変動型住宅ローンの5年・125%ルールに潜むリスク、金利上昇局面での注意点
変動型住宅ローンの金利に大きな影響を与えている日銀のゼロ金利政策は、2024年上期中にも解除されるのではないかと市場の憶測が高まっています。しかし、これから住宅を購入する人の中には、「5年ルール」や「125%ルール」が適用されるのであれば、変動型住宅ローンでも安心だと考えている人もいるようです。たしかに、それらの激変緩和措置は返済額の急激な上昇を抑えることに役立つので、養育費や車の買い替えなどで一時的に大きな出費が続く状況においてはメリットにもなるでしょう。 とはいえ、金利上昇局面でも激変緩和措置があれば変動型住宅ローンを選んでも本当に安心なのでしょうか。そこで、この記事では「5年ルール」や「125%ルール」のある変動型住宅ローンを検討している人に向けて、各ルールのリスクや金利上昇局面における注意点を解説していきます。また、激変緩和措置のない変動型住宅ローンについても解説していくので、これから住宅を購入する予定の人は併せて確認してみましょう。
01「5年ルール」に潜むリスク
5年ルールとは「金利が見直されても5年間は返済額が変わらない」という変動型住宅ローンのルールの一種で、多くの金融機関が採用しています。一般的に変動型住宅ローンの金利は半年ごとに見直されますが、このルールが適用されている住宅ローンでは仮に借入当初から金利が上昇しても、それが適用されるのは6年目以降になります。そのため、5年ルールの適用期間中は毎月の返済額が金利動向に左右されることなく、計画的な返済ができるのがメリットです。
ただし、ここで注意しなければいけないのは、「5年ルールは基本的に返済金額の増加を先延ばしするだけのルールであり、適用金利の上限が設定されているわけではない」ことです。金利上昇によって増えた利払い分は6年目以降に請求される仕組みになっているため、毎月の返済額が5年間は変わらないからといって、適用期間中に増えた利息が免除されるわけではないことは覚えておきましょう。
特に元利均等返済方式の場合は金利上昇によって支払利息が増えた結果、毎月の返済に占める元金の割合が少なくなってしまい、結果的に総返済額が増えてしまう恐れがあります。また5年ルールでは金利上昇によって返済額の内訳が変わった場合でも金融機関からの通知がなく、借り入れしている本人が知らない間に元金の返済が遅れているケースもあるので注意が必要です。
借り入れ中に金利上昇すると元金と利息の割合はどう変わる?シミュレーションで見てみよう
それでは、実際に5年ルールが適用された変動型住宅ローンで、借り入れ期間中に金利が上昇すると元金と利息の割合はどれくらい変わるかをシミュレーションしてみましょう。
なお、借入条件は借入金額4000万円(当初年0.5%の元利均等返済)で、計算式は「借入金額4000万円×(年利÷12カ月)」で算出する簡易的なシミュレーションなので、あくまでも目安と考えてください。この条件で返済開始から2年後まで半年ごとに金利が0.5%ずつ上昇した場合を想定します。上記の条件でシミュレーションした結果は以下のとおりです。
適用金利(年) | 元金支払分 | 利息支払分 | 毎月の返済額合計 | |
---|---|---|---|---|
借入当初 | 0.50% | 約8万7000円 | 約1万6000円 | 約10万3000円 |
半年後 | 1.00% | 約7万円 | 約3万3000円 | 約10万3000円 |
1年後 | 1.50% | 約5万1500円 | 約5万1500円 | 約10万3000円 |
1年半後 | 2.00% | 約3万7000円 | 約6万6000円 | 約10万3000円 |
2年後 | 2.50% | 約2万円 | 約8万3000円 | 約10万3000円 |
上記表からは借入当初こそ元金が返済額のうち8割以上を占めていましたが、金利が上がるごとに利息の割合が高まり、最終的には2割にも満たない金額まで減っていることがわかります。
