日鉄ソリューションズ(株)
事業内容(抜粋)
(1)事業内容
当社グループ(当社及び連結子会社)のセグメントは「情報サービス」単一でありますが、顧客・マーケット及び主たるサービスの性質を勘案し、「ビジネスソリューション」「コンサルティング&デジタルサービス」に分類しております。
「ビジネスソリューション」「コンサルティング&デジタルサービス」においては、顧客のビジネス上の問題解決や新たなビジネスモデルの創出を支援するために、経営及び情報技術の視点から顧客の情報システムに関するコンサルティングを行い、具体的なシステムの企画・提案・設計・構築、及び運用・サービスを総合的に提供しております。
「ビジネスソリューション」においては、業種・業務に関する豊富な知識と経験をもとに、データとデジタル技術を駆使し、顧客ニーズに応えるシステムライフサイクルトータルでのソリューションを提供しております。日本製鉄㈱向けには、複雑な鉄鋼製造プロセスをノンストップで支える生産管理システムをはじめ、デジタル化ニーズを踏まえた各種情報システムの企画・開発・運用管理を含め、ソリューションをトータルで提供するとともに、そのなかで獲得した知見を多くの顧客へ展開しております。
「コンサルティング&デジタルサービス」においては、ミッションクリティカルな要求に応えるITインフラソリューションやITアウトソーシングに加え、顧客ニーズを踏まえた的確なDXコンサルティングに基づき、業種・業務を跨る汎用性の高いデジタルソリューションを提供しております。具体的には、厳格なセキュリティを要求されるクラウドプラットフォームやデジタルプラットフォームの導入、AIを活用したソリューションや高度なデータマネジメントソリューションの提供等高付加価値のデジタルサービスを提供しております。
これらのサービスを提供することによって、当社は情報システムに関する顧客の幅広いニーズに応えております。
(2)主要営業品目の内容
① ビジネスソリューション
a 産業・鉄鋼
産業分野においては、グローバルに事業展開する大手製造業のお客様のDXの取り組みにつきまして、様々なテーマに関し企画・構想段階から構築・運用まで支援を行っております。自動車・電機・精密機械・産業機械・化学素材・食品業等のお客様に向けて、グローバルな生産・物流管理、設計情報管理、スマートファクトリーやデータ分析・利活用基盤に関するソリューションを提供するとともに、現場(Edge)から企業(Enterprise)レベルまでのデータを活用し、プロセス横断的に業務を変革することで競争力強化を果たす「データドリブン経営」実現に向けたソリューションを提供しております。また、運輸業のお客様に向けて、輸送・運行、設備・資材管理システムといったソリューションを提供しております。
デジタル製造業センターでは、サステナビリティ経営実現に向けた物流問題、カーボンニュートラル等の社会課題に対応するソリューションの事業化、ユースケースの拡充と体系化等、当社のデジタル製造業ビジネス全体の成長に資するソリューション企画を中心に活動しております。
日本製鉄㈱グループ向けには、企業活動を支える業務システム領域全般において、企画、開発、運用・保守までの全システムライフサイクルにわたるIT支援を行っております。当社最大のお客様である日本製鉄が目標とする「鉄鋼業におけるデジタル先進企業」を達成すべく、これまで培った知識、経験を駆使しチャレンジ精神を持って推進します。またその成果を当社内に情報発信し、ノウハウを利活用することも大切な役割であります。
自動車・自動車部品
生産・物流管理システム、グローバル設計情報管理、設計製造連携、スマートファクトリー、品質管理・トレーサビリティ強化、モビリティ等
電機・精密機械
受発注・物流・貿易管理システム、グローバル設計情報管理、設計製造連携、スマートファクトリー、データ分析・利活用基盤等
産業機械・重工業
グローバル設計情報管理、設計製造連携、アフターサービス高付加価値化、スマートファクトリー、データ分析・利活用基盤等
