世田谷区のハザードマップ解説−事前に確認してリスクに備えよう−
毎年のように大きな自然災害に襲われる災害大国・日本。今年も静岡県熱海市で大雨による大規模な土砂崩れが発生し、多くの貴重な命や財産が失われる惨事となりました。こういった災害のニュースでよく耳にるすのが「ハザードマップ」です。今回はハザードマップの重要性を確認するとともに、その見方や活用法について、東京都世田谷区のハザードマップを例に見ていきましょう。
01ハザードマップとは?
「ハザードマップ」とは、「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」のことで、防災マップ、被害予測図、被害想定図、アボイド(回避)マップ、リスクマップなどと呼ばれているものもあります。ここでは水防法により都道府県および市区町村に作成が義務付けられており、各都道府県や市区町村がホームページ等で公開しているハザードマップ(浸水予想区域図)について説明します。
近年、ハザードマップの重要性に注目が集まっている理由は、大規模な自然災害が相次ぎ、甚大な被害が生じているからです。中でも、大規模な被害をもたらす豪雨は特に増加傾向にあり、国土交通省によると1時間の降水量が50mmを上回る大雨の発生件数は、1976年~1985年には年間平均174回だったのに対し、2008年~2017年は年間平均238回となっていて(※1)、日本ではここ30年間で大雨の発生回数が約1.4倍に増加しているということになります。今後も地球温暖化の影響などにより、この傾向は続くと見られており、大規模な水害の発生が懸念されています。
※1 出典:国土交通省「第3回大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策検討小委員会資料」P24
こうした自然災害から人命や家屋を守るには、災害が起こりやすい地域=災害想定区域に住まないようにすること、すでに災害想定区域内に住んでいる場合は避難場所や避難経路を確認しておくことが大切になります。こういった事情から、災害想定区域や避難場所、避難経路が掲載されているハザードマップの重要性が近年ますます注目されているのです。
不動産取引の「重要事項説明」でハザードマップ上の所在地説明を義務付け
前述のとおり、ハザードマップは各地方自治体が作成してホームページなどで公開していますが、中には確認して初めて自宅がハザードマップ上で「災害想定区域内」にあることに気づくという人もいるかもしれません。「もし、災害想定区域内だと知っていれば買わなかったのに・・・」と後悔しても、マイホームの買換えはそう簡単ではありません。後で後悔しないように、マイホーム選びの際には、目当ての物件や土地が災害想定区域内にあるのかどうか、避難場所から近いかどうかなどを確認してから購入するようにしたいものです。
さて、国では、2020年に宅地建物取引業法を改正、不動産取引時の「重要事項説明」における重要事項に、「ハザードマップにおける宅地・建物の所在地」が加えられました(宅地建物取引業法施行規則第6条の4の3第3号)。これにより、宅地建物取引業者は取引対象の不動産がハザードマップの被災想定区域内にある場合は、重要事項説明の際に、不動産の購入・賃貸予定者に対してハザードマップを提示して、不動産の所在地を指す、もしくは印をつけるなどして説明することが義務付けられました。なお、取引対象の不動産の所在地が被災想定区域外の場合も、ハザードマップ上に表示されている不動産の位置を示さなければならないとされ、被災想定区域の外であるからといって、購入・賃貸予定者が水害のリスクがないと誤認することがないような配慮を要するとされています(※3)。
とはいえ、契約直前になってハザードマップを確認するのでは遅すぎます。購入者も不動産を借りる、もしくは購入する際には、自ら自治体のホームページ等でハザードマップを確認した上で、物件探しをすることが大切です。
※3 出典:国土交通省「宅地建物取引法施行規則の一部改正(水害リスク情報の重要事項説明への追加)に関するQ&A:P3、A3-5」
02ハザードマップの見方~東京都世田谷区の場合
それでは具体的なハザードマップの見方について東京都世田谷区を例にとって見てみましょう。世田谷区では、水防法に基づく洪水ハザードマップとして、「多摩川洪水版」と「内水氾濫・中小河川洪水版」の二つを作成しています。なお、内水氾濫とは市街地などに短時間で局地的な大雨が降って下水道や排水路が水をさばききれなくなり、溢れ出した雨水で建物や土地、道路が浸水してしまうことを指します。なお、二つのハザードマップは最新版(2021年6月暫定版)が世田谷区のホームページで確認できるほか(URLは下記)、2021年8月以降は世田谷区役所の窓口で配布される予定です。