金利上昇の効果はかなり大きく、1年後の適用金利1.50%の時点ですでに元金と利息の支払いが半々になっています。その結果、2年後に2%ほど金利が上昇すると1回の返済では2万円しか元金を減らすことができていません。
しかし、5年ルールが適用されていると毎月の返済額は約10万3000円のままなので、借り入れを行った本人はそのことに気が付かずに「元金もきちんと減っている」と思い込んでしまうリスクがあります。
上述したように、5年ルールはあくまでも返済時期を遅らせるためのルールであり、元金や利息の支払いを免除してくれる制度ではありません。つまり、2年後には借入当初に支払っていた元金との差額である毎月約7万円(8万7000円 – 2万円)を返済しなければいけない状況に陥っているというわけです。
02「125%ルール」でさらに元金の返済が遅れるリスクも
多くの金融機関では5年ルールと同じく、変動型住宅ローンの契約時に「仮に金利が見直されても前回の返済額から125%以上までしか毎月の返済額を増やさない」という「125%ルール」の適用があります。
125%ルールも金利上昇による返済額の急激な増加を抑えるメリットがある一方で、5年ルールと同様に「知らない間に元金の返済が減っているリスク」があるので注意が必要です。例えば、上述のシミュレーションの2年後の条件(金利年2.5%)で、125%ルールが適用された場合とそうでない場合を比較してみましょう。
まず125%ルールが適用されていない住宅ローンで返済額を見直し、毎月14万円の返済を行った場合の内訳は元金約6万円、利息約8万円です。一方で、125%ルールが適用された場合の6年目以降の毎月の返済額は、約10万3000円の1.25倍である約12万8750円が上限となります。このケースでは利息の約8万円の支払いは変わらないため、元金の返済額が約4万円強となり、毎月14万円の返済を行った場合に比べて元金の返済が遅れることがわかるでしょう。
この条件で5年ルールも適用されている場合、125%ルールで抑えられた返済額は次の5年間に回され、元金の支払いが遅れる分だけ総返済額が増えることにつながります。5年ルールと125%ルールはどちらも毎月の返済額を急激に増やさないという点では有効ですが、金利上昇局面ではそれらのルールがない住宅ローンよりも最終的な総返済額が増えるリスクがあることは頭に入れておいたほうがよいでしょう。
急激な金利上昇はよほどの好景気が来ないと起こることはないといわれていますが、もし今回のシミュレーション以上に住宅ローン金利が上昇すると、利息だけで毎月の返済額を超える未払利息が発生する恐れもあります。そして、未払利息は完済時に一括で支払わなければならず、まとまった金額になると資金調達に悩むこともあるでしょう。
03金利上昇で繰上返済はNG!返済のタイミングにも注意しよう
5年ルールや125%ルールで元金支払いが遅れることを防ぐには、ある程度資金に余裕がある段階で繰上返済を行うのが有効です。繰上返済には大きくわけて、返済期間は変えずに毎月の返済額を減らす「返済額軽減型」と、毎月の返済額を変えずに完済までの期間を短くする「期間短縮型」の2つがあります。どちらも元金を減らすことで、住宅ローンの総返済額を抑えるのに効果的です。
ただし、繰上返済をする場合、タイミングによっては毎月の返済額が増えてしまう恐れがあることは理解しておきましょう。なぜ、そのようなことが起こるかというと、繰上返済をすると、その時点の金利で毎月の返済額が再計算されるケースが多いからです。その結果、総返済額は減るものの、毎月の支払い額は増えてしまい一時的に家計負担が増す場合があります。
そのため、5年ルールが適用されている住宅ローンで繰上返済を行う場合は、5年に一度やってくる毎月の返済額見直し時期に行うほうがよいでしょう。そうすれば、仮に金利が上昇しても少なくともその後の5年間は毎月の返済額が変わることなく、計画的に返済を続けていけるはずです。
04シンプルさを求めるなら「5年・125%ルール」がない変動型住宅ローンという選択肢も
