完成直前のマンション解体騒動 クローズアップされた「眺望」という価値

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2024年6月、東京都国立市で大手ハウスメーカー・積水ハウスが建設中の分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」が、完成目前にして急遽解体されることになったという報道がありました。 解体の理由は「遠景に関する検討が不十分で、富士見通りから見える富士山の眺望を優先したため」とされていますが、完成直前のマンションが解体されるケースは極めて異例であり、不動産業界に衝撃が走りました。また今回の解体騒動によって、不動産における「眺望」の価値があらためてクローズアップされています。 この記事では、今回の件でマンション解体に至った詳しい経緯や背景を紹介するとともに、「眺望」が不動産の価値に与える影響や、未完成のマンションを購入するリスクなどについて解説します。

01急遽、解体に至った完成間近の分譲マンション

まずは、今回急遽解体が決まったマンションがどのような物件だったのか、その概要を確認していきましょう。

解体となる分譲マンションは、積水ハウスが東京都国立市に建設中の「グランドメゾン国立富士見通り」という物件です。JR中央線「国立」駅から約700m(徒歩10分)の富士見通り沿いに建設中でした。

富士見通りとは、国立駅南口の駅前広場「円形公園」から南西方面に延びる通りのこと。円形公園から南方向には、一橋大学が面することから名付けられたメインストリートの大学通り、南東方向には旭通りが伸びています。

富士見通りはその名のとおり、富士山が見えるよう都市設計された道路であり、晴れた日には視線の先に富士山がよく見えるため「山アテ道路」の一つとしても知られています。山アテ道路とは、直線的な道路の延長線上に山を配置する道路設計技法を取り入れた、山のほうまで続く直線道路のことです。

こうした通りの北側沿道に建てられた当マンションは高さ10階建て(約30m)、総戸数は18戸という比較的小規模な分譲マンションです。価格帯は7000万〜8000万円が中心で、2024年6月下旬の完成予定を目前として、全18戸のうち一部は成約済みだったといいます。

しかし事態は一変し、完成を間近に控えた2024年6月4日付で、事業主の積水ハウスは事業中止と建物解体を国立市に届け出たのです。

積水ハウスは事業中止の判断に至った理由として、特に遠景からの富士山の眺望に関する検討が不足していたことを挙げました。配慮不足により、マンション契約者や地域住民に迷惑をかける事態を避けるため、同社が自主的に解体を決定したとのことです。

02マンション建設の計画段階で「富士山が遮られる」と反対の声が多数

次に、今回のマンション解体の経緯について見ていきましょう。

マンションの建設計画は騒動の3年前、2021年2月に公表されました。しかし計画公表の直後から、近隣住民より「マンション建設によって富士見通りから富士山を望めなくなり、景観が損なわれる」といった声が多数挙がっていました。

こうした意見を受け、国立市のまちづくり審議会では、数回にわたって事業主へのヒアリングを実施。周囲の建物から突出した高さにならないようにしてほしいと要望を出していました。具体的に審議会の開催請求者が提示した高さは4階であり、当初計画されていた36mの高さでは「富士見通りのまちなみ景観が毀損される」と主張していたのです。加えて、建築面積・延床面積を計画の半分程度に抑えることも要望していました。

これに対し、事業主の積水ハウスは圧迫感軽減のため、建物階数を当初の11階建てから10階建てに変更し、高さを30.95mに抑えた計画へと見直します。階数の減少に伴って住戸数も20戸から18戸へと縮小したため、事業性の観点から全ての要望を受け入れることは難しいと回答しました。

眺望の問題だけではなく、富士見通り沿い北側の建物が日照や風通しを侵害されることも懸念され、周辺住民はその後も計画の見直しに向けた対応を求める陳情を市議会に提出しています。そのような中で2022年11月、国立市は建設を承認、2023年1月の着工に至ったのです。

しかし、完成が近づいてくるにつれ建物の富士山に対する影響が現実的なものとなってきます。積水ハウスは富士見通りからの眺望を優先する判断に至り、事業を中止して完成間近だった建物を解体するという異例の判断を下すに至りました。なお、着工までの進め方や設計内容等に法令上の不備はありません。

03マンション解体騒動でクローズアップされた「眺望」という価値

一連の問題を通してあらためて浮き彫りになったのが、「眺望」が不動産の価値に与える影響の大きさです。

「富士山」というのは、首都圏の住宅における眺望の中でも特に重視されるものであり、「富士山が見える」ということ自体が、国立市で暮らす人たちにとっては大きな資産価値になっています。だからこそ、富士山の眺望を遮る可能性があるマンション建設には、当初から反対する声も多くありました。

