個人年金保険とは?加入のメリット・デメリット、iDeCoとの違いを解説
公的年金だけでは老後の生活に不安を覚える人が増えている中、個人年金保険を検討している人も多いのではないでしょうか?今回は個人年金保険の仕組みやその種類、iDeCoとの違いや気になる返戻率ついて解説します。
01個人年金保険とは?
個人年金保険は、毎月所定の保険料を積立てると契約時に定めた年齢(60歳、65歳など)から一定期間(5年、 10年など)もしくは一生涯にわたって一定額の年金を受け取ることができる貯蓄型の保険商品で、銀行、証券会社、保険会社などで加入することができます。個人年金保険は、公的年金(国民年金、厚生年金)のように加入が義務付けられているものではなく、あくまでも任意で加入するものなので、公的年金に対して「私的年金」とも呼ばれています。
個人年金保険には主に、
- 老後に公的年金とは別に年金を受け取ることができる
- 一定の条件を満たせば所得税・住民税の個人年金保険料控除を受けることができる
- 保険料を口座引落にすれば、貯蓄が苦手な人でも着実に積み立てられる
などの特徴があります。もっとも、個人年金保険自体はこれまでも保険商品の1つとして長く販売されてきたもので、特に目新しいものではありませんが、公的年金の支給開始年齢が引き上げられたことや、いわゆる「老後資金2,000万円問題」を機に公的年金だけでは余裕のある老後を送ることが難しくなる可能性が報じられたことなどから、最近では公的年金の不足を補う方法の1つとして注目を集めるようになっています。
個人年金保険との公的年金との違い
公的年金とは、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入しなければならない年金制度のことです。「国民年金(基礎老齢年金)」と「厚生年金(厚生老齢年金)」の2階建てになっており、国から年金を受け取ります。
一方の個人年金保険は、加入するかは個人の自由です。公的年金に上乗せして給付を受けたい人が任意で加入を決め、年金は保険会社などが支払います。国民年金基金や確定拠出年金、確定給付企業年金なども個人年金に位置付けられます。
02個人年金保険の種類
個人年金保険には、大きく分けて「終身年金保険」「確定年金保険」「有期年金保険」の3つがあり、以下のとおり、それぞれ年金の受取期間や被保険者が死亡した後の支払い継続の有無などの要件が異なります。
個人年金保険の種類 | 年金受け取り期間 | 被保険者が死亡したとき |
終身年金保険 | 被保険者が生存している限り、一生涯にわたって受け取ることができる | 年金の支払いは終了。遺族は受け取れない |
確定年金保険 | 被保険者の生死に関係なく、契約時に決めた10年、15年など一定期間、受け取ることができる | 契約時に定めた一定期間中は遺族が受け取ることができる |
有期年金保険 | 被保険者が生存している限り、契約時に決めた10年、15年など一定期間、受け取ることができる | 年金の支払いは終了。遺族は受け取れない |
変動型個人年金保険とは
なお、上記で紹介した3つのタイプの個人年金保険(終身年金、確定年金、有期年金)はいずれも「定額個人年金保険」であり、被保険者の生存期間によって受け取ることができる年金の合計額は変動するものの、毎年受け取ることができる年金額は、契約内容に応じてあらかじめ確定しています。
一方、個人年金保険には、保険会社の運用の実績次第で年金の受取額が変動する「変額個人年金保険」もあります。このタイプでは、運用実績が良ければ支払った保険料を上回る年金を受け取ることができる可能性がありますが、逆に運用実績が悪いと元本割れのリスクがあることに注意する必要があります。
なお、一般社団法人生命保険協会の「2023年版 生命保険の動向」によると、個人年金保険の保有契約件数のうち、定額個人年金保険が89.9%を占め、変動型年金保険は10.1%に留まっています(※)。
※出典:一般社団法人生命保険境界「2023年版 生命保険の動向」P9
03個人年金保険に加入するメリット
公的年金に給付を上乗せできるなどメリットがある個人年金ですが、それ以外にはどんなメリットがあるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
老後資金を計画的に貯められる
自分で老後資金を貯めようと思っても、ついつい違う用途で使ってしまったり貯金を切り崩してしまったり…なかなか思うようにお金が貯められない人も多いかもしれません。個人年金保険に加入すると、貯金よりもお金を引き出すのに時間がかかる、年金支給前に解約すると保険料の総額よりも解約返還金の額が少なくなるなどデメリットが生じます。そのデメリットがあることで一定の抑止力となり、計画的に老後資金を貯められるでしょう。
個人年金保険料の控除が受けられる
