投資運用について知りたい記事をキーワードから探せます

資産形成を始めるときに知っておきたい、ポートフォリオの考え方

12

長い時間をかけて資産形成を行っていくための基本は「分散投資」です。株式や債券など性格の異なる資産を組み合わせる「ポートフォリオ」を構築し、資産全体の価格変動のブレを小さくして複利効果を高めることができるからです。ポートフォリオの基本的な考え方や必要性、またその作り方や見直しの方法などを解説します。

01資産形成におけるポートフォリオとは

まずは、資産形成における「ポートフォリオ」とはどのようなものかについて整理しておきましょう。

ポートフォリオの基礎知識

ポートフォリオ(portfolio)とは、元来は所有資産の明細書をはさむための「書類入れ(ファイル)」という意味でした。欧米では古くからこの書類入れに保有している資産の内訳表を挟んでおく習慣があったことから、それが転じて保有資産(一覧表)をあらわすようになり、現状では資産の分散・組み合わせを示す一般的な用語となっています。

ポートフォリオ運用の意義

ポートフォリオ運用をなぜ行うのかと言えば、「組み合わせによるリスクの回避と運用の効率性を追及すること」にあるといわれています。たとえば、日本では昔からよくいわれていたポートフォリオとして「財産三分法」があります。財産三分法とは「財産は預貯金・株式・不動産の3つに分けて持った方が良い」という考え方です。

財産三分法

預貯金:換金性と安全性に優れていますが、収益性は劣ります
株式:収益性に優れていますが、安全性は劣ります
不動産:長期運用に適し、インフレにも強みを発揮しますが、換金性は劣ります

預貯金、株式、不動産にはそれぞれメリット・デメリットがありますので、どれか1つの財産に偏ってしまうとリスクが大きくなる、収益性が劣るなどのリスクを被るのです。しかしながら、預貯金、株式、不動産をバランスよく所有していれば、財産全体としてはリスクを抑えてより効率的な運用が期待できるというわけです。

ポートフォリオ運用の種類

この財産三分法のように不動産などの実物資産も含めた全ての資産ポートフォリオを「総資産ポートフォリオ」、不動産などを除いて金融資産だけの組み合わせのポートフォリオを「マネーポートフォリオ」、さらに金融資産の中でも株式や債券などの有価証券の組み合わせのポートフォリオを「証券ポートフォリオ」と呼んでいます。

少し前まではポートフォリオという場合は「マネーポートフォリオ」を指していましたが、NISAiDeCo(個人型確定拠出年金)などの普及以降は、「証券ポートフォリオ」が一般的にいわれるポートフォリオになっています。

アセットアロケーションが重要

株式や債券などのさまざまな資産にどのような割合で投資するのかを決めることを「アセットアロケーション」と呼んでいます。アセットアロケーションは、その人の資産状況やリスク許容度、資産形成の目的などによって人それぞれ適切な割合は異なります。ポートフォリオを作成する際にはこのアセットアロケーションが大事です。

ポートフォリオの種類 アセットアロケーション
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成

02ポートフォリオの必要性について

続いて、ポートフォリオの必要性について見ていきましょう。

自分に合うポートフォリオを組むことが重要

ポートフォリオは自分に合う形で組むことが大切です。どうすれば、「自分に合う」ポートフォリオとなるのか、2つのポイントを見ていきましょう。

各個人(家庭)によって異なるポートフォリオ

各個人によってライフプランは異なるので、資産形成の目的も各個人(家庭)によって異なります。貯蓄残高、投資に回せる資金量なども各個人によって異なり、また投資に対する姿勢も人それぞれです。金融情勢、相場環境などによっても、各金融商品のバランスは組み替えていかなければなりません。さらに、同じ人(家庭)であったとしも、ライフステージ(年代別)によって資産形成の目的、貯蓄残高、投資姿勢などは異なってきます。

つまり、実際のポートフォリオでは、各個人の目的・属性などに留意するとともに、その時々の金融情勢などに合わせて個別に作成していかなければならないのです。言い換えれば、全ての人に共通するポートフォリオはない(万人に共通する「正解」はない)ということになります。