化学・素材
トレーサビリティ強化、スマートファクトリー、データ分析・利活用基盤等
運輸・電力
輸送・運行系システム、設備・資材管理システム、基幹業務系システム、顧客サービスシステム、データ分析・利活用基盤等
食品・飲料
需要予測、販売・物流・在庫管理システム、データ分析・利活用基盤、需給計画業務クラウドサービス(PPPlan)
フルアウトソーシングサービス
鉄鋼システムの企画、設計、構築・実装、及びシステム運用・保守の受託
b 流通・プラットフォーマー
流通・サービス分野においては、プラットフォーマー等のインターネットビジネス、小売・アパレル・百貨店等の流通業から、航空会社や旅行代理店等のサービス業、さらにヘルスケア・ライフサイエンス分野まで、幅広い領域においてAI等の最新テクノロジーを取り入れたソリューションを展開しております。
通信分野では、通信事業者のネットワーク設備やサービス・プラットフォームの構築・運用、各種サービスシステムの開発等で社会インフラとしての通信ネットワークを支えるとともに、自らもローカル5Gサービスを提供し、通信、基盤、アプリケーションを含めたフルスタックサービスでお客様のDX実現に貢献しております。
ネット・メディア・サービス
大規模Webサイト/サービス、各種情報コンテンツ管理及び電子商取引(EC)、デジタルマーケティング、データ分析/マネジメント、クラウド型キャリアサポートサービス(なやさぽ)等
旅行
オンライン旅行予約・販売サービス、宿泊施設在庫管理・予約通知システム、旅行代理店業務システム等
小売
小売 マーチャンダイジングの計画から実行までのトータルソリューション、倉庫・物流管理システム、ECサイト、情報分析システム、需要予測等
ヘルスケア・ライフサイエンス
データウェアハウス・BIを駆使した解析・分析システム、販売管理システム、グローバルPSI(生産・販売計画・在庫)システム、研究部門・営業部門向けBI/データウェアハウスシステム、創薬研究支援システム等
通信
ネットワークサービス(移動体通信コアネットワーク、認証、メッセージングシステム、帯域制御、通信品質管理 等)、アプリケーションサービス(通信・非通信領域)、オペレーションサービス(通信システム運用・保守)、ローカル5Gサービス「nsraven(エヌエスレイヴン)」等
c 金融ソリューション
適切な市場予測やリスク管理、与信評価、新たな金融商品開発への対応等、金融ビジネスの世界は情報の素早い捕捉と分析・活用力がすべてを決めるITの最前線であります。そこでは、最先端の金融ビジネス・金融工学のノウハウとITノウハウとを自在に組み合わせて競争優位に立つための戦略的なソリューションが求められております。当社は定評ある金融工学に関する知識と最先端データ分析とAIの活用並びに最先端のDX技術を駆使して、コンサルティングからシステム基盤・アプリケーション構築及び保守に至るまでのシステムライフサイクルを一貫してサポートし、効率的な業務と実効ある経営管理を支援しております。また、こうしたシステムの構築経験等を活かし、各種金融パッケージ・サービスを提供しております。
さらに、大手金融機関向けを中心としたグローバルでのシステム更改やDXのニーズ、事業会社やプラットフォーマーにおける金融機能の組込みのニーズが高まっており、こうした領域につきましても積極的に取り組んでおります。
市場系取引・リスク管理領域
市場系取引に関するディーリングフロント・ミドル・バック業務のソリューション、先端金融商品のモデル開発 等
経営・リスク管理領域
ALM・収益管理、市場・信用・流動性のリスク管理、自己資本比率規制に対応する統合経営管理プラットフォーム「ConSeek」やIFRSに対応した金融商品会計ソリューション「BancMeasure for IFRS」
融資・審査業務領域
個人向け融資審査業務ソリューション「LoanNavigator」、統合融資ソリューション、ATMローン事業向け与信判定サービス
