企業型確定拠出年金とは?個人型(iDeCo)との違いと合わせて解説
公的年金に上乗せする形で個人や企業が任意で加入する私的年金の1つ、企業型確定拠出制度。今回はその仕組みや優遇制度、個人型確定拠出年金(iDeCo)との違いなどについて解説します。
01企業型確定拠出年金とは?
日本の年金制度は、以下の図のように3階建ての構造になっています。このうち1階(国民年金)と2階(厚生年金)は国が管理する公的年金制度、3階部分は公的年金に上乗せする形で個人や企業が任意で加入する私的年金制度です。
日本の年金制度
3階 | 私的年金 | ・企業型確定拠出年金 ・個人型確定拠出年金(iDeCo) ・確定給付企業年金・厚生年金基金 |
2階 | 公的年金 | ・厚生年金(厚生年金保険の適用を受ける企業や団体に勤務する人、公務員が加入) |
1階 | ・国民年金(日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入) |
積立は企業が、運用は従業員が行う
企業型確定拠出年金は2001年に運用が開始された私的年金制度の1つで、企業が月々の掛金を従業員の年金口座に積み立て(=拠出)をし、それを従業員自らが金融商品で運用し、60歳以降に老齢給付金を年金方式もしくは一時金として受け取る仕組みになっています。つまり、運用資金は基本的には勤務先の企業が出してくれるものの、その運用責任は企業ではなく、従業員自身が負うということであり、60歳以降に受け取ることができる年金額は、運用実績によって上下します。
なお、企業型確定拠出年金で運用する金融商品は、安全性が高く安定して収益が得やすい定期預金や保険商品、もしくは多少のリスクはあるものの運用益が期待できる投資信託などを企業が「3本以上(中小企業向けに簡素化した簡易企業型年金では2本以上)、35本以下」の範囲で選び、提供することになっています。従業員はその中から、自身の判断で商品を選んで運用することになりますが、資産運用の経験に乏しい従業員が独力で運用を行うのは容易ではありません。そこで確定拠出年金法第22条では、企業に対し、従業員に向けた資産運用に関する基礎的な資料の提供や、資産運用に関する知識の向上を図ることを義務付けています。
受け取り開始は60~70歳まで
老齢給付金の受け取り開始年齢は、企業が規則などで定めている場合を除き、原則として従業員自身が60~75歳までの時期を選ぶことができますが、75歳を超えて受け取りを開始していない場合は、年金形式で受け取ることができなくなり、強制的に一時金として受け取ることになります。
なお、老齢給付金以外に、従業員(加入者)または加入者であった方が、傷病等によって高度障害の要件に該当することとなった場合に60歳未満でも受給権者となる障害給付金や、遺族に支払われる死亡一時金、受給要件を満たした場合に受け取ることができる脱退一時金があります。
掛金には上限がある
なお、企業型確定拠出年金制度を導入している企業の中には、すべての従業員が自動的に企業型確定拠出年金に加入するようにしている企業と、希望者のみが加入できるようにしている企業があります。いずれの場合も、月々の掛金の額は企業ごとに独自の基準で決められますが、次のとおり上限額が設けられており、企業はこれらの上限を超えて掛金を拠出することはできません。
確定拠出年金の掛金の上限
- 他の企業年金がある場合:2万7500円/月
- 他の企業年金がない場合:5万5000円/月
従業員が掛金を上乗せできる「マッチング拠出制度」
また、企業の中には企業の掛金に従業員自らが上乗せして拠出できる「マッチング拠出制度」を設けているところもあります。ただし、マッチング拠出を使って従業員が拠出できる金額にも上限が課されており、以下の2つの条件を満たす金額しか拠出できないことになっています。
マッチング拠出を使った場合の掛金の上限
- 従業員が拠出する掛金は、企業が拠出する掛金を超えないこと
- 従業員が拠出する掛金と企業が拠出する掛金の合計が、企業の掛金の上限を超えないこと
なお、マッチング拠出を利用するかどうかは従業員の任意であり、企業側が利用を強制することはできません。
02企業型確定拠出年金の3つの優遇制度
企業型確定拠出年金には、税制面で以下の3つの優遇制度が設けられています。
運用益が全額非課税になる
