住居の住み替えで必要になってくる各種税金と控除特例について解説
住居の住み替えで不動産を売買すると、様々な税金が課されます。今回は、住居を住み替えたときにかかる税金の概要や納税のタイミング、そして税金を安く抑えることができる特例や特例利用にあたっての注意点などを解説します。
01住居を住み替えるとどのような税金がかかる?
自宅を売却し、新居を購入して住み替えた場合にかかる税金は、原則として「不動産取得税」、「登録免許税」、「譲渡所得税」、「印紙税」の4種類です。それぞれの概要と納税のタイミング、納付先は次のとおりです。
税金の種類 | 概要 | 納税のタイミング | 納付先 |
不動産取得税 | 不動産を取得した際に課される地方税。 税額の求め方:固定資産税評価額×税率(原則4%) ただし、2021年3月31日までに取得した場合は以下の軽減措置が設けられている。 【税率の軽減措置】 宅地:固定資産税評価額×1/2×3%住宅:固定資産税評価額×3% |
所有権移転登記をしてから概ね6カ月以内に自宅に届く納税通知書に従って期限内に支払う | 都道府県 |
登録免許税 | 取得した不動産の所有権登記を行うにあたって国に納める税金で「登記料」とも呼ばれる。 税額の求め方:固定資産税評価額×税率(登記の種類によって異なる。0.4~2%) 登記には主に、すでに登記されている土地や建物を取得した場合に行う「所有権移転登記」、建物を新築した場合に行う「所有権保存登記」、取得した不動産を住宅ローンの抵当に入れた場合に行う「抵当権設定登記」などの種類がある |
原則として土地や建物の引き渡しと同時に行われる。登記手続きは一般的には司法書士によって行われるので、買主は具体的な作業をする必要はない | 国 |
譲渡所得税・住民税 | 住み替えなどにあたって自宅を売却して利益を得た場合、その利益は譲渡所得となり、所得税と住民税が課される。 税額の求め方:{売却価額-(取得費+譲渡費用)}×税率 ※要件を満たせば3000万円の特別控除の特例が適用される(後述)。 税率はその不動産を所有していた期間によって次のようになる。 【5年以下の短期所有の場合】 所得税の税率30%+復興特別所得税0.63%(令和19年まで)+住民税の税率9%=39.63% 【5年超の長期所有の場合】 所得税の税率15%+復興特別所得税0.315%(令和19年まで)+住民税の税率5%=20.315% |
所得を得た翌年の確定申告で納付する | 国、市町村 |
印紙税 | 不動産売買にかかわる不動産売買契約書、建物の建築工事請負契約書、住宅ローン契約時の金銭消費貸借契約書などの契約書に課される国税。 印紙税の金額は契約書に記載された契約金額に応じて決まり、200円~60万円(売買契約書及び建設工事の請負契約書については軽減措置適用期間中は200円~48万円)。 印紙税の税額は国税庁HPで確認できる。 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/08/10.htm |
原則として、売買契約締結時に契約書などを制作した人が分担して収入印紙を購入し、売買契約書に貼ることによって納める | 国 |
02住み替え時の税金をなるべく安く抑えるには?
住居の住み替え時には、上にあげた税金以外にも不動産業者への仲介手数料や引っ越し代など様々な諸費用が発生し、その総額は新築の場合で3~7%、中古の場合は4~10%にも上ると言われています。特に譲渡所得税の税率は高く設定されており、場合によっては納税額がかなり高くなってしまうことも考えられます。例えば、短期所有の住居(所有期間5年以下)の住居を売って500万円の譲渡益を得た場合、上記の表で示した通り500万円×30.63%=153万5000円もの所得税(復興特別所得税を含む)を支払わねばならないことになります。こういった高額な諸経費がネックとなって住居の購入に踏み切れない人も少なくないはずです。そこで国では、住み替え時の税負担を軽減するために、次のような特例を設けています。
3000万円の特別控除の特例
マイホームを売却して譲渡益を得た場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3000万円が控除されるものです。
譲渡所得金額は以下の計算式で求められます。
譲渡所得金額=譲渡価格–(取得費+売却費用)
例
取得費1300万円で売却費用200万円の居住用財産を10年以内に5000万円で売却した場合:
譲渡所得金額=5000万円–(1300万円+200万円)–3000万円=500万円
所得税額=500万円×20.315%=101万575円
同じケースで3000万円の特別控除を適用しなかった場合:
課税譲渡所得金額=5000万円–(1300万円+200万円)=3500万円
所得税額=3500万円×20.315%=711万250円
税額が600万円以上も高くなってしまうことになります。
この3000万円の特別控除の特例は、主に以下のような適用条件が設けられており、これらを満たす場合に、確定申告を行うことによって適用を受けることができます。
- 自分が住んでいた家屋を売った場合
- 以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売り手と買い手が親子や夫婦など特別な関係ではないこと
など
なお、以下に該当する家屋については、この特例を受けることができません。
- この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
- 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
- 別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋
このほかの適用要件の詳細については、国税庁のHPで確認してください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
特定の居住用財産の買い換え特例
2021年12月31日までにマイホームを売却して、新たに住居を買い換えた人を対象に、「特定の居住用財産の買い換え特例」という制度があります。この特例が適用されると譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます(譲渡益が非課税となるわけではありません)。
仮に、2000万円で購入したマイホームを6000万円で売却し、その売却代金に自己資金1000万円を加えて、7000万円のマイホームを購入したとしましょう。
通常ならば、売却によって得た譲渡益4000万円が所得税の課税対象となりますが、「特定の居住用財産の買い換えの特例」の適用を受けると、売却した年には譲渡益についての課税は行われず、新たに購入したマイホームを売却するときまで課税が繰り延べられることになります。
例えば、7000万円で新たに購入したマイホームを10年後に8000万円で売却した場合、通常ならば1000万円の譲渡益が課税対象となりますが、この特例を受けていた場合は、最初の売却で繰り延べられていた4000万円の譲渡益を加えた計5000万円が課税対象になります。別の見方をすると、新たに購入したマイホームを売却しない限り、最初に売却したマイホームの譲渡益は非課税のまま据え置かれるということでもあります。一方、マイホームの売却価格よりも安い住宅に買い換えた場合は、売却価格と買い換えた住宅の購入費の差額が譲渡所得とみなされ、所得税の課税対象とみなされます。
なお、この特例の適用を受けるには、主に以下のような要件を満たす必要があります。
- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること
- 売却した年、その前の年、その前々年に3000万円の特別控除の特例を受けていないこと
- 売却金額が1億円以下であること
- 売った人の居住期間が10年以上で、かつ、売った年の1月1日において売った家屋やその敷地の所有期間が共に10年を超えるものであること
- 買い換える建物の床面積が50㎡以上のものであり、買い換える土地の面積が500平方メートル以下のものであること
- マイホームを売った年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換えること
など
このほか詳細な要件については、国税庁のHPで確認することができます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm
この特例を使った場合の具体的な例を紹介しましょう。
Q:
1995年に1000万円で購入した自宅①を、2010年に5000万円で売却。同年、その売却益4000万円に自己資金3000万円を加えて7000万円で新たに自宅②を購入し、買い換えの特例の適用を受けました。2018年に自宅②を9000万円で売却した場合、譲渡税の課税額はいくらになりますか?
A:
・2010年の住み替えによる譲渡所得4000万円(売却代金5000万円-購入費1000万円)への課税は、特例の適用により繰り延べされ、同年分としては課税されません。
・2018年の自宅②の売却については、自宅②の居住期間が10年に満たないため、買い換えの特例の適用を受けることができず、代わりに「3000万円の特別控除の特例」の適用を受けることにします。この場合の譲渡所得は以下の計算式で求めます。
9000万円(売却価格)-{1000万円(自宅①の購入費)+2000万円(自宅②購入時の自己資金)}-3000万円(特別控除)=3000万円
自宅②の居住期間は8年間(5年超)なので、税率は15.315%です。したがって、自宅①と自宅②を売却した際の譲渡所得にかかる所得税額は、
所得税額=3000万円×15.315%=459万4500円
となります。
※計算をわかりやすくするため、譲渡にかかる費用については省略しています。
03買い換え特例を受けるときの注意点
買い換え特例には、「買い換えた自宅を売却しない限り売却益が課税されない」という大きなメリットがありますが、この特例の適用を受けた場合、原則として他の特例や控除(3000万円の特別控除や住宅ローン控除)は受けられなくなることに注意が必要です。特に住み替えで新しく購入したマイホームを売却して2回目の住み替えをする場合は、1回目の住み替えで3000万円の特別控除の適用を受けていた方が、結果として納税額が少なくて済むケースも珍しくありません。
上記で紹介した「具体的な例」で、自宅①、自宅②とも売却時に買い換え特例を使わず、3000万円の特別控除の適用を受けた場合、下記の通り自宅②の譲渡益は非課税となり、結果として総納税額は買い換え特例の適用を受けた場合(納税額459万4500円)よりも少なくて済むことになります。
- 自宅①の譲渡益について3000万円の特別控除の適用を受けた場合
5000万円(売却代金)―1000万円(自宅①の取得費用)―3000万円(特別控除)=1000万円(課税対象額)
所得税納税額=1000万円×15.315%=153万1500円
- 自宅②の譲渡益について3000万円の特別控除の適用を受けた場合
9000万円(売却代金)-7000万円(自宅②の取得費用)-3000万円(特別控除)=-1000万円(非課税)
このように、3000万円の特別控除ではなく買い換え特例を使ったために、結果として数百万円単位で納税額が増えてしまう可能性もゼロではありません。将来、再度住み替えの可能性がある人は、買い換え特例と3000万円の特別控除のどちらを使う方が良いのか、税理士などの専門家に相談して、慎重に判断するようにしましょう。
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。