外為業務領域
為替予約、海外送金、L/C、外貨預金、SWIFT接続等の機能を提供する統合外為インターネットバンキングサービス「CrossMeetz」
資産運用領域
信託銀行、投資顧問、アセットマネジメント、年金等の業務をトータルにサポートするためのフロント・ミドル・バック業務ソリューション
資金・財務管理領域
企業の財務部門向けに資金管理機能(資金の見える化、資金繰り、金融機関接続 等)、財務取引管理機能(資金運用調達、デリバティブ、為替等の取引管理)を提供するソリューション「DIGNITAS」
データ活用領域
パブリッククラウドを活用した最新インフラ基盤の構築、ハイパフォーマンスのDB構築、データ仮想化技術
その他領域
コモディティ取引・リスク管理サービス「Ratispherd」、電力取引・リスク管理サービスのクラウドサービス「Enepharos」、アンチマネロン(KYC)
② コンサルティング&デジタルサービス
a ITサービス&エンジニアリング
社会課題解決に取り組む事業者から、社会インフラを支える大企業、中央省庁や地方自治体等の公共機関に至るまで、幅広い顧客向けに、当社が長年蓄積してきた膨大なアセットに基づく、先進のITサービス・システム構築・安定運用を提供することで、顧客の事業活動の持続的発展を支え、環境や社会のサステナビリティに貢献しております。
具体的には、最適なITソーシング・マルチクラウド、ニューノーマルな働き方を支えるデジタルワークプレース、様々な脅威から事業環境を守るセキュリティ対策、DX推進に必要なデータ利活用、AI・BI等、それらを支えるエンジニアリングと運用サービスをワンストップで提供することで実現しております。
ITソーシング
複雑化するビジネス環境変化、顧客のIT人材不足に対するアウトソーシングサービス「NSFITOS」や、顧客業務に伴走する形での技術・ナレッジ提供サービス「xSource」等の組み合わせによる、最適なソーシング戦略の立案・実行
マルチクラウド
当社クラウド基盤「absonne」とパブリッククラウドとの組み合わせ等、Cloud Lift・Shiftのバリエーションを取りそろえ、顧客の利用用途に合わせた最適なITインフラ環境を提供
デジタルワークプレース
「M³DaaS@absonne」を中心に様々なSaaSとの連携により、ニューノーマルな働き方を支えるオフィスと同様の業務環境をセキュアに提供
セキュリティ
IT/OTセキュリティの脅威に対する検知・復旧に加え、ビジネスの継続を目的としたセキュリティサービス「NSSEINT」の提供等
データ利活用
・Oracleのクラウドテクノロジーを活用したデータ分析基盤の提供や、基幹システムのクラウド移行支援
・「NSDDD」による機微データの安全な蓄積と安全・有用な匿名加工データの提供
エンジニアリング・運用サービス
・中央省庁を中心とした公共機関の行政機能を支える大規模OA基盤、宇宙・科学分野の大容量かつ長期保存が必要となるシステム、社会インフラを支える企業システム等の、大規模かつ複雑なシステム構築のエンジニアリング
・運用サービス「emerald」、長期保存が可能な「HAGANE」等によるシステムの安定運用
b コンサルティング&デジタルソリューション
コンサルティングを担うセンターとソリューション事業部から構成され、上流コンサルティングから、ソリューションの提供、運用までを含む一貫したサポートを業種横断的に提供しております。DX&イノベーションセンターでは、市場・テクノロジーの変化が激しく不確実性が増大するビジネス環境の中で、お客様のDX変革をデジタル・データの観点から、新ビジネスの企画構想、及びデータ利活用・システム設計・デザインの力等を結集し、お客様のビジネス・組織改革を専門的に支援しております。
