上昇?日銀の金融政策と今後の金利動向を解説

日本銀行(以下、日銀)は、2025年1月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%に引き上げる追加利上げを決定しました。それに伴い、近年上昇傾向にある住宅ローン金利がさらに上がるのではないかという懸念が広がっています。 住宅ローン金利が上昇すると、毎月の返済額が増え、家計の負担が大きくなるかもしれません。そこで本記事では、これからマイホーム購入を考えている方に向けて、最新の金利動向や今後の予測、家計への影響について解説します。また、金利上昇時の返済シミュレーションや、安心して住宅ローンを組むためのポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

01日銀が政策金利を引き上げた背景とは?
2025年1月23日から24日にかけて開催された金融政策決定会合で、日銀は政策金利を0.25%から0.50%へ引き上げることを決定しました。この決定により、今後の住宅ローン金利の上昇が懸念されています。しかし、なぜ日銀は今回、利上げを決断したのでしょうか。ここでは、主な理由を3つ解説します。
賃金上昇と物価高騰
1つ目の理由は、賃金の上昇とそれに伴う物価の高騰です。
日本では、少子高齢化の影響で人手不足が深刻化しており、近年多くの企業が労働力を確保するために給料を引き上げています。実際、2024年の春闘では、賃上げ率の平均が1991年以来33年ぶりに5%を超えました。2025年春の労使交渉でも、同様の流れが続くと予想されています。
しかし、賃金の上昇は企業のコスト増加を招き、その結果、物の値段を示す「消費者物価指数(CPI)」も上昇します。例えば、2024年12月のCPI(生鮮食品を除く)は前年同月で3.0%も上昇しました。日銀は、経済の安定に適した物価上昇率を2%程と考えていますが、これを持続的に上回る見込みが強くなったため、従来の低金利政策を見直し、金融引き締めへと舵を切る決断を下しました。
世界経済の影響
2つ目の理由は、世界経済の動向です。
アメリカでは、コロナ禍以降の急激なインフレ対策として、金利を引き上げていましたが、最近は落ち着きを見せ、市場では「そろそろ利下げが始まるのでは?」との見方が強まっていました。しかし、トランプ前大統領の再選や、アメリカ経済の最新動向を受け、利下げペースが鈍化する可能性が浮上しています。
アメリカの金利が高止まりすると、円が売られやすくなり、日本円の価値が下落する傾向にあります。これにより、日本の輸入品価格が上昇し、さらなる物価高につながる可能性も否定できません。そこで日銀は、円安の進行を抑え、過度な物価上昇を防ぐために利上げを実施したと考えられます。このように、日銀の政策判断には、日本国内だけでなく国際的な経済情勢も大きく関係しています。
日本の実質金利の低さ
3つ目の理由は、日本の実質金利(物価上昇を考慮した金利)の低さです。
2024年9月、日銀の植田総裁は「現在の実質金利は依然として低く、仮に政策金利を引き上げても経済活動は活発なままで、物価上昇を促す可能性がある」と発言しました。さらに、金融政策決定会合の審議委員の中には、「今回利上げ後でも経済を加熱も冷却もしない『中立金利』には達しておらず、さらなる利上げの余地がある」との意見を持つ者もいるとされています。
一般的に、政策金利が上がると企業の資金調達コストが増え、景気が減速するため、物価の下落要因となります。しかし、長らくデフレが続いてきた日本では、インフレが始まったばかりです。そのため、日銀は「今回の利上げは、経済への悪影響を与えずに実施できる」と判断し、政策を変更したのです。
02現在の住宅ローン金利の状況
日銀は国内外のさまざまな情勢を考慮し、政策金利を引き上げても問題がないと判断しました。では、具体的に住宅ローン金利にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは、現在の住宅ローン金利の状況について、変動金利と固定金利のポイントを整理して紹介します。
変動金利
2025年2月時点において、変動金利は多くの金融機関で0.4~0.5%程度を推移しています。変動金利は主に「短期プライムレート(短プラ)」に連動しているため、日銀の政策金利の影響を受けやすいですが、現時点では据え置かれる傾向が見られます。ただし、これはあくまで現時点での話にすぎません。
実際に、2024年7月に実施された利上げでは、同年秋頃に変動金利が上昇するなど、政策金利の引き上げと住宅ローン金利の上昇には数か月のタイムラグが生じることが多く、今後の動向には注意が必要です。また、2025年1月の金融政策決定会合では、日本の中立金利は1% であるとの意見もあり、今後さらに政策金利が上昇すれば、変動金利も上昇する可能性が高いといえます。
固定金利
変動金利と異なり、固定金利ではすでに影響が出ている商品があります。大手銀行5行は、2025年1月31日に2月の住宅ローン金利(固定10年)を前月比で0.06~0.25%引き上げると発表しました。この上昇は、2025年1月の10年国債利回りの上昇が主な要因と考えられます。
一般的に、長期金利(10年国債利回り)に連動する固定金利は、変動金利よりも早いタイミングで影響を受けることが多く、今回もそれに倣って先に上昇しました。
かつて、長期金利は日銀のイールドカーブコントロール(YCC)政策によって抑えられていましたが、2024年3月に物価上昇の一定の目処がついたことを理由に解除されました。そのため、今後も長期金利の上昇が続く可能性が懸念されています。