一般的に株や投資信託を運用して収益を得た場合、その運用益に対して計20.315%の税金(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)が課せられます。しかし、企業型確定拠出年金については運用益が非課税となる優遇制度が設けられています。
年金受け取り時に控除が受けられる
積み立ててきた年金は老齢給付金として60歳以降に一時金または年金として受け取ることができ、一時金の場合は「退職所得控除」の対象に、年金として受け取る場合は雑所得として「公的年金等控除」の対象になるため、税負担を軽減することができます。
従業員拠出分は所得控除対象になる
マッチング拠出を活用して従業員が掛金を上乗せした場合、従業員が拠出する分の掛金については、全額が
所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。
03個人型確定拠出年金(iDeCo)との違い
メリットが多い企業型確定拠出年金ですが、加入できるのはこの制度を導入している企業の従業員のみで、その他の人が加入することはできません。
そこで確定拠出年金法では、企業型だけでなく自営業者や主婦などが加入できる個人型確定拠出年金(通称iDeCO)も整備しています。企業型確定拠出年金とiDeCoの違いを項目別に表にまとめてみました。
加入対象者
企業型確定拠出年金 | iDeCo |
導入企業の従業員 | 1.自営業者等(国民年金第1号被保険者) ※農業者年金の被保険者の方、国民年金の保険料を免除されている者を除く。 2.厚生年金保険の被保険者(国民年金第2号被保険者) ※公務員 ※企業型確定拠出年金の加入者でないこと ※企業型確定拠出年金の加入者でも、マッチング拠出を実施していない企業で、規約に個人型確定拠出年金に加入できる旨が定められている場合 3.専業主婦(夫)等(国民年金第3号被保険者) |
一部例外はありますが、iDeCoは原則として企業型確定拠出年金に加入していない20歳以上60歳未満(※条件を満たす場合は65歳まで、今後は70歳まで引き上げられる予定)の国民健康保険の被保険者(第1号~第3号)が加入することができます。
掛金を拠出する人
企業型確定拠出年金 | iDeCo |
実施企業(企業型確定拠出年金の規約にマッチング拠出を定めている場合は従業員も拠出可能) | 従業員(「iDeCo+」(イデコプラス・中小事業主掛金納付制度)を利用する場合は事業主も拠出可能) |
掛金の上限
企業型確定拠出年金 | iDeCo |
▽厚生年金基金、確定給付付企業年金など他の企業年金がある場合:2万7500円/月 ▽他の企業年金がない場合:5万5000円/月 |
▽国民年金の第1号被保険者(自営業者等):6万8000円/月 (国民年金基金の加入者の限度額は、その掛金と合わせて6万8000円) ▽国民年金の第2号被保険者(60歳未満の厚生年金の被保険者・サラリーマン、公務員) ・確定給付型の年金(※)及び企業型確定拠出年金に加入していない場合(公務員を除く):2万3000円/月 ・企業型確定拠出年金に加入、規約でiDeCoへの同時加入を認めている場合:2万円/月 ・確定給付型年金(※)のみ、または確定給付型年金と企業型確定拠出年金(規約でiDeCoへの同時加入を認めている)の両方に加入している場合:1万2000円/月 ・公務員:1万2000円/月 ▽国民年金の第3号被保険者(専業主婦/夫など、厚生年金に加入している人の被扶養配偶者):2万3000円/月 |
※確定給付型年金…厚生年金基金、確定給付型企業年金、石炭鉱業年金基金
掛金の納付方法
企業型確定拠出年金
・会社が拠出する掛金は会社負担になるが、 従業員が拠出する掛金(マッチング拠出)については給与天引きによって会社が指定した口座から口座振替、もしくは本人名義の口座から口座振替する方法がある
・年末調整は会社が行うため、確定申告は必要なし
iDeCo
・iDeCoの掛金の支払い方法は、本人名義の銀行口座からの引き落し
・公務員や会社員以外は確定申告が必要
運用商品
企業型確定拠出年金
・会社が金融機関(運営管理機関)を決めるため、その機関が取り扱っている運用商品の中から決める
iDeCo
・商品のラインナップが異なる金融機関(運営管理機関)の名から、自分にとって魅力的な運用商品がある機関を選んで決める
手数料
企業型確定拠出年金
