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住宅ローンは35年超えの時代へ?長期化するローン市場の現状とリスクを解説
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これまで、住宅ローンの返済期間は最長35年が一般的でした。しかし、近年続く住宅価格高騰、低金利環境や日本人の長寿化に伴うライフスタイルの変化など複数の要因から、特に20代・30代の住宅購入者の間で、40年や50年といった長期住宅ローンを選択する動きが加速しています。長期住宅ローンは、かつては地方銀行が中心となって提供していたものの、現在ではネット銀行や大手銀行でも取り扱いが増えつつあり、市場規模のさらなる拡大が予想されています。 そこで、この記事では、返済期間35年超えの住宅ローンを利用する人が増えている背景、住宅市場の変化、長期住宅ローンを提供する銀行の最新動向を解説します。また、長期住宅ローン特有のリスクについても詳しく解説するので、これから住宅購入を検討する人はぜひ参考にしてください。
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0135年を超える住宅ローンが広がる理由とは?
住宅ローンの返済期間が長くなるほど、完済までの利息負担額増加などのリスクは増加します。それにもかかわらず、なぜ35年超えの住宅ローンを利用する人が増えているのでしょうか。まずは、35年超えの住宅ローンが広がっている3つの要因「住宅価格の高騰」「長寿化・ライフスタイルの変化」「住宅ローンの柔軟性向上」について解説します。
住宅価格の高騰
近年、新築・中古を問わず住宅価格が大幅に上昇しており、頭金を十分に用意できず、住宅ローンの借入額が膨らんでしまう人が増えています。住宅ローンの借入額が増えれば、その分、毎月の返済額も大きくなります。そこで返済の負担を抑えるために、ローン期間を延ばす傾向が強まっています。
この傾向は特に、住宅価格が高騰している都市部で顕著になっており、マイホームを購入するには年収の何倍もの借り入れが必要となるケースが増えています。結果として、住宅ローンの長期化が避けられない状況にあります。
日本人の長寿化とライフスタイルの変化
少子高齢化による人手不足が続く日本では、シニア層が定年後も働き続けることが一般的になっており、こうしたライフスタイルの変化も住宅ローンの長期化に影響を与えています。従来は年金を受給する年齢になると退職し、その後は働かずに暮らすことが一般的でした。しかし現在では、退職後もアルバイトやパート、契約社員として働き続け、一定の収入を得ている人も少なくありません。そのため、定年後も返済が続く可能性のある35年超えの住宅ローンに対する心理的な抵抗が薄れ、現実的な選択肢の一つとして受け入れられ始めています。
また、住宅は生活の場であると同時に、資産としての側面も持っており、将来的な資産活用の手段として長期住宅ローンを選択する意識が広まっています。「若いうちに住宅を購入し、長期間のローンで計画的に返済する」というライフスタイルが、特に若年層を中心に定着しつつあり、35年超えの長期住宅ローンの普及を後押ししています。
住宅ローンの柔軟性向上
35年超えの住宅ローンが増えてきた背景には、「住宅価格の高騰」「日本人の長寿化とライフスタイルの変化」に加え、金融機関側の柔軟な対応も大きく影響しています。
一般的に、返済期間が長くなればなるほど、返済期間中に万が一のことが起こるリスクは高まります。そのため、各金融機関はこのリスクに対応するため、特に団体信用生命保険(団信)の保障充実に力を入れています。団信の保障が充実することで、万が一のことがあってもローン残債がゼロになるため、長期ローンを組む際の心理的なハードルが低くなっています。
こうした金融機関の取り組みにより、若年層が安心して長期住宅ローンを利用できる環境が整いつつあります。
0235年超え住宅ローンのシェア拡大による金融機関の新たな動き
これまでの住宅ローンでは、大手銀行・地方銀行ともに最長で返済期間35年が一般的でした。しかし、この流れに変化をもたらしたのが地方銀行による50年ローンの取り扱い開始です。地方銀行が長期住宅ローンの提供を始めた理由は、メガバンクの資金力や、低金利を武器にするネット銀行の台頭により、住宅ローン市場が縮小傾向にあったことにあります。危機感を抱いた地方銀行は、他行との差別化を図るため、より柔軟なプランを提供するなかで、50年ローンという商品を生み出しました。
長期住宅ローンは「毎月の返済額を抑え、住宅を購入しやすくなる」というメリットがあり、消費者に支持されました。さらにネット銀行が参入し、市場規模が拡大したことで金融機関の競争も激化。フィンテックを活かしたスピーディーな審査や低金利プランの提供が進み、特に若年層の取り込みが加速しています。
