引っ越すべき?東京都が私立高校の授業料を実質無償に!子育て世帯の負担はどう変わる

12

2024年4月より、東京都では私立を含めた全ての高校を対象とする授業料の実質無償化を実施します。すでにニュースでも大きく報道されており、東京近隣に住む子育て世帯を中心に「羨ましい…!」「東京に引っ越すべき?」といった声も聞かれます。 高校授業料実質無料化は、一見すると教育費の大きな負担軽減につながる政策といえそうです。しかし、東京都内の住宅コストは高騰しており、あえて東京都内に移転するメリットについては慎重に検討しなければなりません。 そこでこの記事では、東京都における高校授業料の実質無償化の概要をはじめ、この政策によって子育て世帯の暮らしはどう変わるのか、全国でも同様の動きがあるのかなど、気になる内容についてわかりやすく解説します。

01東京都、2024年4月から高校授業料の実質無償化を実施

東京都では2024年4月より都内在住の高校生を対象に、都内私立高校の授業料を実質全額助成することを決定しました。まずは東京都の授業料助成制度の仕組みを簡単に解説しましょう。

高校の授業料に関する支援制度は、国の「高等学校等就学支援金制度」と各地の地方自治体による授業料助成制度の2階建てを基本としています。

全国に適用されるのが国の就学支援金制度で、その内容は次のとおりです。

国の「高等学校進学等就学支援金制度」

  1. 公立高校は年間の授業料相当額の11万8800円を支援
  2. 私立高校は、所得の判定基準に応じた支給額
    • 年収590万~910万円の世帯:年11万8800円
    • 年収590万円未満の世帯:平均授業料相当額の年39万6000円を上限額とした授業料相当額

この国からの支援金に加えて、各地方自治体独自の授業料助成を上乗せするかたちです。たとえば東京都はこれまで、年収910万円未満の世帯を対象に都内私立校の平均授業料分までの金額を助成する仕組みになっていました。

ところが、2023年12月に東京都の小池百合子知事は年収910万円未満の世帯といった年収制限の撤廃を表明します。これにより都内在住の高校生が都内の私立校に通う場合は、世帯収入に関係なく授業料の助成を受けることができるようになりました。

ちなみに東京都内の私立高校の平均授業料は年47万5000円、高校3年間でトータルすると142万5000円です。この金額を上限に、国の支援金と東京都の助成金を合わせた金額が支給されることになります。

首都圏各県の私立高の授業料支援制度まとめ

もちろん、高校の授業料支援を行っているのは東京都だけではありません。一例として東京都を除いた首都圏各県ではどのような助成金制度があるのかまとめておきましょう(令和5年度版)。

都道府県名 助成対象の世帯 助成金の上限
神奈川県※ 年収700万円未満世帯 授業料と国の支援金の差額を補助(最大45万6000円)
年収800万円未満の多子世帯 実質無償化(最大46万8000円)
埼玉県 生活保護・家計急変世帯 授業料と国の支援金の差額を補助(授業料全額免除)
年収590万円以上720万円未満世帯 26万8200円上乗せ(最大38万7000円)
千葉県 生活保護、世帯年収640万円未満 月額授業料の全額から就学支援金を除いた差額を免除
年収750万円未満程度の世帯 月額授業料の3分の2(ただし、2万500円を上限)から就学支援金を除いた差額を免除
茨城県 授業料の上乗せ助成金なし 入学金軽減や就学支援金、奨学給付金などはあり(所得制限あり)
栃木県 世帯年収350万円未満 授業料と国の支援金の差額を補助
群馬県 授業料の上乗せ助成金なし 入学金補助はあり
※神奈川県は令和6年度の情報

神奈川県と埼玉県での助成金対象は、県内在住の生徒で県内の私立高校に通う場合に限られます。

一方で千葉県、栃木県は県内在住の私立学校に通う高校生だけでなく、県内の私立高校に通う他県の高校生も助成対象となっています。

そして残念ながら、首都圏6県の中で茨城県と群馬県は授業料に対する助成金支援制度がありません。その代わり入学金や奨学給付金への支援といったかたちで教育費用の支援を行っています。