個人年金の保険料は、払い込んだ金額に応じて所得控除を受けられます。一定の条件を満たす個人年金保険に加入すると「個人年金保険料控除」が適用され、所得税や住民税の節税につながるでしょう。
健康状態の告知をしなくても加入できる
健康状態に不安がある人ほど、生命保険や医療保険に加入して万が一に備えたいものです。しかし場合によっては、加入が認められないケースもあります。そんな生命保険や医療保険に入れない人でも、個人年金保険であれば健康状態の告知なしで加入ができます。一般的に個人年金は、死亡時の保障が生命保険や医療保険に比べて手厚くないものの、誰でも加入しやすい点はメリットといえます。
04個人年金保険に加入するデメリット
続けて、個人年金保険に加入することで生じるデメリットもしっかり押さえておきましょう。
インフレだと受け取る年金の価値が目減りしてしまう
個人年金保険の「定額個人年金保険」は、契約時に将来受け取れる年金額が決まっていることが一般的です。万が一、保険料の払込期間中や年金の受取期間中にインフレになって物価が急激に上昇すると、受け取れる年金の価値が目減りしてしまうリスクがあります。
そういったリスクを回避したいなら、「変額個人年金保険」を選ぶのが良いでしょう。ただし先述したように、元本割れするリスクはあります。
個人年金保険を年金で受け取ると税金がかかる
個人年金保険が満期になり、年金として受け取ると雑所得となり税金の課税対象となります。例えば、契約者本人が毎年年金を受け取れば「所得税」、生存しているものの受取人が契約者の配偶者であれば贈与税(2年目以降は所得税)、契約者が亡くなった場合は配偶者やその子に相続税や贈与税が発生します。
途中解約すると払込保険料の総額より少なくなる
個人年金保険を途中で解約すると、解約返戻金は支払った保険料の総額よりも少なくなるケースが大半です。場合によっては、解約返戻金が支払った保険料よりも上回ることがありますが、その場合は所得税の対象です。
また契約者が生存している限りで一定期間年金が受け取れる「有期年金」や、契約時に定めた年齢から契約者が亡くなるまで受け取れる「終身年金」は、長生きすればするほど多く年金が受け取れますが、万が一想定よりも早く亡くなった場合は、支払った保険料の総額を下回ってしまうリスクがあります。
05iDeCoとの違い
個人年金保険以外で、私的年金としてよく名前があがるものにiDeCo(イデコ、正式名称:個人型確定拠出年金)があります。しかし、iDeCoと個人年金保険はまったく別のものです。iDeCoは、確定拠出年金法という法律に基づいて運営されている私的年金制度で、自分で決めた掛金(月々5,000円~)を運用することによって、老後のための資産形成をすることを目的としています。iDeCoには20歳以上65歳未満で一定の加入要件を満たせば、任意で加入することができます。毎月の掛金は最低5,000円で、5,000円を超える分は1,000円単位で決めることができ、年に1回は掛金の金額を変更することもできますが、掛金の金額には本人の国民年金の加入状況に応じて下記の通り上限が設けられています。
国民年金の加入状況 | 掛金の上限(拠出限度額) |
国民年金第1号被保険者(自営業者、個人事業主、学生など) | 月額6万8,000円 |
国民年金第2号被保険者(勤務先に企業年金がない) | 月額2万3,000円 |
企業型DC(※1)に加入している | 月額2万円 |
企業型DCに加入している | 月額1万2,000円 |
DBのみに加入している | 月額1万2,000円 |
公務員等 | 月額1万2,000円 |
国民年金第3号被保険者(主婦・主夫) | 月額2万3,000円 |
(※1)DC:企業型確定拠出年金
(※2)DB:確定給付企業年金
掛金を使って運用する商品は、加入者が選んだiDeCoを取り扱う金融機関(運営管理機関)が選定する運用商品の中から自分で選び、60~75歳の間に、自分の選んだ方式(一時金方式または年金方式)で老齢給付金を受け取ることができる仕組みになっています。
なお、iDeCoの主なメリットとデメリットは以下のとおりです。
iDeCoの主なメリット
- 掛金が全額所得控除の対象になる
掛け金が全額所得控除されるので課税所得が減り、所得税・住民税が軽減されます。
- 運用益が非課税で再投資される
通常、金融商品を運用すると、運用益に課税されますが(源泉分離課税20.315%)、iDeCoでは非課税で再投資されます。
また、企業年金の積立金に関しては、iDeCoも含めて積立金には別途1.173%の特別法人税がかかることになっていますが、特別法人税そのものの課税は2028年3月31日まで凍結処置がとられています。
- 受取時にも税制優遇を受けられる
60歳以降に老齢給付金を受け取る際に、一時金方式で受け取る場合は「退職所得控除」、年金方式で受け取
る場合は「公的年金等控除」が適用され、一定金額までは非課税となる優遇措置が受けられます。
iDeCoの主なデメリット