多摩川洪水版
多摩川洪水版は、国土交通省京浜河川事務所が2016年度に公表した「多摩川洪水浸水想定区域図(想定最大規模)」(想定雨量:多摩川流域の2日間総雨量588ミリメートル)をもとに、大雨で多摩川の堤防が決壊、洪水が発生した場合の浸水想定区域や浸水深、避難所等を示したものです。
内水氾濫・中小河川洪水版
内水氾濫・中小河川洪水版は、東京都が2018年度に公表した「城南地区河川流域浸水予想区域図(想定最大規模降雨改定)」、2019年度に公表した「野川、仙川、入間川、谷沢川及び丸子川流域浸水予想区域図(想定最大規模降雨改定)」(どちらも想定雨量:時間最大雨量153ミリメートル、総雨量690ミリメートル)をもとに、世田谷区内で下水が溢れる等による内水氾濫や区内を流れる中小河川の洪水が発生した場合の浸水予想区域や浸水の深さ、避難所等を示したものです。
ハザードマップから読み取れるもの
世田谷区の洪水ハザードマップには主に次のような事項が記載されています。自治体によって、あるいはハザードマップの種類によって記載事項は異なります。お住いの自治体のハザードマップで記載事項を確認しておきましょう。
- 水害時の避難所
- 避難方向の目安
- 家屋倒壊等氾濫想定区域
- 土砂災害のおそれのある地域(土砂災害特別警戒区域・土砂災害警戒区域)
- 浸水の深さ
- 浸水の深さの目安
- 河川の洪水予報(警戒レベル2~5)
- 水害時の情報入手方法(各情報源のQRコード)
- 気象情報や河川情報の収集方法(気象庁ホームページなどのQRコード)
- 非常時持ち出し品チェックリスト
- 区が推奨する備蓄品
- 台風接近時のタイムライン(事前準備~災害発生)
03ハザードマップを活用するには?
自治体の窓口やホームページで取得・確認できるハザードマップですが、いざというときに活用できなければ意味がありません。取得したら災害が起こる前に以下の内容を確認しておき、災害時にすぐに行動を起こせるように心の準備をしておきましょう。
自宅が災害想定区域内かどうか、また自宅周辺の浸水の深さを確認する
災害想定区域外であっても、自宅が平屋建てで浸水想定が0.5メートル以上の場合は、自宅外への避難が必要になるおそれがあると考えておきましょう。
自宅最寄りの避難場所/避難所とそこまでの経路を確認しておく
避難場所は生命の安全の確保を目的に、災害発生時に緊急に避難する場所です。土砂災害、洪水、津波、地震等の災害種別ごとに指定されています。
避難所は避難した住民等が、災害の危険性がなくなるまで必要な期間滞在したり、災害により自宅へ戻れなくなった住民等が一時的に滞在したりすることを目的とした場所。避難所には一般的な避難である1次避難所と、介護が必要な高齢者や障害者の方など1次避難所で過ごすことが難しい人のための2次避難所とがあります。
避難経路を想定し実際に行ってみる
自宅から避難所への経路を数通り想定して、避難所まで行ってみましょう。経路を選ぶ際には、以下のようなポイントは避けるようにしてください。
避難経路で避けたいポイント
- 道幅の狭い道路
- ブロック塀がある道
- ガラス張りのビル
- 河川
- 落下のおそれがある大きな看板
- 土砂災害危険個所
- がけや落石のあるところ
- 災害時に通行規制が敷かれることになっている場所
04過去の被災状況も確認しておこう
自治体によっては、ハザードマップに加え、過去の被災状況を公開している場合があります。世田谷区の場合は、過去の水害で浸水被害が起きた箇所をまとめた「浸水確認箇所一覧」を公開しています。ハザードマップは随時見直しが行われるので、現在のマップでは想定浸水が低い場所も過去に浸水被害が起きていた可能性はゼロではありません。自治体に問い合わせて過去の被災状況を確認しておくと、より安心です。
また、ハザードマップにおける被災想定地域や想定浸水は、想定に基づいたシミュレーションの結果であり、あくまでも避難行動を考えるにあたっての「目安」として活用できるように作られたものに過ぎません。ハザードマップに示した想定地域外でも、浸水などの被害が生じるおそれは十分にあります。ハザードマップの内容を過信せず、実際の災害発生時には実際の状況や、信頼できる情報に応じて臨機応変に判断・行動し、自分や家族の命を守りましょう。
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。
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