認知症とうつ病に対する住宅ローン団信、新潟の地銀で全国初の取り組み
高額な借り入れになりやすい住宅ローンでは、万が一病気や事故などで計画通りの返済が難しくなったときに備えて、団体信用生命保険(以下、団信)に加入するのが一般的です。しかし、これまでの団信は「がん」や「生活習慣病」など、病気に対する保障が充実している商品はあったものの、「認知症」や「うつ病」といった症状までカバーしているものはありませんでした。 しかし、このたび新潟市を拠点とする第四北陸銀行が全国で初めて住宅ローンに付帯する団信の保障に認知症とうつ病を追加し、話題になっています。このような商品が広がっていけば、今後は精神的・身体的リスクの双方に備えたい住宅ローン利用者にとって、より安心感のある選択肢が増えるでしょう。この記事では、第四北陸銀行が提供する新しい団信の保障内容や特徴、利用するメリットなどについて解説していきます。
01全国初!第四北越銀行の「認知症」「うつ病」を付帯した住宅ローン団信とは?
これまでの団信は、がんなどの病気にかかって契約者が死亡もしくは所定の高度障害状態になったときに住宅ローン残高相当分の保険金を生命保険会社が金融機関に払う一方、認知症やうつ病といった症状によって働けなくなった場合の保障はありませんでした。しかし、住宅ローン契約者が働けなくなって収入が減り、毎月の返済が難しくなるという点においては、がんなどの病気と認知症やうつ病といった症状の間に違いはありません。そのため、これまでも銀行や団信を取り扱う保険会社には認知症やうつ病の保障についての問い合わせが数多くありました。
そうしたニーズの多さを考慮し、2024年12月2日から全国で初めて取り扱いが始まったのが第四北陸銀行の「全疾病保障付団体信用生命保険」への「認知症およびうつ病を補償対象とした特約の追加」です。当該特約では、仮に認知症と診断された場合に一時金として100万円を受け取れるほか、うつ病などの特定精神障害によって就業不能状態が1カ月を超えた場合に、最大3カ月(通算最大6カ月)まで毎月の住宅ローン返済相当額の返済が免除されます。
また、それとは別に、特定精神障害と診断され入院する必要が生じたときは、10万円の給付金(2回が限度)を受けとれます。いずれも待機期間や責任開始日以降に診断された場合に限る点や、団信を利用する際に借り入れ金利が上乗せされる点には気を付けなければいけませんが、万が一特定精神障害で働けなくなったときやこれまでそうした症状で悩んだ経験のある人にとって大きな安心材料になるでしょう。
02「認知症」「うつ病」が保障対象の住宅ローン団信に加入を検討すべき人
先述のように、このたび第四北陸銀行が認知症やうつ病を保障対象にした住宅ローンの団信を提供することになりました。しかし、特約付きの団信への加入は住宅ローン金利が上乗せされるため、自身の健康リスクと総返済額のバランスを考慮して決めることが大切です。そこで、ここからは認知症やうつ病が保障対象になった住宅ローン団信に加入を検討すべき人を紹介します。
長期的な健康リスクを懸念している方
住宅ローンは借入金額が高額なので、毎月の支払いを楽にするために30年から35年といった長期の返済期間を選択する人も多いでしょう。一般的に、認知症およびうつ病は高齢化やストレスの増加が要因といわれており、誰でも発症する恐れがあるので、返済期間が長ければ長いほどリスクが高まります。特約が付帯している団信を利用すれば、万が一そのような症状に悩まされたとしても返済負担を軽減できるため、長期間の返済になりがちな住宅ローンを組む際の不安も和らぐはずです。
家族の経済的な負担を軽減したい方
症状にもよりますが、認知症やうつ病が発症すると十分に働けなくなることがあります。すると、収入が減って毎月の住宅ローンの返済が苦しくなるかもしれません。しかし、この特約が適用されれば保険が住宅ローンの返済を一時的にカバーしてくれるので、家族の経済的な負担を軽減してくれます。特に、一家の主要な収入源である人が契約者の場合は、家族にとって大きなメリットがあるでしょう。
精神的なストレスが多い方
特定精神障害が保障対象になった団信は、日頃から精神的ストレスを受けやすい環境にいる人に向いています。一般的にうつ病などの発症には精神的ストレスが関係すると言われているのでノルマや残業が多い、顧客からのクレーム対応を任されているなど、日ごろからストレスの多い仕事に従事している人は加入を検討してみるとよいでしょう。