デジタルテクノロジー&ソリューション事業部では、データサイエンス・機械学習を活用したAI、データの全社資産化・データ利活用を促進する統合データマネジメントプラットフォーム、働き方改革や業務効率化につながる文書管理・ワークフロー、BtoB/BtoC取引を加速する電子契約、内製化を支援するエンタープライズBPM・ローコードプラットフォームといったソリューションを主な事業対象としております。
注力するコンサルティング領域:
中期IT戦略/DX戦略策定
IT資産分析・評価、IT/DX戦略・ロードマップ、全社アーキテクチャ検討、IT/DX組織変革、CX戦略
企画・構想
事業課題に関するIT施策検討、プロジェクト構想、IT投資事後評価、新規事業共創
技術適用戦略
情報システム基盤統合・最適化、クラウド等新規技術採用検討
データ利活用
データマイニング、統計モデル化、データ統合検討
IT機能・組織・人材・業務変革
中期的変革への施策をソリューション提供
(*) CX戦略:Customer experience戦略。企業の価値、業績、ロイヤリティの向上を目的に、BtoB/CtoCサービスビジネスにおいて、企業にとっての顧客の体験価値を拡大するための戦略
AI活用支援及びシステム導入支援
・AIテーマ創出、モデル開発・運用、現場適用、人材育成、システム連携等一貫して支援するプラットフォーム「DataRobot」「Databricks」
・自然言語処理、強化学習、AI×RPAによるHyper Automation 等を活用した新規AIソリューションの企画・開発
統合データマネジメントプラットフォーム
(DATAOPTERYX)
・データドリブン経営に向けた、データの全社資産化・利活用を目的にデータガバナンスツール「Talend」、クラウドデータプラットフォーム「Snowflake」等を統合したデータマネジメントプラットフォーム「DATAOPTERYX」
電子契約サービス
受発注等の企業間契約や金融機関向け住宅ローン等の法人-個人間契約と、その一連の業務の電子化を支援する電子契約サービス「CONTRACTHUB」
内製化による社内プロセスの電子化ソリューションの導入と継続的支援サービス
・「Pega」「Appian」を軸としたBPM・ローコードプラットフォームの導入と顧客自身による拡張・改善に至るDX推進の支援
・「AgileWorks」等のワークフロー、「box」等の文書管理、等各種ソリューションの導入及び、BPMとの連携支援
(3) 当社の企業グループについて
当社グループ(当社及び連結子会社)は情報サービス単一セグメントでありますが、お客様に提供するサービスの種類により、「ビジネスソリューション」「コンサルティング&デジタルサービス」に分類しております。
当社及び当社の関係会社は、当社、親会社、連結子会社19社、持分法適用の関連会社1社で構成されております(2024年3月31日現在)。
① 連結子会社
1)地域子会社
北海道NSソリューションズ㈱、東日本NSソリューションズ㈱、㈱NSソリューションズ中部、㈱NSソリューションズ関西、九州NSソリューションズ㈱
当社が受注したビジネスソリューションの案件及び日本製鉄㈱向け案件につきまして、ソフトウェア開発やシステムの運用・保守サービス等を分担するとともに、地域市場を対象としたシステム案件を担当しております。
2)ITサービス子会社
NSSLCサービス㈱
高度な専門性を持ち、高品質で効率性の高い運用・保守サービスをワンストップ・シームレスに提供しております。
㈱ネットワークバリューコンポネンツ
ネットワーク・セキュリティ分野に関して高度な専門性と製品開拓力を持ち、同分野に関連する製品の販売及び保守サービスを提供しております。
3)コンサルティング子会社
NSフィナンシャルマネジメントコンサルティング㈱
金融機関の経営管理、内部統制、内部監査等に関するマネジメントコンサルティングサービス等を提供しております。
㈱金融エンジニアリング・グループ
高度なモデリング力、データマイニング力、コンサルティング力を有し、金融、流通・サービス分野でソリューションサービスを提供しております。
4)特例子会社
㈱Act.