- 原則として60歳以降まで掛金を引き出せない
一定の条件を満たさない限り、60歳になるまでは掛金や運用益などを引き出せないことになっています。
- 掛金の上限が決まっている
上述の通り、国民年金の加入状況によって掛金に上限があり、それを超えて掛金を積み立てることはできない。
- 元本割れのリスクがある
iDeCoでは掛金を使って運用する金融商品を加入者本人が選びますが、その運用成績によっては、元本割れのリスクもゼロではありません。
- 一定の要件を満たさないと加入できない
iDeCoは基本的に20歳以上60歳未満のすべての方が加入できますが、次の要件に当てはまる人は加入できません。
- 20歳未満もしくは60歳以上の人(※条件を満たす場合は65歳まで、今後は70歳まで引き上げられる予定)
- 国民年金保険料を納めていない人(免除されている人を含む)
- 海外に住んでいる人
- 勤務先の企業型確定拠出年金の規約でiDeCo加入が禁じられている人
- 農業者年金に加入している人
iDeCoの加入資格があるかどうかは、iDeCoの公式サイトで簡単に診断できるので、興味がある人は試してみても良いでしょう。
iDeCo公式サイト https://www.ideco-koushiki.jp/
iDeCoはメリットも多くありますが、運用する商品を自分で選ばなくてはならないため、商品に関するある程度の知識が求められる上、元本割れリスクもあることに注意が必要です。運用に関わりたくない、リスクを負いたくないという人はiDeCoよりも個人年金保険で老後に備えるほうが向いているかもしれません。
06個人年金保険の返戻率とは?
しかし、個人年金保険にもデメリットがないわけではありません。個人年金保険のデメリットとして指摘されているのが、返戻率(へんれいりつ)の低さです。返戻率とは、個人年金保険料の総払込額に対して、どのぐらいの年金が受け取れるかを表す数字で、受け取ることができる年金の額が多いほど返戻率が高いことになります。
返戻率は、以下の計算式で求めることができます。
返戻率=受取年金総額÷払込保険料総額✕100
たとえば、毎月1万5,000円の保険料を30年間払い、払込期間終了後の10年間にわたって年60万円を受け取ることができる契約の場合、払込保険料の総額1万5,000円✕360か月=540万円、受取年金総額は60万円✕10年=600万円です。これらを上の計算式に当てはめると、
返戻率=600万円÷540万円✕100=約111% であり、30年間かけて11%分元本が増えたことになります。もちろん定期預金をしているよりは高い利率ですが、30年もの長期にわたって投資を行うのであれば、よりも大きな収益が期待できるものもあります。
また、個人年金保険の中でも、終身年金保険は長生きをすればメリットが大きくなりますし、有期年金保険も加入者本人が生存している限り契約時に定めた期間は年金が受け取れますが、死亡をすると年金の支払いは終了してしまいます。つまり、払込期間中に亡くなってしまった場合は返戻率が低くなり、元本割れをしてしまうリスクがあるということです。
受取期間中に加入者本人が死亡するとたとえば上の式の例でいうと、本来は受取期間が10年間であるのに、受取開始後2年で亡くなってしまうと、年金の受取総額は60万円✕2年=120万円となるので、返戻率は約22%、つまり、それまで払い込んだ保険料の約22%しか回収できないことになります。
返戻率約22%=120万円÷540万円✕100
元本割れのリスクを避けるためには、加入者本人の生死に関わらず、受け取れる年金額が保証されている「確定年金」を選ぶという選択もありますが、受取期間は5年から15年程度が一般的で、長生きした場合は年金額が不足する可能性があります。一方で、終身年金と有期年金には、年金受取の保障期間がつく「保証期間付終身年金」、「保証期間付有期年金」があり、生死に関係なく契約時に定めた一定期間は年金を受け取れます。安心感は高まりますが、保険料は高くなります。
また、個人年金保険は払込期間中に契約を解除した場合、解約払戻金が支払われるものの、それまで払い込んだ保険料よりも少なくなり、返戻率が低くなるケースがほとんどです。個人年金保険に加入する場合は、特徴を理解したうえで、無理なく掛金を支払い続けられるものを選ぶようにしましょう。
さらにいま、2024年1月から新制度としてスタートした「NISA(少額投資非課税制)」も老後資金の形成で注目を浴びています。非課税期間が無期限化され、長期積み立てがしやすくなりました。NISA口座で運用できる金融商品は、投資信託などがメインになりますが、ネット証券では100円から積み立てをスタートすることも可能です。新NISAの詳細を知りたいという方は、「新NISAではじめ資産形成」も併せてチェックしてみましょう。
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。