マンション修繕積立金、増額しても当初の1.8倍まで!物件購入の安心材料に
社会問題にも発展しているマンションの修繕積立金について、国土交通省は修繕積立金の増額が区分所有者の過度な負担とならないように上限を設ける方針を固めました。その上限は最大でも当初の修繕積立金の約1.8倍となる予定です。 こうした制度ができることで、当初の見込みよりも実際に徴収する修繕積立金が大幅に増額され、家計が苦しくなるといった状況は回避できる可能性が高くなり、マンション購入時の安心材料の1つになるでしょう。そこでこの記事では、修繕積立金の増額幅の基準値が新たに規定されることになった背景や、それによって物件購入時に今後気を付けるべきポイントについて解説していきます。
01国土交通省、マンション修繕積立費の増額幅基準を規定する方針に
今後新しく運用される見込みの制度では、修繕積立金を段階的に引き上げる方式で区分所有者から徴収する場合、最終額を均等に割った額の1.1倍以内に抑えるような案を検討しているとのことです。
また、国土交通省では物件を販売しやすくするために、売り出し当初の修繕積立金を意図的に低く設定する事業者がいることも問題視しており、初期の設定額も同金額の0.6倍以上になるように下限を定める方針になっています。仮に購入時の修繕積立金の金額が下限の0.6倍であれば、最終的に1.1倍になったときの増額幅は約1.8倍となる計算です。
例えば、新築マンションの購入時の修繕積立金のベースを1万5000円に設定した場合、下限は9000円 = 1万5000円 × 0.6になります。一方の上限は1万6500円 = 1万5000円 × 1.1となり、9000円からの増額幅を約1.8倍(1.83 = 1万5000円 ÷ 9000円)に留めるような仕組みを予定しています。
02国がマンション修繕積立費の増額幅を規定する背景とは
国土交通省が今回のような仕組みづくりを始めた背景には、近年続く修繕積立金の増額が影響しています。
国土交通省が調べたところ、修繕積立金の徴収額はマンション購入時に比べて平均で3.6倍も上がっていて、中には10倍超のケースもあったとのことです。修繕積立金は一般的に当初の積立額を低く設定する分、一定期間が経過するごとに徐々に徴収金額を上げていく「段階増額積立方式」を採用しているところが多いです。段階増額積立方式は購入者側に「初期費用が安くすむ」といったメリットがあるだけでなく、マンション販売会社側にも「ランニングコストを少なく見せることで販売しやすくなる」といった双方にメリットがある販売方法なので広く普及しています。
とはいえ、大規模修繕はいつか必要になる工事であり、段階増額積立方式は費用負担を先送りしているにすぎません。当初の修繕積立金をあまり低く設定すると、やがて徴収額を大幅に増額しなければいけなくなり、最悪のケースでは資金が不足して大規模修繕が行えない状況になることも考えられます。その結果、管理不足による外観の悪化や管理組合の健全性が問われるなどといった理由によって、いつか売却しようと考えたときに思うように売れなくなるかもしれません。そのような事態にならないように、今回国土交通省は修繕積立金の取り扱いを明確にルール化しようとしているわけです。なお、修繕積立金が高騰している現状について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
03物件別・購入時のポイント
ここまで国土交通省が新たに導入を予定している修繕積立金の増額基準の概要について紹介してきました。それでは、これらの基準が実際のマンション購入にあたってどのような影響を及ぼすのでしょうか。ここからは新築・中古といった物件別にマンションを購入する際のポイントについて解説していきます。
【新築マンション】購入時に高く設定される可能性がある
新築マンション購入時に注意したいポイントは、新しい制度が運用されることに伴って修繕積立金の初期設定額が高くなる恐れがあることです。これまで販売事業者は意図的に当初の修繕積立金を低く設定することで消費者の目先の負担感軽減をアピールし、販売しやすくしてきました。しかし、今後は修繕積立金の下限が設定される見込みで、そのような手法が難しくなることから、新築当初から修繕積立金を高めに設定するケースが増えることが予想されます。
また、上限と下限が設定され、他の競合マンションとの修繕積立金の差別化が難しくなったことで、今後は長期修繕計画で見込まれる修繕工事費の累計額を均等に徴収する「均等積立方式」を採用するマンションが増える可能性があります。均等積立方式は段階増額方式に比べて当初の費用負担が増える点はデメリットですが、毎月の修繕積立金が一定であるため、家計が安定しやすいのがメリットです。
近年ではそうしたメリットに注目が集まっており、実際に各自治体が定めるマンション管理適正化推進条例では事業者に対し、修繕積立金の徴収方法を段階増額方式ではなく、均等積立方式を採用するように促しています。国土交通省の新しい基準の導入によって価格高騰が続く新築マンションでも、自身の身の丈にあった物件を選びやすくなるでしょう。
【中古マンション】修繕積立費の上限を確認してから購入できる
国土交通省が修繕積立金の増額基準を設けることで、中古マンションでも修繕積立金の上限を把握しやすくなることが期待されます。一般的にマンションは築年数が古くなればなるほど修繕する箇所が増えるため、修繕積立金も高くなる傾向にあります。特に中古マンションの場合は購入後すぐに大規模修繕が始まり、工事後は次の修繕に向けて修繕積立金が増額されるリスクも考えておかなければいけません。
しかし、修繕積立金の上限が規定されていれば、事前に「どれくらい値上がりする可能性があるか」をシミュレーションしておくことが可能です。今後は修繕積立金が最大でも当初の金額の1.8倍までになる予定なので、これまで以上に将来を見越した返済計画を立てやすくなるでしょう。
04マンション購入はランニングコストを考慮した資産計画を!
マンションは戸建てとは異なり、不特定多数の人が共同で住む住宅です。そのため、毎月の修繕費や管理費といったランニングコストをそこに住んでいる人達で負担し合わなければいけません。今後、修繕積立金の上限が規定されるとはいっても、購入前に「ランニングコストがどれくらいかかるか」はしっかりイメージしておきましょう。
なお、住宅ローンの利息も長期間にわたって支払わなければいけないランニングコストの1つです。ついに日銀はマイナス金利政策の解除に動きました。将来的に金利がどのように推移するかを正確に予測することは誰にもできないため、住宅ローンの利用にあたってはしっかりシミュレーションをしておくことが重要です。
当サイト内には住宅ローンの返済イメージをつかむのに役立つ各種シミュレーターを用意しており、特に金利の違いで毎月の返済額がどれくらい変わるかをチェックしたい人には「毎月の返済額シミュレーター」がおすすめです。これから住宅購入を考えている人はぜひ試してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。