障がい者の雇用拡大を目的にした「障害者雇用促進法」に基づく特例子会社であり、当社の福利厚生の一部業務、オフィスサービス、農業分野等を通じた地域サービス、ITを利用した各種サービス等を提供しております。
5)合弁子会社
エヌシーアイ総合システム㈱、日鉄日立システムソリューションズ㈱
各社独自のビジネスソリューションの提供、情報システム商品の販売等を行うと同時に、当社の金融・製造業分野等の案件につきましてシステムの企画・設計及びソフトウェア開発等を行っております。
6)海外現地子会社
日鉄軟件(上海)有限公司
中国においてシステムの企画・設計、ソフトウェア開発及びシステム運用・保守サービス等を提供しております。
NS Solutions Asia Pacific Pte. Ltd.
シンガポールにおいてシステムの企画・設計、ソフトウェア開発及びシステム運用・保守サービス等を提供しております。また、東南アジア地域におけるマーケティング業務を担当しております。
Thai NS Solutions Co.,Ltd.
タイにおいてシステムの企画・設計、ソフトウェア開発及び日系企業へのシステム運用・保守サービス等を提供しております。
PT.NSSOL SYSTEMS INDONESIA
インドネシアにおいてシステムの企画・設計、ソフトウェア開発及びシステム運用・保守サービス等を提供しております。
PT.SAKURA SYSTEM SOLUTIONS
インドネシアにおいて、自社開発パッケージソフトウェア・ハードウェアの販売及びシステム運用・保守サービス等を提供しております。
NS Solutions USA Corporation
米国においてシステムの企画・設計、ソフトウェア開発及びシステム運用・保守サービス等を提供するとともに、人的ネットワーク構築、当社への情報発信、新規ソリューション・ビジネスの事業化に向けたコラボレーションを推進しております。
NS Solutions IT Consulting Europe Ltd.
欧州においてシステムの企画・設計、ソフトウェア開発及びシステム運用・保守サービス等を提供しております。
② 関連会社
気象衛星ひまわり運用事業㈱
注)1.北海道NSソリューションズ㈱、東日本NSソリューションズ㈱、㈱NSソリューションズ中部、㈱NSソリューションズ関西、九州NSソリューションズ㈱は、2024年4月1日付で「日鉄ソリューションズ北海道㈱」「日鉄ソリューションズ東日本㈱」「日鉄ソリューションズ中部㈱」「日鉄ソリューションズ関西㈱」「日鉄ソリューションズ九州㈱」にそれぞれ商号変更しております。
2.2024年4月1日付で、テックスエンジソリューションズ㈱の発行済株式1,000株(発行済株式総数の100%)を取得し当社グループ会社化し、同日付で「日鉄ソリューションズビズテック㈱」に商号変更しております。
経営成績
2022年3月 | 2023年3月 | 2024年3月 | |
---|---|---|---|
売上高 | 270,332 | 291,688 | 310,632 |
営業利益 | 29,815 | 31,738 | 35,001 |
財政状態
2024年3月 | |
---|---|
親会社所有者帰属持分比率 | 63.2% |
セグメント情報
売上高構成比 | セグメント利益率 | |
---|---|---|
ビジネスソリューション | 75% | - |
コンサルティング&デジタルサービス | 25% | - |
設備投資(抜粋)
当連結会計年度の設備投資総額は21,332百万円(無形資産及び使用権資産に係るものを含む)であります。その主な内容は、提出会社における本社オフィスの再契約による使用権資産の増加の他、データーセンター設備の取得、コンピュータ及び関連機器の購入等であります。なお、重要な設備の除却、売却等はありません。
2022年3月 | 2023年3月 | 2024年3月 | |
---|---|---|---|
設備投資 | 9,032 | 6,132 | 21,332 |
減価償却費及び償却費 | 5,523 | 12,620 | 12,050 |
研究開発(抜粋)