・金融機関(運営管理機関)への手数料は、基本的に会社側が負担するケースが多い
・ただし運用商品にかかる「信託報酬」といった費用は、加入者が負担する
iDeCo
・金融機関(運営管理機関)への手数料は、全額自己負担となる
・企業型確定拠出年金同様、運用商品にかかる「信託報酬」といった費用は、加入者が負担する
税制
企業型確定拠出年金 | iDeCo | |
拠出時 | 非課税 従業員が拠出した掛金:全額所得控除 |
非課税 加入者が拠出した掛金:全額所得控除の対象 |
運用時 | 運用益:非課税 積立金:特別法人税課税(2020年現在、課税は停止されています) |
|
受給時 | 年金として受給した場合:公的年金等控除 一時金として受給した場合:退職所得控除 |
なお、iDeCoも、企業型確定拠出年金と同様、拠出した掛金の運用はiDeCo加入者本人が行い、60歳以降に老齢給付金を一時金または年金として受給できます。障害給付金や死亡一時金も企業型確定拠出年金と同様です。運用する金融商品は、iDeCoの運営管理機関(金融機関など)が提示する投資信託や保険商品の金融商品の中から加入者本人が選び、運用結果の責任は加入者本人が負います。企業型の場合は先述のとおり、従業員が適切に運用できるように情報提供などの投資教育を行うことが企業に義務付けられていますが、個人型の場合、金融機関の担当者に相談する・セミナーなどで学ぶなどして、自分で運用力を磨いていく必要があります。
企業型・個人型を問わず確定拠出年金は、税制上の優遇措置を受けながら老後の資産形成ができることもあって人気が高く、厚生労働省によると2023年末現在、企業型の加入者(従業員)は約805万人、iDeCoは約290万人に上っています。企業型は、制度を導入している企業の従業員でないと加入できませんが、個人型は条件を満たせば比較的容易に加入することができます。「公的年金だけでは老後の生活が不安」、「もっとゆとりある老後を送りたい」という人は、資産形成の手段の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。
出典:厚生労働省「確定拠出年金の施行状況」
04企業型確定拠出年金から個人型(iDeCo)に移換する方法
企業型確定拠出年金に加入していた人が会社を退職をして加入資格を失っても、iDeCoに移換することでこれまでに積み上げた資産を継続して積み立て・運用を行うことができます。これを「ポータビリティ制度」といいます。
ポータビリティ制度の利用時には、資産の移換の手続きが必要です。iDeCoに加入する場合は、「個人別管理資産移換依頼書」や「個人型年金加入申出書」などの書類を提出しましょう。金融機関への手続きは退職後6カ月以内に行い、移換が完了するまでには1カ月半~2カ月半程度かかるのが一般的です。
退職後6カ月経過してしまうと、国民年金基金連合会に強制的に資産が移換されます(自動移換)。 自動移換中は確定拠出年金の「通算加入者等期間」に通算されず、受給開始年齢に満たなかったり、その間も管理手数料がかかったりとデメリットが多いため、忘れずに手続きをしましょう。
ただし他の企業型やiDeCoの口座があり、本人情報が一致する場合はその口座に自動的に移換されることがあります。
05制度の違いを押さえて上手に資産形成しよう
企業型確定拠出年金は福利厚生である一方で、iDeCoが自助努力で老後資金をつくるための制度です。さまざまな控除が受けられるため、利用することで節税にもつながります。ただし、60歳まで引き出せないため、「老後資金」以外の資産形成には向いていません。他の用途のために資産形成をしたいなら「新NISA」の利用も検討してみましょう。
少額投資非課税制度「NISA」は、2024年から新制度としてスタートしました。NISA口座での取引で生じた利益は無期限で非課税になる、年間の投資上限額が最大360万円に増額されるなどメリットが多いため、いま利用者が増えています。iDeCoとの併用もできるので、興味のある方は「新NISAではじめる資産形成」のページも、ぜひお読みください。
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。
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