03今後の金利動向の予測
今後の金利動向の鍵を握るのは、物価上昇率(インフレ率)の推移です。これまで、日銀は物価上昇率2%を安定的に達成することを目標に、金利を低く抑えてきました。これは言い換えると、2%を安定的に超えれば、さらなる利上げの可能性があるということです。
海外の見方と国際情勢の影響
日本の政策金利の動向については、海外でも概ね同様の見方がされています。国際通貨基金(IMF)は、2025年の日本の経済成長率が1.1%に達する見通しを示しており、それに伴い物価上昇が続くことで、日銀が2025年内に追加の利上げを実施する可能性があると指摘しています。さらに、2027年末までに政策金利を1~2%の間まで引き上げる可能性も示唆されています。
また、日銀の金利動向に影響を及ぼすアメリカ経済の不透明感も考慮する必要があります。特に、トランプ前大統領の再選の可能性や、アメリカの「アメリカ・ファースト」政策によって、今後の米国経済の先行きが不透明な状況になっています。
加えて、ウクライナや中東の地政学的リスクが続いていることもあり、日銀は政策金利の判断において慎重な姿勢を維持すると考えられます。
04利上げによる家計全体への影響は?
これまで紹介したように、日銀の物価見通しやIMFの予測から、今後、政策金利が引き上げられる可能性が高いと考えられます。これに伴い、住宅ローン金利も上昇する恐れがあります。
住宅ローンの負担が増えると、可処分所得(実際に使えるお金)が減少し、消費支出の抑制が懸念されます。つまり、大きな買い物や耐久財の購入を控える動きが強まり、住宅購入意欲の低下につながる可能性があります。こうした影響は、ローンを多く抱える世帯でより顕著になり、返済が厳しくなる家庭では生活費の見直しが必要になるでしょう。
特に、変動金利で住宅ローンを組んでいる世帯は注意が必要です。変動金利は政策金利の影響を直接受けるため、今後数年で返済総額が大幅に増加するリスクがあります。
金利上昇のメリットもある?
ただし、政策金利の上昇は、家計にとって必ずしもマイナスばかりではありません。例えば、定期預金や普通預金の金利も上昇し、利息収入が増加するため、預貯金が多い世帯にとっては一定のメリットがあります。また、投資や資産運用を行っている家庭では、運用商品によっては金利上昇がプラスに働き、ローン負担を相殺できる可能性もあります。
今後の金利上昇に備える具体的な対策については、下記の関連記事で詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
05【金利上昇シナリオ別】返済額シミュレーション
それでは、金利が上昇した場合に住宅ローンの返済額がどれくらい増えるのかをシミュレーションしてみましょう。今回のシミュレーション条件は以下のとおりです。
【シミュレーション条件】 借入金額:3000万円 返済期間:35年 返済方式:元利均等返済 初期金利:0.5%(変動金利) 金利上昇シナリオ:5年ごとに金利が0.5%上昇 上記の条件をもとに試算した毎月の返済額は、以下のようになります。 |
期間 | 金利 | 毎月の返済額(元利合計) |
---|---|---|
初回~5年目 | 0.5% | 約8万1000円 |
6~10年目 | 1.0% | 約8万5800円 |
11~15年目 | 1.5% | 約9万800円 |
16~20年目 | 2.0% | 約9万6000円 |
21~25年目 | 2.5% | 約10万1500円 |
26~30年目 | 3.0% | 約10万7200円 |
31~35年目 | 3.5% | 約11万3100円 |
シミュレーションの結果、初期金利0.5%の場合の毎月の返済額は約8万1000円でしたが、最終的に金利が3.5%まで上昇すると約11万3100円まで増加しました。つまり、毎月の返済額は初期金利と比較して約3万2100円増加し、年間で約38万5200円もの負担増となります。
このように、金利が上昇すると、それに比例して返済額も確実に増えていきます。そのため、住宅ローンを組む際は、将来的な金利上昇リスクを考慮した返済計画を立てることが重要です。
ただし、金利の正確な予測は個人では難しいため、複数のシナリオでシミュレーションを行い、その時々の金利状況に応じて柔軟に見直せるようにしておくことがポイントです。
06住宅ローンシミュレーターを活用し、将来の返済計画をしっかりと立てよう!
現在の日本は金利環境が変化しているため、住宅ローンを利用する際には将来的な金利上昇に備えることが大切です。今回紹介したように、日銀が利上げを行うと、主に変動金利が上昇し、家計負担が増加するリスクが高まります。
金利上昇時には、借り換えや繰り上げ返済、借入金額の見直しなどの対策が有効です。そのため、いざというときに備え、自身の資産状況やライフプランを整理しておくことが重要です。
当サイトでは、以下のような住宅ローンの返済計画に役立つシミュレーターを提供しています。
- 毎月の返済額シミュレーター:金利の違いによる毎月の返済額を簡単に試算可能
- 借入可能額シミュレーター:月々の支払額から、無理のない住宅購入予算を算出
金利上昇時の返済シミュレーションを複数作成し、しっかりとした返済計画を立てるのに活用してください。将来の家計負担を見据え、最適な住宅ローンを選びましょう!

監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
関連キーワード