定年前と定年後では何が変わる?定年後の生活に今から備えよう
定年後は、誰しも悠々自適な生活を送りたいと願うものです。しかし定年後と定年前の生活では、一体何が変わるのでしょうか。この記事では定年後の生活をイメージしやすいように、具体例を交えて生活の変化について紹介します。定年後のリスクなどを踏まえて、今からできる対策についても解説します。定年後の生活に備えるための参考にしてくださいね。
01定年後の生活では何が変わるの?
長年勤め上げてきた会社を定年退職し、その後はのんびりと人生を謳歌(おうか)したいと考える方も多いでしょう。しかし実際には健康への不安が大きくなったり収入が減ったりと、さまざまなリスクも増えてきます。さらに家族と過ごす時間も増えるなど、生活の変化も起こります。良くも悪くも定年前とは大きく変わる変化について、具体的にいくつか考えてみましょう。
病気やケガをするリスクが高まる
定年後の生活における、大きな変化の一つは「健康へのリスク」です。定年後は定年前に比べて、圧倒的に体を動かす機会が少なくなります。また、加齢による体力低下も免れられません。そのため病気やケガをするリスクが確実に高くなりますから、医療費も増加する可能性があります。
また定年後、特にやることがないと家にこもる人も多いのですが、それにより認知症になる可能性も。大きな病気やケガがなくとも、生活に支障が出るケースも想定されるでしょう。そのような健康へのリスクに対し、どのように対応する予定なのか定年前から考えておくべきです。
厚生労働省「健康寿命のあり方に関する報告書」2019(平成31)年3月によれば、2016(平成28)年時点の男性の平均寿命は80.98歳に対し、健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)は72.14歳、女性の平均寿命は87.14歳に対し、健康寿命は74.79歳です。平均寿命と健康寿命の差は、男性で8.84年、女性で12.35年となります。
健康寿命を伸ばして平均寿命との差をできるだけ縮められるように工夫すれば、医療費の負担の増加や、病気・ケガで日常生活が制限されるなどのリスクを減らすことにつながるでしょう。
健康保険についても検討すべきことがあります。定年前は協会けんぽや会社が運営する健康保険組合に加入していた方も多いかもしれませんが、定年後は公的医療保険の選択が必要になります。定年後、新たに会社勤めをしない場合、74歳までは「国民健康保険」か「健康保険組合の任意継続」のどちらかを自ら選び加入します。
なお協会けんぽや健康保険の組合員の家族は被扶養者とすることで保険料の支払いは不要でした。しかし国民健康保険では世帯主が世帯全員分の保険料を負担する必要がありますので、注意しましょう。ちなみに75歳以上は、「後期高齢者医療制度」に加入します。
収入が減少する
さらに大きな変化の一つは「収入の減少」です。何歳まで仕事をするかにもよりますが、公的年金だけの生活になると多くの場合、現役の頃よりも収入は減ります。定年後、再就職をして収入を増やすのか、退職金や預貯金を切り崩して生活するのかなど、収入減に対する具体的なプランを検討しましょう。
ちなみに厚生労働省「令和4年 就労条件総合調査」によると94.4%の企業では定年制があり、定年制を定めていない企業は5.6%です。定年制がある企業のうち、一律に定年制を定めている企業は96.6%、そのうち定年を60歳とする企業は72.3%、65歳とする企業は21.1%です。このように多くの企業が、定年を60歳と定めています。
60歳で定年後も働く場合は、再就職や再雇用などになる可能性が高いと言えます。定年後は「嘱託社員」「契約社員」「パート社員」など、正規雇用ではなくなるケースが多く、給与も固定給から時給制になったり賞与がなくなったりと収入が減少することが多いでしょう。
さらに公的年金は一般に65歳から受け取りますが、申請すれば繰り上げ受給や繰り下げ受給をすることも可能です。受給額はその分増減しますので、何歳から公的年金を受給するのかによって異なります。
自由に使える時間や、家族と一緒にいる時間が増える
生活の大きな変化として、「時間の使い方」も挙げられます。定年後は今までよりも自宅で過ごす時間が増えて、家族と過ごす時間が多くなります。また定年後に再就職をしたとしても、定年前より短時間の勤務になるケースが多く、仕事に関する時間的な制約も減少します。
趣味に時間を費やしたり地域のボランティア活動などに参加したりと、定年前とは違った生きがいを見つけられるでしょう。反面、夫婦の場合は一緒に過ごす時間が増えてお互いストレスを感じる場面が多くなることも。職場の付き合いに参加するのが息抜きになっていた方にとっては、自宅にいる時間が増えて息が詰まることもあるでしょう。しかも、時間があっても定年後に使える生活資金が不足すれば、時間を持て余すなどの悩みにもつながります。
02定年は60歳が最多!その場合、老後の期間はどのくらい?