研究開発活動につきましては、技術進化・ビジネストレンド・社会環境・人々の価値観の変化等の不確実な状況を踏まえ、新技術の探索、評価・検証、顧客企業への新技術導入支援等において長年にわたって蓄積してきた経験とノウハウを基に、社会全体の「サステナビリティ」の実現に向けた将来像を3つの「未来目標」として設定しております。
未来目標1「究極のデジタルツイン(注1)」 – すべてをデジタルな世界に転写して再現しよう
未来目標2「業務を理解・実行できる人工知能」 – 機械の知的能力をとことん人間に近づけよう
未来目標3「サステナブルな企業情報システム」 – 変化への対応力があり長持ちするシステムにしよう
当連結会計年度においては、生成AI(注2)の社会への急速な浸透を踏まえ、未来目標への生成AIが及ぼすインパクトを整理しつつ、そこからバックキャストすることで解決すべき課題や必要となる技術を検討して、研究開発活動に取り組みました。当連結会計年度における研究開発費の総額は、2,405百万円であり、各未来目標に向けた主な研究開発成果は次のとおりであります。
(1)未来目標1:究極のデジタルツイン
製造業のデジタルツインを実現するシステム「Geminant(ジェミナント)」(注3)は協業を進める三井E&Sシステム技研株式会社(MSR)主催の「MSRソリューションフェア2023」へのデモ出展等複数のPoV(注4)案件に取り組みユースケースの具体化と社外公開を進めております。同様にIoX(注5)関連技術・エッジ技術につきましても実案件への適用を進め、画像解析基盤アーキテクチャやデータ取り込みロジック等の拡張やリアルタイム映像解析デモ環境等の整備が進んでおります。
アンビエント技術(注6)につきましては、HCMIコンソーシアム(注7)と共同で「溶接技能伝承」をテーマとしたVR(注8)溶接シミュレーターの研究開発を行っており、溶接VR訓練システムを開発しました。生成AIを活用した対話型リコメンデーションシステムのデモ環境の整備も進んでおります。
最適化技術及びシミュレーション技術(注9)につきましては、日本製鉄㈱等の実フィールドへの適用と検証を行いつつ、研修やワークショップ等で人材育成に注力(50名以上を育成)しております。新たに、Geminantとの連携を前提としたシミュレーション機能とのセットで効果を発揮する最適化モデルの開発にも着手しております。
プライバシー保護技術を中心としたデータセキュリティにつきましては、特に秘匿性の確保とデータ活用の両立を実現する匿名加工技術に関して、加工や安全性/有用性検査の自動化について実装が進み、製薬業界を中心とした現場に適用されております。新たに、社会課題解決に向けて欧州や日本で注目されている「データスペース」(注10)について研究開発に着手しております。
(2)未来目標2:業務を理解・実行できる人工知能
生成AIは、ChatGPT(注11)にて利用される等、世の中で急速に活用と議論が進んでおります。顧客要求に基づく案件支援を多数行いつつ、当社内のサービス開発や他の研究テーマへの適用等実用化を進めており、並行して特許等の知的財産化を進めております。
そうした人工知能(AI)技術は、自然言語だけでなく、画像・ビッグコードを含むマルチモーダル(注12)なドキュメント処理モデルでは、オープンなモデルの検証と活用に加え、独自データセットと基盤モデル(注13)の開発を行っております。文章の意味を理解し、同時に画面レイアウトを理解するマルチモーダルなAI技術を用いて、Web画面テスト自動化AI「Curatis(キュラティス)」を開発し、実証実験と実用性向上を進めておりますが、これにより、システムの素早い提供と工数の大幅な削減に貢献します。
AIによる開発プロセスの改善や人材育成にも取り組んでおります。育成コンテンツを整備して実践的なデータ分析ワークショップを行う等この分野の戦力強化にも取り組んでおります。
(2023年度の主なコンペティション成績)
データ分析世界大会“Kaggle”「BirdCLEF 2023」で1,209チーム中 第6位に入賞 Gold Medal獲得
データ分析世界大会“Kaggle”「LLM Science Exam」で2,662チーム中 第7位に入賞 Gold Medal獲得
