繰り上げ返済の2つのタイプ

住宅購入は人生の中で最も大きな買い物の一つといわれています。金額が大きいことから、ローンを組んで数年かけて返済していく「住宅ローン」を利用する方が多いかもしれません。しかし、もし自己資金に余裕ができた場合などは、通常の返済とは別に、余裕資金によってローン残高の一部を繰り上げて返済することができます。これが繰り上げ返済です。

繰り上げ返済をすることで、ローンの返済期間を少なくしたり、利息の負担を少なくすることが可能になりますが、主に住宅ローンの繰り上げ返済には、2つのタイプがあります。

1つめが、「期間短縮型」と呼ばれる繰り上げ返済で、毎回支払う返済額を変えずに、残りの期間を短くする返済方法です。2つめは「返済額軽減型」で、残りの期間は変えずに、毎回の返済額が少なくなる返済方法です。

一般的には返済期間が短くなる「期間短縮型」の繰り上げ返済を利用する方が多いとされていますが、期間短縮型と返済額軽減型にはそれぞれ特徴がありますので、資金や目的によって上手に選ぶようにしましょう。

繰り上げ返済の意味とメリット

それでは次に、繰り上げ返済のメリットについて紹介します。メリットとしては、主に以下の3つとなります。

  • 繰上げる時期が早いと、負担額が大幅に減る。
  • 金利が高いほど得をする。
  • 家計が安定する。

まず最初に、繰上げ返済を行う時期についてですが、ローンが実行されてから早いタイミングで繰り上げ返済をすることで、メリットが大きくなるといわれています。ローン開始時は家計に余裕がないことが多いかもしれませんが、繰り上げ返済をする場合はなるべく早く実行することで、カットできる利息が大きいのが特徴です。

また、短縮できる期間も、1年目に繰り上げ返済をした場合と、10年目に繰り上げ返済をした場合とでは、短縮できる期間が異なります。繰り上げ返済を検討している場合は、タイミングも重要であることを覚えておきましょう。

次に挙げられるメリットとしては、住宅ローンの金利が高いほど、繰り上げ返済はメリットが大きいということです。例えば、期間短縮型の繰り上げ返済をした場合は、期間が短くなることで利息軽減効果が大きくなるだけでなく、定年後まであったローンの返済も、定年前までに完済して早めに老後資金への貯えにまわすことができます。

さらに、もし返済額軽減型の繰り上げ返済をした場合は、毎月支払う額が少なくて済むため、月々の家計が安定するといったメリットがあります。子どもの教育費や生活費などで出費がかさむ時期や、収入が減った場合の経済的負担を少なくすることができますし、少しでも自己資金を増やしたい場合は貯金などの貯えにまわすことができます。

返済期間短縮型

それでは次に、繰り上げ返済の「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」についてそれぞれ紹介します。まずは、返済期間短縮型についてです。

返済期間短縮型

前述した通り、返済期間短縮型で繰り上げ返済をした場合は、毎月支払う返済金額に変わりはありませんが、返済期間が短くなるため、短縮された期間の間に支払う予定だった利息が軽減されることになります。同じタイミングで、返済額軽減型の繰り上げ返済を行った場合と比較すると、利息軽減効果は期間短縮型の方が大きいという特徴があります。

借入金額:2,500万円
返済期間:35年
借入金利:3%

例えば、上記のように住宅ローンの借入金額が2,500万円で、適用される金利が全期間固定で3%だとします。最初は返済期間を35年間と設定してローンを組み、返済の途中で100万円の返済期間短縮型の繰り上げ返済をすると仮定します。この条件で概算した場合、返済期間1年後に繰り上げ返済をした場合の利息軽減効果は約167万円、5年後の場合は約140万円、10年後の場合は約110万円ほどとなります。

ローン返済をなるべく早く終わらしたいという方や、利息を効率的に減らしたいという方には、返済期間短縮型の繰り上げ返済がおすすめといえるでしょう。しかし、ここで注意したいのが、繰り上げ返済でいくら返済するかによっては、期間が短くならない場合もあることです。数十万円の繰り上げ返済の場合は、事前にどれくらい期間が短くなるかなどを確認するようにしましょう。

返済額軽減型

次に、返済額軽減型の繰り上げ返済の特徴について紹介します。返済額軽減型とは、住宅ローンの返済期間は変わらないものの、毎月支払う返済額を引き下げる返済方法で、期間短縮型と比べると利息軽減効果が少ないですが、毎月の返済額が少なくなることで、家計を安定させることができます。

返済額軽減型

住宅ローンの返済は長期間行われるものですので、計画的に資金を使ってきたい方は毎月の返済額を減らすことで、病気や災害などのリスクに備えることができます。また、将来万が一支出が増えてしまう場合に備えて、返済額を少なくしたり、変動金利などの金利上昇で返済額の上昇に備えるためにも、返済額軽減型は効果的といえるでしょう。