積水ハウスも当該マンションの広告で「富士山が見えること」を物件の大きなアピールポイントとして掲げており、富士見通りの眺望の価値を認識していたことは明らかです。すでに数組いたという契約者も、富士山を望む眺望に魅力を感じていた部分もあったことでしょう。

しかし、いざマンションが実際に建ってみると「国立駅から見て富士山が半分ぐらいしか見えない」状況になりました。上記を踏まえ、積水ハウス側も景観に著しい影響があるといわざるを得ない状況になり、解体の判断に至ったものと考えられます。

気にいった眺望で約8割が購入予算をアップするというデータも

実際、富士山が見える眺望というのは、どれだけの価値があるのでしょうか。

株式会社リクルート住まいカンパニーが2018年、都心居住者を対象として行った調査によると、気に入った眺望や借景があった場合「住宅の購入予算を上げられる」と回答した人は、実に全体の約8割に上りました。また、約3割の人が200万〜500万円未満なら上げられると回答しており、眺望にはそれだけの価値があると考えてよいでしょう。

また、「価値のある眺望・借景」についても調査しており、富士山は「緑」に次いで2番目に価値があるという結果が出ています。

それだけ都心居住者にとって「富士山」が見えるマンションは資産価値が高いということです。多くの人にとって資産価値が高ければ、売却時も価格が落ちにくく売りやすいというメリットがあります。

今回の「グランドメゾン国立富士見通り」も同様に価値のあるマンションだったものの、富士山は近隣住民にとっても重要な眺望だったために、価値以上のリスクをはらんでいたといえるでしょう。

04周辺住民の反対運動が起きているマンションを購入することで生じるリスクとは

今回のマンションのように、自治体から建築確認が下りたあとも、周辺住民との折衝を続けることは一般的だといいます。住民から100%の賛同を得るのは難しいため、ある程度のところで見切り発車をすることになりますが、結果的にさらなる反発を招くケースもあるでしょう。

周辺住民による強い反発があるままマンションが完成した場合、購入者に引き渡されてからも反対運動が続くケースが多いうえ、状況によっては日照権や眺望権を巡って訴訟に発展するリスクもあります。

富士山の眺望は周辺住民にとっても誇りとなるものです。「富士山が見える」マンションは資産価値が高いものの、今回のケースでそのまま引き渡してしまうと、反対運動を続ける周辺住民とマンション住民の間でのトラブルに発展するなど、イメージが悪化してしまうケースも考えられます。

また、「景観への影響は小さい」と判断して建設した積水ハウスの企業ブランドのイメージにも悪影響を及ぼすかもしれません。イメージの低下が損失へとつながるレピュテーションリスクが懸念されることから、積水ハウスは前代未聞の「解体」に踏み切ったと推察できます。

未完成の分譲マンションを購入する最大のリスクは「不確実性の高さ」

未完成のマンションを売買することを「青田売り」「青田買い」といいます。物件を販売するデベロッパーからすれば、早期の資金回収が可能となること、不動産の下落局面であっても早期契約によって販売価格の下落を避けられることなど、大きなメリットがあります。

一方で買い手にとっては、物件の完成後すぐに入居できるというメリットはあるものの、今回のように最後まで完成させられずにトラブルになるケースがあったり、契約から完成・入居までに長い時間がかかったりするなど、全体的な不確実性が高い点は大きなリスクです。

かつては、中小企業のマンションは資金面から不確実性が高いのに対し、資金力のある大手企業のマンションは安心というのが業界の常識でした。しかし、今回のケースによって大手企業でもこうしたリスクがあることが顕在化したため、今後も眺望を理由に同じようなケースが起こる可能性は否定できません。

05未完成の物件を住宅ローンで購入するときは「適用金利が決まるタイミング」もチェックしよう

「富士山が見える」という眺望の価値を巡って、完成間近で異例の解体という判断に至った国立市のマンション。不動産における眺望の価値を再考させるきっかけになったこの騒動は、単なる一地域の問題にとどまらず、今後、全国で眺望を売りにする未完成物件に波及する可能性を秘めています。

マンション購入で多くの人が利用する、住宅ローンの適用金利は「申込時金利」または「融資実行時金利」のどちらかです。フラット35や大半の民間ローンは「融資実行時金利」が適用され、未完成物件を購入する場合でも「融資実行時金利」、すなわち引き渡し時の金利が適用されます。そのため、変動金利の上昇が懸念される現状において、引き渡しまで期間が長いと、金利の上昇に伴ってローン返済額が増えてしまうかもしれません。

農協(JA)や信用金庫を中心に、適用金利に申込時金利を選択可能な金融機関もあるため、未完成物件を住宅ローンで購入する場合はチェックしてみることをおすすめします。金融機関ごとの最新金利については、こちらの最新金利ランキングをご活用ください。

最新!住宅ローン 金利ランキングと金利動向

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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