02私立高校の授業料補助制度のばらつきで生じる、自治体の支援格差

私立高校の授業無償化についてよく議論されるのが「教育格差問題」でしょう。同じ内容の教育を受けているはずなのに、住んでいる地域によって授業料の負担が異なるのは不公平と感じる方が多いはずです。

同じ学校に通っているのに、住んでいる地域によって教育費用に格差が出てしまう問題も生じます。一例として、東京都内の同じ私立高校に通うA君(東京都在住)とB君(神奈川県在住)を比較してみましょう。

このケースではA君は東京都在住で都内の私立高校に通っているので、東京都の授業料無償化の対象です。ところがB君は神奈川県在住ですので、東京都の授業料無償化は対象外になります。

しかも神奈川県は県外の私立高校に通う生徒に対する授業料支援はありませんので、B君は国の支援金制度のみを活用できる状態となります。結果としてA君とB君は同じ高校に通っているにもかかわらず、B君はA君と比べて年間数十万円単位の授業料負担がかかってしまう可能性があります。

住んでいる地域によってこのような教育格差が生じてしまうと、教育支援制度の整った自治体への移住を考える子育て世帯が増え始めます。そこで次に問題となるのが地域の「人口減少」です。

授業料を完全無償化できない地域から子育て世帯が流出すると、その地域の税収が減ってしまいます。税収が減ると教育支援に予算を振り分ける余裕もなくなり、ますます行政サービスの質も下がってしまうでしょう。人気のない地域は不動産評価額も下がりますので、再開発などの大規模投資も期待できません。

このように教育支援の格差は、結果的に各自治体の経済格差にまでつながってしまいます。高校の授業料無償化といっても単なる教育問題とどまらない影響があるため、「国の政策として全国一律での授業料完全無償化を行うべきだ」といった声も多く挙がっているようです。

03大阪府も追随!全国に波及する高校完全無償化の動き

さて、全国で東京の次に私立高校が多い大阪府はどのような政策を実施しているのでしょうか。大阪府も高校授業料の完全無償化に向けて動き出しており、2024年より順次制度が実施されることになっています。

大阪府は現状で所得制限付きの授業料無償化を行っています。2024年までの大阪府の助成金制度は以下のようになっていました。

2024年まで

  • 私立高校の授業料助成は世帯年収590万円未満の世帯が無償化の対象
  • 世帯年収800万未満、899万〜910万円未満の家庭は子どもの数に応じた金額を補助
  • 世帯年収910万円以上は家庭負担

これが2024年からは段階的に世帯収入の所得制限が撤廃されることになります。具体的にまとめると以下の通りです。

2024年から

  1. 国の就学支援金に上乗せし、標準授業料(生徒1人につき年間63万円)を上回る分は学校が負担
  2. 2024年度は高校3年生の生徒が対象。2025年度は高校2年生にまで対象範囲を拡大、2026年にはすべての高校生を対象とする予定
  3. 対象となるのは大阪府在住の全世帯。子どもの数や所得による制限なし
  4. 大阪府民であれば県外の高校も補助対象。ただし、大阪府の私立高校無償化制度に参加している高校・各種学校であることが要件
  5. 2026年以降、制度対象となる高校生について授業料は全額無償化

大阪府の制度で特徴的なのが➀の条件でしょう。年間授業料63万円を超える分はなんと学校側が負担せねばならず、実は学校側の協力なしには成立しない支援制度となっているのです。これを「キャップ制」といいます。

ただし、大阪府のキャップ制には多くの課題あり

実は大阪府のキャップ制には問題点が多く、近隣各県の自治体や私立高校からは反対や懸念の声が相次いでいます。

まず大きな問題点とされているのが、生徒1人当たりの補助上限を63万円に決めてしまう制度設計です。

私立高校は大阪府からの私学助成金(2022年度で1人当たり32万6700円)を受け取っているので、この私学助成と63万円を合わせた95万6700円までの範囲で教育サービスを提供する必要があります。この金額を超過すると学校負担となるためです。