変動型住宅ローンの多くには5年ルールや125%ルールが適用されていますが、商品によってはそれらのルールが適用されていないものもあります。たしかに激変緩和措置のルールは毎月の返済額を一時的に抑える効果はあるものの、結果的に支払わなくてはいけないお金を先送りしているだけに過ぎません。そこで支払いの先送りが嫌な人は、あえて5年ルールや125%ルールがない変動型住宅ローンを選ぶ方法もあります。
例えばソニー銀行や新生銀行、PayPay銀行などではそれらのルールが適用されない変動型住宅ローンを取り扱っています。こうした住宅ローンは金利変動の影響をダイレクトに受けてしまうデメリットはあるものの、金利上昇分をそのまま返済していくので未払利息が発生せず、元金が確実に減っていくわかりやすさはメリットです。
では、激変緩和措置が適用されていない住宅ローンで金利上昇が起こった場合、毎月の返済額はどのように推移していくのでしょうか。上記と同じ条件(借入金額4000万円、当初年0.5%の元利均等返済)でシミュレーションしてみたので、確認してみましょう。
適用金利(年) | 元金支払分 | 利息支払分 | 毎月の返済額合計 | |
---|---|---|---|---|
借入当初 | 0.50% | 約8万7000円 | 約1万6000円 | 約10万3000円 |
半年後 | 1.00% | 約8万円 | 約3万円 | 約11万円 |
1年後 | 1.50% | 約7万円 | 約5万円 | 約12万円 |
1年半後 | 2.00% | 約6万3000円 | 約6万7000円 | 約13万円 |
2年後 | 2.50% | 約5万7000円 | 約8万3000円 | 約14万円 |
上記表のように、金利が年0.5%から2.5%に上昇すると、毎月の返済額は約3万7000円増えることがわかります。ただし、5年ルールが適用されている表と比較すると毎月の返済額が増えた分だけ元金の支払いも増えていることがわかるでしょう。毎月の返済額が増えることで家計負担は増すでしょうが、元金をしっかり返済していくことでトータルでの出費は確実に抑えられます。また、金利上昇に合わせてその都度返済額を見直しているため、繰上返済によって毎月の返済額が上がることもありません。そのため、繰上返済を自由なタイミングで行えるのもメリットです。
05金利上昇で家計負担を増やしたくない人は「固定金利」も検討しよう
今回は変動型住宅ローンの多くで適用されている5年ルールや125%ルールのリスクについて解説しました。5年ルールや125%ルールには毎月の返済額の急激な上昇を抑えるメリットはありますが、最終的に支払う金額は変わらないどころか、元金の支払いが遅れると総返済額が増える可能性があることは覚えておきましょう。
そもそも変動型住宅ローンには、金利上昇リスクはつきものです。そのため、基本的に借り入れ期間が短く、金利動向をこまめにチェックできる人に向いています。特に今後は日銀がマイナス金利政策を解除する可能性が高くなっているので、「これまで低金利が続いてきたから、これからも大丈夫」と安易な気持ちで変動型住宅ローンを契約すると後々返済が苦しくなるかもしれません。その場合であっても、いざというときに繰上返済ができるほどの資金的余力があれば問題ありませんが、そうでない人は今後の金利動向をよく踏まえたうえでどのような住宅ローンを組むかを考えましょう。
手元に繰上返済をするほどの資金的な余裕がない人は、資金計画の立てやすい全期間固定型の住宅ローンを選んだり、変動型住宅ローンの中でも激変緩和措置が適用されていない商品を契約したりするのも選択肢の1つです。住宅ローンのタイプや金利の違いでどのくらい毎月の返済額が変わるかを具体的に知りたい人は、「毎月の返済額シミュレーター」など、当サイト内の各種シミュレーターをぜひ試してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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