また、過去に家族が認知症やうつ病の症状で悩まされたことがあり、自身の精神的な健康リスクを感じている人も同様です。なお、既往歴があると団信に加入できない場合があるので、これまでに軽い症状でも精神障害に罹患したことがある人は、事前に加入できるかどうかの確認を忘れないようにしてください。
03「認知症」「うつ病」の特約を付帯した場合の支払いシミュレーション
第四北陸銀行が新しく取り扱いを始める特約では「認知症」や「うつ病」が保障対象に含まれるため、長期間にわたって返済を続ける住宅ローンを利用する際の安心材料の1つとなります。しかし、特約を付帯した場合は住宅ローン金利が上乗せされるため、実際にどれくらいの支払いが増えることになるかをしっかりシミュレーションしておくことが大切です。そこで、ここでは2024年12月時点での第四北陸銀行の住宅ローン金利を参考に、「認知症」や「うつ病」を保障対象にした特約を申し込むと、どれくらい支払いが増えるのかをシミュレーションしてみましょう。
まず、前提として認知症やうつ病を特約で保障対象に加えられる「全疾病保障付団体信用生命保険」を選ぶと、通常の借入金利に0.3%、夫婦連生の場合は0.8%が上乗せされます。例えば、第四信用保証(株)の保証料後払型、変動金利を選択した場合、金利は年0.975%(保証料率年0.1%を含む)です。全疾病保障付団体信用生命保険を選ぶと、これに通常0.3%の金利が上乗せされるので年1.275%が適用されます。
仮に、借入金額4000万円、借入期間35年で住宅ローンを契約した場合、毎月の返済額は以下の通りです。
- 年0.975%の場合・・・毎月の返済額11万2448円(年間134万9376円)
- 年1.275%の場合・・・毎月の返済額11万8113円(年間141万7356円)
上記シミュレーションでは月額で5665円、年間で6万7980円の差があることがわかります。ただし、35年間トータルでみると、年0.975%の総返済額は約4723万円、年1.275%の総返済額は約4959万円で、その差額は約236万円です。高額な借り入れになる住宅ローンでは、わずかな金利差が長期間では大きな負担増につながりやすいので、月々の負担は小さく見えても「総額でいくら支払うか」までしっかり確認しておきましょう。また、変動金利の住宅ローンを選択した場合は、将来的に金利が上昇すると返済負担がさらに増える恐れがあることも忘れてはいけません。
今回紹介したシミュレーションの負担額が大きいかどうかは人それぞれの状況によって異なりますが、健康リスクに備える保険としての安心感と金利上昇による累積的な負担を比較して、加入の是非を判断してみてください。
ただし、団信はあくまでも住宅ローンの返済についての保障を目的とするものです。完済後のことまで考慮するなら、民間の生命保険を利用するほうが良いケースも考えられます。
04団信で将来の健康リスクによる不安を解消!安心してマイホーム取得を目指そう
一般的に認知症やうつ病は特に高齢者やストレスの多い環境で発症しやすいといわれています。返済が長期間にわたる住宅ローンの団信に、今回紹介したような特約を付加すれば、万が一そうした疾患で働けなくなって収入が途絶えた場合でも、住宅ローンの返済負担を軽減できます。収入が減少するリスクが低くなれば、家族への経済的な負担が減って精神的なストレスが軽減されるだけでなく、資産形成や生活設計にもプラスの影響があるはずです。安心してマイホームを取得するためにも、団信の補償内容と加入した際の金利上乗せ分を加えた返済額を確認したうえで返済計画を作成し、加入を検討してみてください。
なお、当サイト内には自分の年収や家族構成などからぴったりの住宅予算を把握できる「住宅購入予算シミュレーター」や金利の違いで月々の支払がどれくらい変わるかを簡単に比較できる「毎月の返済額シミュレーター」など、住宅ローンの返済計画作成に役立つ各種シミュレーターがそろっています。これから住宅ローンを組む予定の人は、試してみてはいかがでしょうか。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。