定年前と定年後では生活に変化が表れます。しかし一口に「定年」「老後」と言っても、何歳から何歳まで、どれくらいの期間を過ごすことになるのでしょうか。
日本人の平均寿命は84歳
厚生労働省「令和4年 簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳です。男女合わせての日本人の平均寿命は84.07歳になります。
前述した通り、厚生労働省「令和4年 就労条件総合調査」によれば、定年年齢は60歳が最多です。60歳でリタイアした場合、平均寿命までの約25年間が老後の期間になります。
改正高年齢雇用安定法によって70歳まで働ける可能性も!
ひと昔前まで定年は60歳と考えるのが一般的でしたが、現在では公的年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられたことを受けて、2013(平成25)年に高年齢雇用安定法が改正されました。その改正によって65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの安定した雇用機会を確保するために、以下のいずれかの措置の導入を義務付けています。
- 65歳までの定年の引き上げ
- 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年の廃止
さらに2021(令和3)年4月1日からは改正高年齢者雇用安定法が適用され、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務としています。
多くの企業では60歳で定年を迎えますが、その後の再雇用や再就職なども含め、これからは65歳、さらには70歳まで働くことが主流になる可能性があります。70歳まで就業した場合は、平均寿命までの約15年間が老後の生活になります。いつまで就業を希望するかによって、老後の期間は異なりますので検討しておきましょう。
03基本的に定年後の主な収入源は公的年金!定年後の生活に備えるためにやるべきことは?
少しでもゆとりある老後の生活を送るために、今からできる対策も考えておきましょう。
厚生労働省「2022(令和4年) 国民生活基礎調査」によると、高齢者世帯の平均所得は318万3000円です。公的年金を受給している高齢者世帯の中で「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」は44.0%となっていますから、高齢者世帯のうち約半数は公的年金だけで生活していることが分かります。
なお高齢者世帯の平均所得318万3000円の内訳は以下の通りです。
稼働(勤労)所得 | 80万3000円 |
公的年金・恩給 | 199万9000円 |
財産所得 | 17万2000円 |
公的年金・恩給以外の社会保障給付金 | 1万8000円 |
仕送り・企業年金・個人年金・その他の所得 | 19万円 |
出典:厚生労働省 2020年(令和4年)国民生活基礎調査/表番号14
公的年金に加えて個人年金などの保険があれば、それを切り崩して生活する方も多いようです。
継続雇用制度を利用して再雇用で働く
先ほど紹介した高年齢雇用安定法により、本人が希望すれば定年後も引き続き雇用する「再雇用制度」や「継続雇用制度」が利用できる可能性があります。その場合は、公的年金だけでなく稼働(勤労)所得を得られます。
なお60歳で定年退職し再雇用された場合、賃金が下がるのが一般的です。しかし「60歳以降の賃金が60歳時の賃金の75%未満に低下したこと」など、いくつかの要件を満たすと高年齢雇用継続基本給付金の支給対象になるケースがあります。ただし公的年金をもらえる年齢時に働くと、収入金額によっては「在職老齢年金」の仕組みが適用されて、公的年金が一部停止になるケースがあります。
ハローワークや人材紹介で新しい就労先を探す
定年後、就労は希望していても雇用先に継続雇用を希望しない場合は、新しい就労先を探しましょう。ハローワークや人材紹介などを利用するのも一案です。短期の仕事なら、原則60歳以上の方が利用できる「シルバー人材センター」に登録にしてもよいでしょう。
退職金の運用
定年後の雇用を希望しない場合は、退職金などのまとまった資金を元手に資産運用をして収入を増やす方法もあります。とはいえ退職金は、老後の生活に充当するための大切なお金です。若い時とは違い、運用で損をしたときに取り戻すための時間も短くなりますので、できる限りリスクの少ない資産運用を心がけましょう。
開業する
定年後の雇用を希望しない、65歳を超え企業からの継続雇用が難しくなったなど、一般的な仕事に就くことが難しいと感じる場合は、独立・開業するというのも一つの方法です。
定年前に取得した資格、特技や趣味を生かして、起業したいと考えるシニアも昨今では増えてきています。しかし開業のために多額の費用を使ってしまうと本末転倒です。あまりコストをかけずに開業できれば決められた定年はありませんので、健康状態などに合わせ希望する年齢まで働けます。
老後資金を準備する
定年後は公的年金を中心に、「稼働所得」や「財産所得」など収入を増やす方法も合わせて、老後資金の準備をしましょう
なお総務省統計局「2023年 家計調査報告(家計収支編)」によると、高齢夫婦無職世帯(65歳以上)の実収入は24万4580円、可処分所得は21万3042円。消費支出は25万959円ですので、毎月3万7917円、年間で45万5004円の赤字になります。
高齢単身無職世帯(65歳以上)の実収入は12万6905円、可処分所得は11万4663円。消費支出は14万5430円ですので、毎月3万767円、年間で36万9204円の赤字になります。
老後の期間を仮に25年とすると、夫婦であれば1137万5100円、単身者であれば923万100円の備えが必要になります。定年後も働いて収入を増やすなど、老後資金については定年前に計画しましょう。
資産運用を組み入れてみよう
定年後だけでなく、定年前からできるのがiDeCoやNISAなどの資産運用です。iDeCoの加入は現在65歳未満が対象(70歳に引き上げられる予定)ですが、NISAは65歳以降も利用できます。ちなみに2024年1月からNISAの制度が新しくなり、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠を使えば、年間で合計360万円まで投資が可能になりました。しかも非課税期間が無期限と、老後資金づくりにも活用しやすくなった点も注目です。
例えば40歳から60歳までの20年間で2000万円をNISAで貯めようと計画した場合、大手銀行の金利である0.001%で貯めると毎月8万3325円の積み立てが必要になります。しかし金融庁の「資産運用シミュレーション」で計算すると、毎年3%で資産運用ができれば毎月必要な積立額は6万920円で済みます。貯蓄だけなく資産運用を組み入れることで運用リスクはありますが、目標に到達するために必要な資金、または期間を縮小できるでしょう。
新しくなったNISAについて詳しく知りたい方は、「新NISAではじめる資産形成」をご確認ください。
生活費や固定費の見直しを定期的に行う
定期的に生活費や固定費の見直しを行うことも大切です。無駄な支出を減らし、少しでも老後資金を増やす方法を考えましょう。特に家計の中でも大きな割合を占める住宅ローンの見直しを行えば、固定費を大きく節約できる場合があります。
04老後のお金シミュレーションをしてみよう!
老後の生活は平均して25年、人生100年時代と考えれば40年にも及びます。今回は統計を用いた平均的なデータから老後の生活についてイメージしていきましたが、実際に老後までにどれくらいの資金を準備しておけばよいのかは人それぞれです。老後は娯楽を含め、ゆとりある生活をしたいと望む場合と最低限の生活だけできればよいと考える場合など、自分の希望に合わせて「老後のお金シミュレーション」をすると、さらに安心ですよ。
監修:岩永真理
IFPコンフォート代表、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®、住宅ローンアドバイザー
プロフィール
大手金融機関にて10年以上勤務。海外赴任経験も有す。夫の転勤に伴い退職後は、欧米アジアなどにも在住。2011年にファイナンシャル・プランナー資格(CFP®)を取得後は、金融機関時代の知識と経験も活かしながら個別相談・セミナー講師・執筆(監修)などを行っている。幅広い世代のライフプランに基づく資産運用や住宅購入、リタイアメントプランなどの相談多数。
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