データ分析世界大会“Amazon KDD Cup 2023”で451チーム中 第6位に入賞
(3)未来目標3:サステナブルな企業情報システム
この目標は、環境変化に対して柔軟に対応できるように最新技術の活用によって、システム自体のサステナビリティを担保しながら、サステナブルな社会やビジネスを支えるシステムの実現を目指すものであります。
開発プロセスにつきましては、データドリブン(注14)なプロジェクト管理をプロアクティブに行うために「プロジェクト状況可視化ダッシュボード」の実案件への適用を開始しております。また、様々なユースケースや作業を対象に生成AIの適用可能性検証を開始しております。
システムの設計ノウハウの展開に対しては、クラウドネイティブ技術(注15)のデザインパターン(注16)を整備し複数の実案件に適用しております。国内においてもクラウドネイティブ技術を採用するプロジェクトのすそ野が広がりはじめており、戦力強化のための人材育成として130人を超える受講者を輩出しております。
今後の企業情報システムでは、アジリティを重視するDXと、品質や安定性が重視される基幹系を含む既存の情報システムにおいて、一見相反する要求を両立しなければなりません。それらのエンタープライズレベルでの統合を実現する組織分担・開発プロセス・システムアーキテクチャの研究開発を進めております。
(注1) デジタルツイン:工場の設備・製品等の実世界のオブジェクトをデータとしてデジタルな空間に転写・再現することで、リモートからの監視・制御や、過去の状況の再現・未来の予測シミュレーション等を可能にすること。
(注2) 生成AI:深層学習や機械学習の手法を駆使し、人が生成するようなテキスト、画像、音楽、ビデオ等のデジタルコンテンツを自動で生成するAI技術。後述の注13「基盤モデル」によって実現されており、注11「ChatGPT」もこの一種。
(注3) Geminant(ジェミナント):当社が開発したデジタルツイン可視化のためのプラットフォーム及び部品群。
(注4) PoV:価値実験(Proof of Value)
(注5) IoX:機械・部品が互いにつながる「IoT(モノのインターネット)」と、ヒトがIT武装によって互いにつながる「IoH(ヒトのインターネット)」が、高度に連携・協調することにより大きな成果を出すコンセプト。
(注6) アンビエント技術:環境に溶け込み、ユーザーが促さなくてもいつでも支援を提供できる技術。
(注7) HCMIコンソーシアム:産業技術総合研究所の産学官連携プラットフォーム。
(注8) VR:仮想現実(Virtual Reality)。
(注9) シミュレーション技術:合理的に最適条件を導出する技術をコンピュータ上でシミュレーションすること、実験や試験と比較して、時間やコストを抑えられる場合が多く、有用な技術。
(注10) データスペース:デジタル社会で不可欠なデータに注目した概念で、異なる組織・国・エコシステム・異業種等の間で、信頼性を確保しながらデータを共有するための標準化されたルールや仕組み。
(注11) ChatGPT:OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボット。
(注12) マルチモーダル:複数状態、複数形式等を意味し、例えばマルチモーダルAIでは数値、画像、テキスト、音声等複数種類のデータの組み合わせを処理できる単一のAIを意味する。
(注13) 基盤モデル:大量で多様なデータを用いて訓練され、様々なタスクに適応(ファインチューニング等)できる深層学習モデル。
(注14) データドリブン :収集した様々なデータをもとに意思決定を行う手法。
(注15) クラウドネイティブ技術:クラウドの提供する機能を徹底的に活用して、スケーラブルで信頼性・回復性のある疎結合なシステムを開発する設計技術。
(注16) デザインパターン:ソフトウェア設計において過去に編み出した設計ノウハウを蓄積し、再利用しやすいように特定の規約に沿ってカタログ化したもの。
2022年3月 | 2023年3月 | 2024年3月 | |
---|---|---|---|
研究開発 | 1,942 | 2,320 | 2,405 |
売上対比 | 0.7% | 0.8% | 0.8% |