返済期間短縮型と返済額軽減型のシミュレーション

それでは、実際に返済期間短縮型と返済額軽減型のシミュレーションを行い、比較してみましょう。条件は以下の設定で、それぞれいくら節約になるのかを概算します。

借入金額:3,000万円
返済期間:30年
借入金利:3%

例えば、上記のように3,000万円の融資を、30年間3%の金利で借り入れると仮定します。この場合は、毎月支払う額は12万6,481円となり、30年のローンなので、全部で360回支払うことで、3,000万円を返済できることになります。さらに、毎月の支払額に360を乗じると、合計は4,553万円となるので、利息は全部で1,553万円という計算になります。

借入額3,000万円、金利3%、返済期間30年、ボーナス払いなし 3回目の支払い時に100万円を繰り上げ返済した場合

期間短縮型 返済額軽減型
利息軽減額 約137万円 約51万円
期間短縮月数 1年10カ月 -
毎月返済額 105,401円(±0) 101,163円(▲4,238円)

毎月支払う金額は、元金返済分と利息の2つで構成されていますが、元金返済分をいくら支払ったかにより、ローン残高が減る仕組みとなっています。ここで、もし3回目の支払い時に繰り上げ返済として100万円を支払った場合は、当然ながらローン残高も100万円少なくなります。

利息軽減効果は期間短縮型の方が大きいことが分かりますが、毎月支払う金額が減り、かつ利息軽減効果がある返済額軽減型も、経済的負担のメリットは大きいといえます。

返済期間短縮型と返済額軽減型、それぞれの向いている人

返済期間短縮型と返済額軽減型ですが、それぞれ、どんな方にとってメリットがあるのでしょうか。まずは返済期間短縮型ですが、以下の条件に当てはまる方は、検討をおすすめします。

  • 定年までに住宅ローンを終わらせたい。
  • 老後の生活資金を増やしたい。

30年以上の長期間ローンを組んだ場合は、借入時の年齢によっては定年後まで返済が続く場合があります。定年後は収入も不安定となりやすいため、退職金などでまとめて返済するという選択をする方もいるかもしれませんが、転職などをした場合は、想像していた退職金がもらえないという可能性もあります。また、退職金をローンの返済に充ててしまうと、老後の生活資金に影響を与える可能性もあります。

定年までにローンを終わらせたい場合は、期間が短くなる「期間短縮型」の繰り上げ返済を行うことで、定年後の負担を軽減することができます。また、老後の生活資金を少しでも多く貯えたい場合は、返済が早く終わることで定年前の間に貯金をしやすくなります。

例えば35歳で3,000万円の住宅ローンを35年の返済期間で組んだ場合は、70歳まで続く住宅ローンを途中で繰り上げ返済することで、60歳までにローンを終わらせることが可能になり、利息軽減効果で将来の経済的負担も少なくて済みます。

次に、返済額軽減型の繰り上げ返済ですが、以下の条件に当てはまる場合は、こちらの方法を検討するのがいいでしょう。

  • 子どもの教育費や生活費などに備えるために、家計を見直したい。
  • 金利が上昇した場合の返済額増加を抑えたい。

住宅ローンを返済中に、子どもの教育費で支出が増えたり、収入が減ってしまったりと、家計の変化によって従来の返済額では負担が大きいというケースも出てくるかもしれません。支出を少しでも抑えたい場合は、返済額軽減型の繰り上げ返済を利用することで、支出が増えた場合の負担を軽減することができます。

また、もう一つの返済額軽減型のメリットとしては、金利が上昇した場合に返済額が増えるのを抑えることができる点が挙げられます。変動金利型や、固定金利期間選択型のローンの場合は、金利の変動によっては毎月の返済額が増えてしまうことが考えられます。そこで、返済額軽減型の繰り上げ返済を行うことで、金利が高くなる前と同水準で返済することが可能になり、支出を抑えることができます。

繰り上げ返済を行う上手なタイミング

繰り上げ返済を行う場合は、どのタイミングで返済を行うことで、より効果的に負担額を軽減することができるのでしょうか。住宅ローンは期間が長ければ長いほど、負担する利子が大きくなりますので、早い時期からこまめに繰り上げ返済をすることで、利息を多く減らすことが可能になります。

しかし、ここで注意したいのが、住宅ローン控除と繰り上げ返済の関係です。年末時の住宅ローン残高の1%が、住宅ローンの控除限度額として設定されているため、繰り上げ返済を行うことで、年末時点での住宅ローン残高も少なくなり、戻ってくる額も少なくなります。

したがって、年末よりも年明けに繰り上げ返済を行うことで、利息の軽減率が高い可能性があるため、事前にシミュレーションをして確認するようにしましょう。

タイミングごとにシミュレーションして比較

繰り上げ返済を行うタイミングですが、まずは以下の条件で借入時から10年後に200万円の繰り上げ返済を行った場合と、20年後に200万円の繰り上げ返済を行った場合の利息の軽減効果と返済期間の短縮効果をまとめてみました。

借入金額が3,000万円、金利1.5%、ボーナス加算なし、返済期間35年、 期間短縮型の繰り上げ返済を利用した場合

タイミングごとにシミュレーションして比較

条件:住宅ローンの借入金額が3,000万円で金利1.5%のボーナス加算なし、返済期間が35年で期間短縮型の繰り上げ返済

(1)10年後に200万円の繰り上げ返済を行った場合
総返済額:3,860万円 → 3,770万円
利息:約85万円の軽減
住宅ローンの返済期間:2年8カ月短縮

(2)20年後に200万円の繰り上げ返済を行った場合
総返済額:3,860万円 → 3,810万円
利息:約46万円の軽減
住宅ローンの返済期間:2年3カ月短縮

上記の結果からも分かるように、繰り上げ返済は早い時期に行うことで、経済的負担を抑える効果が大きいことが分かります。

繰り上げ返済よりも住宅ローン控除がお得な場合

住宅ローンは10年以上の返済期間がありますが、早い時期に繰り上げ返済を行うことで、利息軽減効果が高いといわれています。しかし、住宅ローンの借り入れ金額や金利、繰り上げ返済の金額、契約者の年収などの条件によっては、繰り上げ返済を行うメリットが少なくなる可能性もあります。繰り上げ返済を行う前に、まずは繰り上げ返済と住宅ローン控除を比較し、繰り上げ返済自体を検討することも大切だということを覚えておきましょう。

繰り上げ返済と住宅ローン控除をシミュレーションして比較

では次に、繰り上げ返済と住宅ローン控除をシミュレーションし、どちらが経済的負担効果が高いのか比較してみましょう。住宅ローンの借入金額が多かったり、金利が高い場合は、早い時期に繰り上げ返済をすることで負担を軽減することができますが、一方で、以下のように金利が低い場合などは、住宅ローン控除適用期間中に繰り上げ返済を行わなくてもいいケースがあります。

条件:借入金額3,000万円、返済期間が35年、金利が変動金利で0.675%の場合

1年目から年間50万円を
10年間繰り上げ返済した場合
繰り上げ返済を行わず、
住宅ローン減税を優先した場合
住宅ローン減税
の合計
230万円 257万円
利息軽減額 100万円 100万円
合計 合わせて330万円軽減 合わせて335万円軽減

金利が低いときは住宅ローン減税を利用したほうが軽減できる。

(1)1年目から年間50万円を10年間繰り上げ返済した場合
利息軽減額:100万円
住宅ローン減税の合計:230万円
合わせて330万円節約

(2)繰り上げ返済を行わず、住宅ローン減税を優先した場合
利息軽減額:78万円
住宅ローン減税の合計:257万円
合わせて335万円節約

利息軽減効果は繰り上げ返済の方が高いものの、住宅ローン減税効果は繰り上げ返済を行わない場合の方が高いことが分かります。このように、低金利の場合は繰り上げ返済のメリットが少なくなる可能性がありますので、事前にしっかりと比較検証することで、繰り上げ返済を有効的に使えるか、そうでないかの判断をすることができます。

※借入金額3,000万円、金利1.5%、35年返済の場合。

1年目から年間50万円を
10年間繰り上げ返済した場合
繰り上げ返済を行わず、
住宅ローン減税を優先した場合
住宅ローン減税
の合計
234万円 262万円
利息軽減額 246万円 189万円
合計 合わせて330万円軽減 合わせて335万円軽減

金利が高い場合は早めから繰り上げ返済したほうが軽減できる。

繰り上げ返済をする際の注意点

繰り上げ返済を行うことで、利息軽減効果を得ることができるほか、定年後までのローン返済期間を短縮し、早めに老後資金の準備をすることができることが可能になります。しかし一方で、繰り上げ返済をする際にも注意点があります。

繰り上げ返済をするということは、まとまった資金を支出することですので、家計が苦しくなってしまうことも考えられます。繰り上げ返済を行う際は、計画的に実行することを心がけ、予備費などについてもしっかりと考えることが大切です。

家計が苦しくなる

例えば、返済期間短縮型の場合は、利息の負担を減らすことができますが、月々の支払いは変わりません。急な出費があった場合に備えて、ある程度貯蓄をしていないと、家計が苦しくなってしまうことも考えられます。そのため、生活費や教育費などの兼ね合いも考慮して、繰り上げ返済を行う必要があります。

また、繰り上げ返済を行うことで住宅ローンの返済期間が10年未満になってしまうと、住宅ローン減税の適用がなくなってしまいます。住宅ローン減税の控除がなくなることで、家計の支出が多くなり、収入面で不安を抱える可能性もあります。住宅ローンは他のローンと比べると金利が低く設定されていますが、手元資金が不足してしまうかもしれません。生活が苦しくならないよう、繰り上げ返済のメリットとデメリットの両方を考慮した上で、長期的な資金計画を立てるようにしましょう。