資産形成の目的、時期、金額などを明確にすること

実際にポートフォリオを作成するにあたっては、まず、自分自身の資産形成の目的(何のために)、時期(いつまでに)、金額(いくら必要か、またはいくら準備しなければならないか)などをハッキリさせておく必要があります。資金の運用方法は、あくまでも各個人(家庭)の人生における夢や希望、あるいはライフプランの目標を達成するための手段に過ぎないからです。

したがって、「どんなに優れた手段のことを考えても、それが自分自身の目的(ライフプラン)にあっていなければ何ら意味をなさない」ということになります。卵が先か鶏が先かではないのですが、目的があってはじめて効率的な手段(運用)が取れるわけで、手段に目的(ライフプラン)を合わせることはできないのです。また資産形成の目的、時期、金額が明確になればなるほど、それに適した手段を採ることができ、より効果的に目的を達成することができることにもなるのです。

夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成

03最適なポートフォリオの組み方

では、実際に最適なポートフォリオを組むにはどうしたらいいでしょう。ここではその方法について見ていきます。

投資の目標、毎月の積立額を決める

資産形成の目標達成の時期が異なれば、資金運用の方法や毎月積み立てる金額なども当然異なります。子どもの教育資金の準備、老後資金の準備を例に解説しましょう。
まずは、子どもの教育資金で200万円を目標に、毎月1万円・15年間積み立てた場合と、老後資金として2000万円を目標に毎月3万5000円・30年間を積み立てた場合の資産の結果をグラフにしてみました。資産が積み上がっていく様子をイメージしてみてください。

子どもの教育資金シミュレーション

毎月1万円を15年間積み立てた場合。想定利回りは3%(年1回の複利計算、グラフ内の小数点以下は四捨五入)。
15年後には226万9727円になります。

子どもの教育資金シミュレーション 複利 積立投資

老後資金シミュレーション

毎月3万5000円を30年間積み立てた場合。想定利回りは3%(年1回の複利計算、グラフ内の小数点以下は四捨五入)。
30年後には2039万5791円になります。

老後資金シミュレーション 積立投資 複利

参考:金融庁資産運用シミュレーション

もう少し、具体的に考えてみましょう。

子どもの教育費

子どもの教育費が2年後に200万円必要になるとします。2年後と運用期間が短いことから、手持ちの資金は安全確実な定期預金で運用することになります。不足する資金は毎月の積み立てで補うことになります。不足分も安全確実な貯蓄で準備することになり、仮に不足額が50万円であれば、毎月1万5000円、ボーナス時3万5000円を積み立てるというプランを作成します。万が一、準備が間に合わないようであれば、奨学金や教育ローンの活用も考えておく必要もあります。

一方、教育費は15年後に200万円を準備するというのであれば、多少リスクのある投資信託を活用する、あるいは積立貯蓄でこれから準備する、学資保険の満期金を200万円にして保険商品で準備するという方法も採ることができます。

老後資金

50歳代の後半または再雇用という就労状況の人の収入は、ピーク時より減少しているケースが多く、またリタイア後は公的年金が中心になります。勤労収入や公的年金だけでは生活がぎりぎりのため、手持ちの金融資産も生活費の一部になる可能性が高くなるでしょう。このため安全性を重視した運用が基本になります。万一、株式投資などで大きな失敗をしてしまうと、取り返しのつかないことになるからです。

これに対して、若年層であれば、老後を迎えるまでに数十年の期間があることから、積極的な運用を行っても大丈夫なはずです。株式投資などで仮に失敗したとしても、まだ取り返しがつく時間や収入が十分あるからです。ただ、まとまった資金を投資に回せるケースは少ないことから、iDeCoやつみたてNISAなどの税制優遇がある制度を活用して投資信託を中心とした資産形成を行っていくことになります。

子どもの教育費、老後資金という2つの目的を簡単に見てきましたが、資産形成の目的、時期、金額などを考えて、それぞれの目的に合った資金運用の方法を考えると同時に、金融資産全体としてのバランスのとれたポートフォリオを作ることが大切になるのです。

リスク・リターンを踏まえた分散投資を検討する

貯蓄は元本が保証されていることから安全性は高い反面、その分利息収入は低く抑えられています。これに対し株式は、元本が保証されていないことから大きく値下がりすることがありますが、貯蓄では得られないほど大きな値上がり益を得られることがあるのです。一般的に安全性と収益性は表裏一体の関係にあると言われ、収益性が高い商品ほど、安全性が低くなります。これを「ローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンの原則」といいます。