ちなみにこの金額は公立高校の生徒1人当たりにかかる金額(108万3212円)よりも低い数字となっています。つまりキャップ制が導入されると、私立高校は公立高校より低い金額で教育サービスを提供しなければならなくなるのです。この点で私立高校からは、かなりの不満が出ています。

さらに63万円超過分の負担は、大阪府内からの生徒を多く抱える近隣自治体の私立高校にとっても悩みの種となっています。例えば全国トップレベルの進学成績を誇る兵庫県の灘高校は、生徒の約3割、200人程度が大阪府からの通学者です。キャップ制に参加すると、この200人の授業料超過分を灘高校が負担しなければならなくなります。また同じ灘高校の生徒なのに、大阪府民と兵庫県民で授業料の負担格差が生じるのは不公平だといった意見も少なくないようです。

費用負担を無理やり私立高校に強いると、結果的に授業料の大幅値上げや無償化の対象ではない入学金や施設設備費などの増額の可能性も出てくるでしょう。このように、大阪府の導入するキャップ制にはまだまだ制度運用上の問題が多いため、今後の動向を見守る必要がありそうです。

04住宅価格上昇で、子育て世帯の多くが東京から脱出

教育費の問題とは別にここ最近、東京都から脱出する子育て世帯が増え始めています。

内閣府が2024年2月に公表した「2023年度 日本経済レポート」によると、子育て世代に当たる25~44歳とその子どもと考えられる0~14歳を中心に、東京都からの人口流出傾向がみられるとのことです。その大きな理由として考えられるのが東京都内の住宅価格上昇でしょう。

また東京都内では単身向け住宅の賃貸価格にはあまり変化が見られない一方で、ファミリー向けの賃貸やマンション価格は上昇しています。不動産情報サイト「LIFULL HOME’S PRESS」のレポートによると、東京23区のファミリー向け賃貸物件の掲載賃料は19万2662円(2023年12月時点)で、これは前年比116.6%の上昇です。

ファミリー層の賃貸需要の高まりや消費者物価の上昇、不動産投資家の参入なども影響して分譲マンションの価格も高騰しており、教育費のかかる子育て世帯にとって都内での生活はコスパが悪くなっています。

すでに2022年には子育て世代(25~44歳)の約1.5万人が首都圏3県に流出したと報告されており、その転居先は千葉県流山市や印西市、神奈川県藤沢市や茅ケ崎市、埼玉県さいたま市、茨城県つくば市などの首都圏近郊のエリアに集中しているようです。

05住宅費と教育費はバランスが大事!資金計画をまずはしっかり立てよう

東京都が実施する私立高校授業料の実質無償化によって、教育費の大幅な軽減が期待されています。しかし子育て世帯にとって、本当にメリットがあるかどうかは生活コスト全体から判断する必要があります。高校教育費の負担は3年間だけですが、住宅ローンの支払はそれ以降も続きますので、住宅費と教育費のバランスを見て住居を選ぶことが大切です。

2024年3月には、日銀がいよいよ「マイナス金利解除」に踏み切りました。今後は変動金利もゆるやかな上昇を見せる可能性が高まるでしょう。まだ大きな変化がないうちに住宅ローンを組むことも重要になりますので、もしマイホームの購入を検討している場合はなるべく早く購入計画を立てることも大切です。当サイトの住宅ローンシミュレーションを活用し、毎月どのくらいなら無理のない返済ができるかを確認してみましょう。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

ご利用上の注意

  • 本記事は情報の提供を目的としています。本記事は、特定の商品の売買、投資等の勧誘を目的としたものではありません。本記事の内容及び本記事にてご紹介する商品のご購入、取引条件の詳細等については、利用者ご自身で、各商品の販売者、取扱業者等に直接お問い合わせください。
  • 当社は本記事にて紹介する商品、取引等に関し、何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとします。
  • 当社は、本記事において提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。本記事には、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。本記事のご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただいたものとします。

0