この流れはすでに大手銀行にも波及しており、現在では三井住友信託銀行が借入期間40年の住宅ローンの提供を開始(35年ローンの審査を通過した人のみが利用可能)。また、三菱UFJ銀行は日銀による利上げ後も適用金利を据え置き、競争力を維持する戦略を取っています。
長期住宅ローンの需要の高まりを考慮すると、今後は35年超え住宅ローンを取り扱う金融機関が徐々に増えていく可能性が高いと予想されます。
0335年超え住宅ローンで懸念される「2つのリスク」
ここまで紹介してきたように、長期住宅ローンには「毎月の返済額を抑えられる」というメリットがあります。そのため、住宅価格が高騰している状況において、家計に無理なく借りられる住宅ローンとして人気が高まっています。
しかしその一方で、返済期間が長くなることによるリスクも忘れてはいけません。ここからは35年超え住宅ローンで懸念される2つのリスクを紹介するので、利用を検討している方はしっかり確認しましょう。
金利上昇リスク
長期住宅ローンを変動金利で組む場合に、特に注意すべきなのが金利上昇リスクです。変動金利は固定金利に比べて借入当初の金利が低いことが魅力ですが、その金利は経済情勢に応じて変動します。
日銀が異次元の金融緩和を始めた2013年ごろから、金利は特に低水準を維持していました。しかし、経済環境の変化を受けて、現在の日銀は金融緩和からの脱却を進めており、2025年1月の金融政策決定会合では政策金利を0.5%程度に引き上げることを決定しました。こうした動向は今後も続くと考えられており、市場関係者の間では、2025年中にも政策金利が1%程度まで引き上げられる可能性があると予想されています。
特に、変動金利は日銀の政策金利の影響を強く受けるため、各金融機関が変動金利に連動する短期プライムレートを引き上げる可能性が高まっています。金利上昇リスクを抑える方法として、住宅金融支援機構が提供する「フラット50」などの全期間固定型を選ぶのも選択肢の一つです。しかし、固定金利は変動金利に比べて当初の金利が高めに設定されるため、毎月の返済額を抑えられるという長期ローンのメリットを十分に享受できない恐れがあることも理解しておきましょう。
住宅価値の下落によるオーバーローンのリスク
住宅は生活の場であると同時に、資産としての側面も持っています。そのため、市場の需給バランスによって価格が変動します。現在、都市部を中心に住宅価格は上昇傾向ですが、この上昇が今後も続くかどうかは誰にも分かりません。
将来的に住宅価格が下落した場合、ローン残高が売却価格を上回る「オーバーローン」状態に陥るリスクがあります。特に、返済期間が長い住宅ローンほど、価格変動の影響を受けやすく、最悪の場合、資産価値の下落により「売却してもローンが完済できない」という事態に陥る可能性があります。
日本では、人口減少や空き家問題が深刻化しており、今後の住宅市場がどのように変化するかは不透明です。そのため、長期ローンを組む際には、現在の市場動向だけでなく、将来的なリスクも考慮した慎重な判断が求められます。
0435年超え住宅ローンを利用する前にリスクをしっかり理解しよう
現在、住宅ローン市場では、若者世代を中心に住宅価格の高騰やライフスタイルの変化などが影響し、35年超えの住宅ローンの市場規模が拡大しています。こうした長期住宅ローンは、毎月の返済額を抑えられるため、従来のローンでは手が届かなかった物件の購入が可能になるというメリットがあります。
一方で、金利上昇や住宅価格の変動といったリスクには注意が必要です。特に、変動金利で長期住宅ローンを組む場合は、今後の金利動向を見極めることが重要です。しかし、物件価格が高止まりしている現状では、長期住宅ローンのニーズが今後さらに高まる可能性があります。実際、金融機関もこうしたニーズに応じ、長期住宅ローンの選択肢を拡充しています。長期住宅ローンのリスクを少しでも減らすには、購入価格や金利、返済期間を事前にシミュレーションし、ライフプランに合った資金計画を立てることが重要です。
当サイト内には、適切な予算を知るために便利な「住宅購入予算シミュレーター」や、金利の違いによる月々の支払額を簡単に比較できる「毎月の返済額シミュレーター」など、住宅予算を決めるのに役立つ各種シミュレーターを用意しています。これから住宅を購入する予定の方は、ぜひ活用してみてください。
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監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。