金融商品によってリスク・リターンは異なるので、性格の異なる商品をバランスよく組み合わせて(分散投資)資産形成を行う必要があります。低金利が続いていることから、資産形成を行うには株式(株式投資信託含む)を外すことはできないでしょう。

株式への資産配分をベースに考えると、30代は老後を迎えるまでに時間があり、万一、資産形成が予定通りいかなかったとしてもリカバリーする時間があることからポートフォリオ全体の70%を国内や海外の株式で運用する投資信託にする。40代は人生の折り返し地点、老後がイメージされる年齢に差し掛かることから、少しリスクを抑えて、株式で運用される投資信託の比率をポートフォリオ全体の50%にする。50代は老後がより明確になり、具体化してくる時期、万一運用で失敗するとリカバリーする時間や収入も限られることから、大きなリスクはとりにくいので株式で運用する投資信託の割合は30%に抑える等々、リスク・リターンを考えて分散投資を考えていくのです。

リスクとリターンの関係 金融商品
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成

04ポートフォリオの参考例

ポートフォリオは「万人に共通する正解はない」と書いたように、参考になるポートフォリオを紹介するのは難しいのですが、代表的なものということで私たちの年金資産を運用している「年金積立金独立行政法人」(通称「GPIF」)のポートフォリオをご紹介しましょう。

GPIFは5カ年ごとに基本ポートフォリオを見直していますが、現在は第4期中間目標期間(2020年4月1日から5カ年)で表のような資産配分になっています。

年金積立金独立行政法人の基本ポートフォリオ

国内債券 外国債券 国内株式 外国株式
資産構成割合 25% 25% 25% 25%
乖離変容幅 各資産 ±7% ±6% ±6% ±7%
債券・株式 ±11% ±11%

※乖離許容幅については、従来の4資産の幅に加え、株式リスクの管理強化の観点から、債券全体・株式全体についても乖離許容幅を設定しました。株式の保有上限は、各資産の乖離許容幅のみを踏まえれば、実質的に内外債券の合算である50%+13%となるところ、株式自体の乖離許容幅によって、50%+11%に制限されることになります。
出典:年金積立金管理運用独立行政法人、基本的ポートフォリオの考え方

夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成

05ポートフォリオは定期的に見直す

時間の経過と共に金融情勢、相場動向が大幅に変動することがあります。ある資産は値上がりする一方、別の資産は値下がりするなどして、ポートフォリオ作成当初に決めた資産配分がずれてしまいます。ずれたままのポートフォリオをそのままにしておくと、想定よりリスクを取り過ぎる、あるいは想定よりリターンが減る可能性があるのです。

そこで、ずれた資産配分をポートフォリオ作成当初の配分に戻すために、値上がりした資産を売却して、値下がりした資産を買いまして元に戻すわけです。この見直しを「リバランス」と呼びますが、数年に1度は行うようにしましょう。また、個人の経済上の大きな変化(収入や支出)などがあったときも、資産形成に回せる金額に変化が生じることがあり得るので、見直しを行いましょう。

夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成
夢の実現に向けて一歩踏み出そう!NISAではじめる資産形成
深野康彦

監修:深野康彦

1級ファイナンシャルプランニング技能士、有限会社ファイナンシャルリサーチ代表

プロフィール

FP業界歴30年以上のベテランFP。テレビ・ラジオ番組などの出演、各種セミナーなどを通じて、投資の啓蒙や家計管理の重要性を説いている。あらゆるマネー商品に精通している。日本経済新聞「投信番付」ほか連載多数。


SNSに投稿

関連キーワード





ご利用上の注意

  • 本記事は情報の提供を目的としています。本記事は、特定の商品の売買、投資等の勧誘を目的としたものではありません。本記事の内容及び本記事にてご紹介する商品のご購入、取引条件の詳細等については、利用者ご自身で、各商品の販売者、取扱業者等に直接お問い合わせください。
  • 当社は本記事にて紹介する商品、取引等に関し、何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとします。
  • 当社は、本記事において提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。本記事には、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。本記事のご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただいたものとします。